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玉三郎さんの阿古屋

2007年 9月 歌舞伎座 秀山祭大歌舞伎 夜の部 

一、壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)阿古屋

遊君阿古屋  玉三郎             
榛沢六郎  染五郎            
岩永左衛門  段四郎           
秩父庄司重忠  吉右衛門


■秀山祭で「阿古屋」を観ました。

玉三郎さんは久しぶりです。

「阿古屋」目当てで行ったのに
汐汲の松風さんの美しさに圧倒されました。
在原行平を偲ぶ姉妹で、妹は福助さん。

二人で踊っていると玉三郎さんが
やっぱりお上手なのがわかってしまう。

あ、日舞的には詳しいことはわかりませんけど
玉三郎さんの役者魂を随所に感じたの。

たとえばね、汐汲みは文字通り
海で海水を汲むために桶を天秤棒にかけて
肩で担いでいるのですが、
海水を汲むために桶を下に下ろして
すくうまでは空っぽだから
手前から奥へはササッと早く
すくって中身が入ったら重いし
こぼしてはいけないので
ゆっくりと慎重に汲み上げる動作。

あ、でももしかすると福助さんが
ささっと行きも帰りも速かったのは
妹で若いから元気のある動作なのかもね。
そういう演出なのかも。

ま、いずれにしても
さすが玉三郎さんと一々感激するわけです。
ヾ(@^▽^@)ノ

捕らわれて、恋人の行方を敵に追及され、
力づくの拷問の代わりに
琴、三味線、胡弓を弾かされる阿古屋。

もし演奏が乱れたらウソをついていると
判断されてしまう、追い詰められた中にも
恋人の心配をする女心も表現する阿古屋。

その演技はもちろん素晴らしかったですけど、
玉三郎さんの演奏も見応えがありましたよ。
役者自身が演奏されるのって珍しいと
思うのですが・・・

しかも三種類ですもん。
お琴と三味線は唄や伴奏も入るのですが
玉三郎さんおひとり、
唄もなく、胡弓ひとつの演奏が
一番、私の心に響いてきて好きでした。


阿古屋竜馬がゆく
熊谷陣屋
村松風二人汐汲
壇浦兜軍記 阿古屋

合計4幕を観ました。

吉右衞門さんの月の9月
いろいろな吉右衞門さんを
堪能できました。
満足、満足ヾ(*´ー`*)ノ゛



■阿古屋貝、そして「出世景清」

歌舞伎座の壇浦兜軍記 阿古屋で
久しぶりの玉三郎さんの艶姿に
すっかり酔いしれたことは
先日書いたのですが・・・

図書館に行ったので
気になっていたことを調べてみました。

そしたらね。意外なことがわかったのさ。

阿古屋・・・アコヤって聞いたら
最初に思い出すのが
アコヤガイではありませんか?

阿古屋貝は真珠貝とも呼ばれ、
その産地が知多半島の半田市付近、
昔の阿古屋の浦。

真珠の養殖に使われる貝を真珠母貝
(しんじゅぼがい、マザーオブパール)
って言うんだって。

ふう~ん、なんて
ところが、だんだん アレアレ~

歌舞伎で玉三郎さんが演じた阿古屋
恋人の平景清のため、命を賭した遊女。

映画の「景清と阿古屋」
近松作浄瑠璃の「出世景清」では
なんと悪女

賞金目当ての実兄にそそのかされ、
いったんは断ったものの、
正妻への嫉妬から衝動的に
敵方に景清の居所を密告するばかりか
景清との間の二人の息子まで手にかけたのです。

