カテゴリ:本
怒りも悲しみも静かに朽ちてゆく不思議な場所、美奥が紡ぐ物語―
誰でも気軽に入れるわけではなく、そこにいればいるほど異質になる場所で紡がれる物語なのだが、 「夜市」(と風の古道が入った著者初の単行本)を越えはしない。 ~ネタバレメモ~ ・けものはら 友人・椎野春(中3)が姿を消した。 雄也は幼い頃、彼と一緒に足を踏み入れた不思議で畏怖を感じさせる場所<けものはら>に 春を探しに行く。母親を殺してしまった春はそこにとどまり、異質なものに段々姿を変えていく。 <けものはら>のモノと人のすむ世はどこかずれていて、 見えるものも違えば、お互いが触れあうことの出来ない場所だという設定が その存在を象徴している。 ・屋根猩猩 尾根崎地区を通りかかった藤岡美和は、彼女の事を知る見知らぬ少年・タカヒロに声をかけられる。 少年は現在、この地区の守り神である屋根神なのだという。 不審に思う美和だったが、彼は屋根を伝い、尾根崎地区の家に自由に出入りし、 諍いをおさめ、困っているものを助けていた。 大きなおせっかいに見えるときもあるが、彼女の直面した問題も解決した。 そして―内容も分からぬまま幼い頃に予約した次期屋根神に美和がなるのだった。 核となる猩猩は別にいて、かつて美和が出会った少年・ショウタである。 ひとり残されたものが屋根神になってしまい逃げられないという怪談話のような設定かと思いきや、 ショウタのもとで屋根神となった美和はそんなことを気にならない意識にされている。 猩猩は象徴であり、実際働くのは屋根神といったところか。 ・くさのゆめがたり 山中で暮し、叔父にあらゆる毒や薬について学んだ少年は叔父を毒殺。 山中で出会った僧侶について里に降り、天狗の子の様だからと"テン"と名付けられた。 里のために時々薬を調合したりしていたテンだったが、 世話になった僧侶の家族で彼が憧れていた女性が権力者の手の者に攫われ、殺された事から 権力者らを毒殺、彼女を生き返らせるための幻の薬"クサナギ"を調合する事を決意する。 だが、出来上がったクサナギは死者を生き返らすものではなく、 生死を越え、転生、もしくは転成(別の生き物、姿、性質の違ったものになる)させるもので テンが叔父を毒殺するきっかけとなった「おまえは熊から産まれたのだ」という言葉は真実だった― テンはクサナギを里にばら撒き姿を消す。 クサナギをばら撒かれた里のその後が"美しい山奥によく似た場所"=美奥。 クサナギはその後、性質を少し変えて一部が<けものはら>になったのだろうか? ・天化の宿 両親の不和からあてもなく歩き出した望月ゆうかは不思議な双子に導かれ 「苦解き盤」で"天化"することに。複雑怪奇で不思議な世界観を持つゲーム「天化」。 のめりこむゆうかだったが、苦解きが成功した者はその瞬間に死を迎えることに気付き逃げることに。 怪談の「山姥」をもちいて逃げるゆうかを追う親分(鬼)だが、彼女を逃がす優しさを持っている という設定が何だか好きだった。 苦しみは解き放たれず戻ってくるが、ゆうかはその中で生きていくことに。 ・朝の朧町 W不倫の末の殺人事件により居場所を失った香奈枝を家においてくれた長船。 死期が迫った彼は彼が管理者となっている不思議な町と不思議な液体を私に託した。 不思議な液体=クサナギ トロッコと不思議な双子(天化の宿)もでてくる。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
January 4, 2009 10:53:41 PM
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