日々のあぶく？

平凡な高校生・優は同じ陸上部の洋介、カープ入団を目指す誠一、と共に「トラウマ」をつくることにする。
大人しく地味だった入学時から、精神不安定になって暴れ、退学した久保田まゆみ。
"自分達の仲間に入りたかったのに、遠くから見るだけで願い叶わず死んでしまった"という設定のもと、彼女の墓を作る。
まだ死んでないかつての同級生「トラウマ・まゆみの墓」、
その前でなら三人は驚くほど素直に、真剣に語り合うことができた。

ある日、その当人・まゆみがこの街に帰ってきた。
しかも、彼女の記憶の中で優は「恋人」、優の幼なじみで学校中の尊敬を集めるしっかり者の紀子が地味なまゆみのポジションに摩り替わっていた。
いまだ精神的に不安定のまゆみのために嘘に付き合い「幻想・優」となる。
尊敬は集めても輪には入れない、友達がいない紀子は、まゆみの設定の中の自分を本物にするために、彼女と行動を共にし、学校にも来なくなる。

夢に敗れる友人、現実を見据えて就職する友人、共に受験に苦労する友人―
まゆみ・紀子に翻弄されながら、迷いふらつきながらも前に進む高校最後の年。

"お話"のような劇的な変化、事件のない日常、「普通」にコンプレックスを感じることは珍しくない。
そんな中で作った「幻想」が「現実」とぶつかったら？
「幻想」に付き合いながらも終わりが来ることが分かっている優と、
「幻想」の中で生きようと必死に綻びをつくろい続ける紀子、
自分の記憶が「幻想」だったらと怯えるまゆみ、
三人のそれぞれの思いが切ない。
重松清の小説デビュー作。