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倶楽部貴船

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お菊人形 -8-




「大西川か…川東のしゅうが来とるといやだなあ」
お菊が小さくつぶやくのを聞いた妙ちゃは
「だいじょうぶな。いつもよりちょっと上のいいとこ見つけたんな。
おとうちゃも、
『こりゃあいい深さで泳げるぞ』ってほめてくれたとこがあるんな。
そこへ行かまい」
「妙ちゃ、一人でもわかるの?」
「うん、もう何回も行っとるの。すっごい、いいところ。な、行かまいか」
「じゃあ、行ってみるか」
お菊の一言に、妙ちゃは顔をくしゃくしゃにして喜んだ。
「やった、やったあ。早く、早くー」

外に出たお菊は、真夏の太陽にじゅっと焼かれるような気がした。
空には雲が一つもなくて、ぱーんとはじかれたような太陽が、うんといばっていた。
大西川の向こうの川東の家々は、キラキラを屋根を光らせて
夏の太陽と何か話しでもしているみたいに見えた。

「な、行こう!」
妙ちゃの手がお菊の手首をぎゅっとつかむと、意外な強さで引っぱった。
「うん、行こう!」
お菊も負けずに大きな声で答えた。おかあちゃの
「気をつけんなよ」
と声を背に、二人は大西川の土手をかけ出した。

土手の両側から伸びきった草が、ぼうぼうと二人の足に当たった。
「痛い!」
と言って草をけちらし
「痛くない!」
と言って走り出し
「止まれ!」
と言って、二人で立ち止まったり
お菊は、いつのまにか自然の中にすっかり心を開いていた。


─8─


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