お菊の競いで、枝がバチバチと折れる音が響いた。 「おい、チビ、待てよ!」 男の子達が、お菊の後に続いた。 妙ちゃは泣きながら、ころがるようにして、一番最後を入ってついて行った。 大フチは、真夏の光をいっぱい吸い込んで、ギラギラと水面をうねらせていた。 しーんと静まった大フチを前に、お菊は大きく息を吸った。 小さな肩がふわっと動いた。 「やめろよ!」 と声がかかった瞬間、お菊の身体は大フチの中にズズッと入っていった。 赤い着物がふんわり広がったかと思うと、たちまち見えなくなって あとは、小さな泡がプクプクと浮いてきた。 「おい、だいじょうぶか!」 「大人を呼んでこいよ!」 「無理だよ、今からじゃ、まにあわんよぉ」 男の子達は、ざわざわと動き出した。 「お前があんな事、言うからだぞ」 色の白い子を囲んで、 「お前のせいだ。チビがこのまま死んじゃったら、どうするんだよ」 「大フチで助かったヤツなんかいないぞ」 黙って聞いていた妙ちゃは、もうがまんできないという大きな声で、 「うわーん、わーん、きくちゃ、きくちゃ」 と泣き出した。 「おい、やっぱり大人を呼んでこにゃあ。どえらい事になっちゃうぞ」
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