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ken tsurezure

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trainspotting freak

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2005.06.25
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テーマ:音楽日記♪(260)
カテゴリ:音楽あれこれ
 昨日の夜彼女は僕の部屋から出ていった。彼女とは十二年間同棲を続けていた。十二年間僕と彼女は離れることがなかった。それが突然壊れてしまった。彼女は僕を置いてどこかへ行ってしまった。
 何がきっかけで彼女と出会ったのか。どうやって彼女との付き合いが始まったのか。そんなことは今となってはどうでもいい。偶然が二人を結びつけた。それだけだ。それよりも僕らが十二年間積み上げていった生活の方が重要だ。
 十八の時の僕らは似たものどうしだった。二人とも夢しか見えなかった。僕は音楽ライターを目指して文章を書きなぐり続け、そんな僕を彼女が支えて続けてくれた。彼女は言っていた。夢を追って走っているあなたが好きだと。たとえ豊かな暮らしはできなくても、そうやって夢を追い続けるあなたがあなたで要る限り、あたしは決してあなたを見捨てたりしないと…。
 思い悩む夜もあった。喧嘩をした時だって何百回とあった。でも僕らは決して離れることはなかった。僕らにとっては夢が全てで、それさえあれば何も怖れることはなかった。だけど。今から思い返すと、それは単に僕らが若かったから許されたことだった。

    *           *              *

二九になっても僕はまだ単なる「どこでもない人」に過ぎなかった。僕の書く文章のほとんどは金にならず、生活のために十二時間以上労働を続ける毎日がいつものように過ぎて行った。そんな労働に疲れて部屋に戻ると、何もせずに寝るしかなかった。文章なんてほとんど書けなかった。書く暇もなかった。
 そんな僕を見て彼女は怒った。あなたの目標は何なの?あなたは何のために生きているの?そんなことだから、あなたの文章を読む人なんてどこにもいないし、金にもならないのよ。あたしはそんな自堕落な男と一緒になるために今まで生きてきたのではないのよ。と。
 昨日の夜今までにない大喧嘩をした。それは決定的な出来事だった。家賃を払い、飯を食うためには働かなくてはならない。働けば書く時間がなくなる。だからどんどんと自分が書く文章の質は落ちていく。
 そんなのは言い訳にしか過ぎない。あなたは自分を誤魔化しているだけよ。夢を追う夢を追うって言うけど、現実を見てみなさい。今のあなたは単なる使い捨て労働者でしかないわ。あなたいつまでこのままでいるつもり?あなた本気でここから脱出する気はあるの?
 最近僕の目の輝きが消えた。彼女が出て行く半年くらい前にそんなことを言われた。何かをあきらめたような顔をしている。それにあなたは気付かないの?そう言われて、その時僕は鏡を見た。そこには歳月を重ねて、十八の時とは違う自分がいた。毎日の労働で疲れきった顔。若さを失い、覇気をなくしてしまった僕の顔。彼女の言う通り、僕は何かをあきらめてしまったのだろうか。どこかで何かをなくしてしまったのだろうか。

   *           *           *

僕の部屋には同じCDが二つある。それはブルーハーツのファーストアルバムと真島昌利(マーシー)のファースト・ソロアルバム『夏のぬけがら』。僕と彼女が出会う前に、僕らが違う場所でそれぞれに買ったCDだ。
 最近のあなたって「さよならビリーザキッド」のようよ。彼女はよくそんなことを言った。マーシーはギターで世界には向かい、僕はペンで世界と闘った。まるで自分がビリーザキッドのように。でも結果は決まっている。僕はあまりにも無力で小さすぎる。それに比べると世界の方がもっと残酷でしたたかだ。理想を切り売りして生活を繋いでいる僕は多分負けたのだろう。僕はただ、それを認めたくないだけだ。
 夢を持っていた僕が間違っていたのだろうか。自分を信じてしまった僕が謝りだったのだろうか。
 ある夏の夜、初めて結ばれた僕と彼女は嵐の中の恋人だった。今この瞬間こそが大切で、過去も未来も重要ではなかった。それなのに今という瞬間はすぐに過去となり、古ぼけた記念写真のようにあっという間に色褪せてしまう。
 そんな切なさをマーシーは「夏のぬけがら」で表現した。そこには砂を噛むような苦々しさが刻み込まれている。なぜ「いま」は過去になってしまうのだろう。なぜ「夢」はこんなにも脆く壊れてしまうのだろう。そしてそのあとも僕らは生き続けなければならない。たとえ夢が壊れようとも、何かをあきらめてしまったあとも…。多分、「その後」の人生のほうが長いのだ。たとえ辛くても、たとえそれがくだらないように思えても、僕らは「その後」を生きなければならない…。

     *           *           *

彼女が出て行ってしまった後、『ルーレット』を聞いた。自然に涙がこぼれてきた。わかれる必然性のない恋人どうしが、運命のいたずらで別れてしまう。そんな歌だ。
   ルーレットが回るように 毎日が過ぎて行くんだ
   何にどれだけ賭けようか 友達 今がその時だ
                      『ルーレット』
 それは彼女からの最後のメッセージだった。僕は多分「夢のあと」の残務処理に今後の人生を追われることになる。それが終わるのはいつのことなのか。終わった後に何が残るのか。今の僕には想像すらできない。
 だけどもう逃げることはできない。彼女が言う通り「友達 今がその時だ」。





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Last updated  2005.06.25 20:54:26
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trainspotting freak@ Re[1]:世界の終わりはそこで待っている(06/19) これはさんへ コメントありがとうござい…
これは@ Re:世界の終わりはそこで待っている(06/19) 世界が終わるといってる女の子を、「狂っ…
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