カテゴリ:本
こちらも架空の設定が多用される短編集だが、
現実にある概念というか、問題に通じるものがある。 奥底に流れるものは深いが、ちょっぴりとっつきにくい話もある。 ・七階闘争 七階で事件が多発した為、私の住む街では七階が撤去されることが決定された。 何気なく七階に住んでいた私は、気になる女性が七階を守る運動をすることから 七階護持闘争に一緒に参加することに。 無関心な対象に対する理解の拒絶、無意識による隔絶、人の悪意の集積による嫌がらせなどを経て、 結局、七階は撤去される。 私は他階に移り住んだが、最後まで運命をともにした女性は七階とともに消滅する。 その後、今回の騒動である七階撤去が仕組まれていた可能性を知った私は、 失って初めて彼女が守ろうとしていた、かけがえのない七階を感じた。 そして、別の街で起こった七階護持闘争に参加することに― 反対運動のひとつにある、新築物件の他階に「七階」だと思い込ませるものがある。 「刻まれた明日」の道守など、モノに概念を植え込んで安定させるという発想が三崎氏の根底にあるのだろう。 無関心な対象に対する~というくだりはさまざまなところであることだろうな。 ・廃墟建築士 人の不完全さを許容し、欠落を充たしてくれる、精神的な面で都市機能を補完する建築物であり、 都市の成熟とともに、人の心が無意識かつ必然的に求めることになった「魂の安らぎ」である廃墟。 廃墟建築士(初めから廃墟にするために計画して建てる。人は住まない)である私は愚直に廃墟を作る。 国際的にはまだ三流評価の日本の廃墟だが、周囲の理解を経て、少しずつ増やしていく。 かつて育てた男が独立した後に廃墟事業を拡大するが、偽装が発覚。 偽装の再発防止策に奔走した私は、廃墟建築士を目指したきっかけの連鎖廃墟を妻と訪れ、 これからはここで働く決意を妻に告げる。 安全、規則を破っても事業を大きくし、派手に見せる側、 地味でも愚直に作る側、これは色々なところに変換して考えられる。 ・図書館 田舎の図書館の夜間開館の依頼を受け、派遣されてきた私。 図書館調教マニュアルにより「仕事」、図書館の意識をさぐり、声なき対話をする。 夜間だけ野性を取り戻す図書館は、かつて「本を統べる者」と呼ばれ、多数の本を引き連れて世界の空を回遊していた。 それが組織的に本を略奪する狩猟者の跋扈により、絶滅の危惧に瀕し、多くが憤死。 その状況を憂いた賢帝により、人間の知の欲求に応える代わりに、生命を脅かされぬ補償を得、 建物に囲い込まれ、「図書館」と呼ばれるようになったのは今から800年ほど前のこと。 そんな「図書館」も夜には「野性」を取り戻し、本は飛翔する。 時に人を襲うこともある図書館の意識をさぐり、時には調教、誘導し、夜間開館に導く。 夜間動物園の図書館バージョン。だが、安易に考える依頼主、 危険を軽視し、野心をもった館員の勝手な行動により、本が暴走。 それを鎮めたのは社長だった。 地につながれ、奪われてもなお、静かに牙を研ぎ続ける。 利益や自尊心の為、「野性」を軽視した代償は大きい。 ・蔵守 何があっても蔵を守る。それが蔵守。 システムと伝統のはざまに立たされ葛藤したり、 中身が空だと知ってもなお、プライドを持って職務を全うする蔵守。 人間と蔵自体、それぞれの蔵守のそれぞれの戦いが描かれる。 無意味に見える職務にも意味があること、 だが、視点を変えるとそれは仕組まれたものである時があること、 人為的に破壊されたもののなかには取り戻せないものがあること、 物語の奥底に流れる意味は深い。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
September 8, 2009 09:39:13 PM
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