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カテゴリ:読書
これは「本が好き!」から頂いた本なのだが,いや,これは大当たりの本.Kentが元てっちゃんで,現在もやや鉄分多めということもあるのだが,それを差し引いても良くできた本だ.
まずは,そのデータ量に驚く.なにせ情報量の少ない国であるし,資料の持ち出しが厳しい状況の中,良くこれだけの資料を集められたモノだと感心する.著者あとがきに寄れば,執筆の切っ掛けとなったのは2002年度版時刻表ということだが,それをスタートに様々な資料を集め,また,直接彼の国に赴き見聞きしてきた情報収集と「推考」は,資料としても読み物としても充分に楽しめる.さらに,車両の写真やスケッチ,切手のイラストなども鉄分多めの人間にはかなり楽しめる. また,地理屋としては,路線図が豊富に使われていることも嬉しい(^^) てっちゃんとしては路線図は基本なのだが,普通の人にはなかなかなじみがない地図かもしれない. そして,資料としてのこの本の圧巻の部分は,現地の映像を納めたDVDが付いていること.北朝鮮の風景を,しかも市民の普通の姿も写しこんだ動画が見られるということ自体も,この本を面白くしている. 惜しむらくは,資料の出典の明記が少ないことだ.このへんは,本書を「資料」として扱うか,「読み物」として見るかによっても違いがあるのだが,資料の少ない国の鉄道についてここまで整理した本が他にあるとは思えないので,あえて苦言を呈したい.本文中に記述されているさまざまな事実(著者が現地で集めてきた資料は別として,朝鮮半島鉄道史や全貌レポートなどは,すべてが著者オリジナルのデータではないだろう.このデータの出典が明記されていれば,本書の「資料」としての価値がさらに高まっただろう.「事実」と著者の「推考」が区別できるように記述されていればと思う. もう一点,これは近代東アジア史に対する史観の問題とも関わる点だ.朝鮮半島の鉄道をはじめ,インフラストラクチャーや鉱工業の基礎は,日本の占領下で培われたことは事実である.本書の中で繰り返し,「北朝鮮の路線網の実態は,もともと日本が作り上げたものであり,北朝鮮はそれをトレースしているに過ぎない」という意図の記述が見られる.これはある一面では事実であることは確かである.台湾などでは,その面が積極的に評価されている部分もある.が,これらの鉄道や工場・鉱山は朝鮮のために建設されたモノではなく,あくまでも日本の占領政策の一環として日本のために作られた・計画されたモノであることを押さえておく必要がある.この点に関する視座が見えれば,本書にもう少し深みがでたろうにとも思う. いろいろあれど,鉄道好きや北朝鮮に興味がある人には,本書は買いでしょう.楽しませていただきました. 将軍様の鉄道 北朝鮮鉄道事情
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Last updated
2007.03.05 10:51:07
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