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倶楽部貴船

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お菊人形 -12-


「よし、わかったよ」
それまで黙っていた、色の白い男の子が、低い声で言った。
「お前、川には川の神がいると思うんだな?」
「うん、いる、いるよ。きっと」
「そうか、それなら、川の神をここへ連れてこい。」
「連れてくるの?」
「そうさ。いるんだろう? 大西川の神様って、どんな神だんだろうなあー」
低い声は、お菊の胸にずんと響いた。
「連れてきたら…」
お菊は、その子の目を見た。
「連れてきたら、大西川はみんなの川だって事にしてくれるんだら?」
「ああ、してやるさ。神様にウソはつけない。
神様の前で、大西川は、みんなで大事にしますって、オレ達も約束するさ。なあ」
「おう、する、する」
男の子達は、笑いながら口々に言った。
「わかった。じゃあ、連れてくる!!」
お菊は、そう言って背を向けた。

「どこへ行くんだ」
と聞かれて、
「大フチに行く」
お菊は静かに答えた。
「大フチ?あんな深いところ、お前じゃあ入れんぞ。
やめとけ、やめとけ。
大フチに行ったって、神様に会える訳じゃないぞ」
大フチと聞いて、男の子達は少しあわてた。
大人でさえも近づかないと言われている、深い、深いフチだった。
一年中、澄んだ水色の水面は、鏡のようにおだやかで
いつも、ぶきみなくらい、静まりかえっている所だった。
大フチには、水神様が住んでいらっしゃると伝説はあったが
誰も近よる人がいないので、神様をちゃんと祭ってあるかどうかも、わからなかった。
「大フチに行く」
お菊はもう一度言った。妙ちゃが、
「菊ちゃ、帰ろう、もう、帰ろう」
と、何度かつぶやいた。
「妙ちゃ、大フチに行かんならんの。
神様に会って来るで、待っとってな」
お菊は、ぐんぐん土手を上がった。
─12─

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