え~。そんな~。


■景清と阿古屋と伊藤さん

阿古屋は悪女

大問題です、これは。

浄瑠璃の「出世景清」や
映画の「景清と阿古屋」のあらすじはね。

平家滅亡後、景清は追手から逃げ延び、
遊君阿古屋を訪ね、「3年ぶりだね。元気だった?」と
ヨリを戻します。

そこへ届いた景清の正妻小野姫からの手紙。
「遊女なんかと遊んでるのかしらん」
阿古屋は嫉妬にかられて景清を裏切ります。

実は景清を突き出して褒美をもらいたい
阿古屋の兄がいくら阿古屋に通報するよう言っても

「私はそんなことしないの。愛してるから」

と、取り合わなかったのでヤキモチを焼かせようと
偽の手紙を書いたのです。

かたや、景清の行方を聞き出すために
捕らわれてしまった妻の小野姫。

裸にされ、ハシゴに縛りつけられ、水をかけられと
拷問にあっても愛する人のために耐え抜きます。


これはほんの概要でもっとエピソード盛りだくさん。

韓流ドラマ、かつての大映ドラマを彷彿とさせる。
あ、いやこっちの方が300年以上前なんだから
こっちがご本家ですね。

阿古屋の恋人、平悪七兵衛(あくしちひょうえ)景清、
この名前にもひっかかっていたの。
親は自分の子に「悪」ってつけるかしらって。

そうして上総出身であるならどうして平家なの?

上総守藤原忠清のヤンチャな七男ってな意味の
通称が答。権力に屈しない強さに江戸時代の
庶民の人気を集めたので、いろいろな
伝説が各地に残っているんだって。
藤原、もしくは平とまちまちに呼ばれるのは
平家方としてよく働いたため。

ひいおじいちゃんの基景は伊勢守だったので
伊勢周辺で繁栄したことから伊藤を名乗っていたと
伊藤姓のルーツまでわかっちゃった。

一説によると7歳の時におじさんを殺したので
悪七兵衛と呼ばれたというんだけれど
そのおじさんの孫は頼朝なんだから、ややこしい。

なにぶん大昔のことだから真偽のほどは
定かではないけれど源平の話をたどっていけば
和製ダ・ヴィンチ・コードみたいに面白い。


恋人景清をかばって
敵である源氏にその行方を告げない
遊君といっても女の鑑の阿古屋。

「責められるのもわたしの役目。
あなたたちは責めるのが役目だから
さー、ドンドン遠慮なく責めてね」

とは言え、内心怖かったと思うけれど
そこはオクビニモ出さず、毅然としているのが
カッコいいんですが・・・・(ここまでが歌舞伎の「阿古屋」)

源氏に捕らわれて牢屋にいれられた景清。

「敵からのものは口にしない」

と水も飲まず拷問に耐え、
平家の財宝の在り処を白状しない景清。
音を上げた源氏が景清の妻子を連れてきて、
彼の目前で責めたので
ブチッと切れて、牢を破って大暴れする。

その場面が「荒事(あらごと)」と言って市川さんち
お得意のスペクタクルな演目、
歌舞伎十八番の「景清」
なんですが。

浄瑠璃の最後、謝っても許してくれない景清に
逆切れした阿古屋が自暴自棄になって息子達と心中。

「明日からは月代もお母さんの言うとおりに剃ります。
お灸もします。」と助けを請う幼子たちを
「悪いのはおとうさんだからね」と刺すのだから。
景清、号泣のシーンです。

最終的には、頼朝に命を救われた景清ですが
「(源氏隆盛の)世の中を見ていたくない」と
自分の目をえぐり取ったという壮絶な幕切れの
出世景清。



景清の波瀾に富んだ生涯を描いているのは一緒ですが
浄瑠璃では貞淑な妻小野姫に対して悪女の阿古屋。
歌舞伎との描き方の違いは時代のせいでしょうか。
文化とか宗教とか政治とかね。
熱田神宮の宮司の娘と遊女の身分の違いでしょうか。

または、「いい女」の価値観の相違?

長くなっちゃったけど、読んでくださった皆様、
どうもありがとう。
私は調べていて楽しかったけど。

そうそう。もうひとつの疑問。
玉三郎さんの阿古屋が弾く楽器のひとつ胡弓。

胡弓って中国の楽器なのに、江戸時代の遊女が弾くの?

これは「筋書(すじがき)=パンフレット」に答えが。

阿古屋で使われるのは三味線を小ぶりにしたものを
弓で鳴らすという日本独自の胡弓だそうです。


■玉三郎さんを観られる時代に生きてることに感謝!


玉三郎さんの阿古屋本当に素敵だった。
豪華な打ち掛け、牡丹柄だったかな。
帯は孔雀の柄が艶やか、
前にだらりと垂らしたまな板帯。

壇浦兜軍記 阿古屋傾城(けいせい)の大役、
演技も難しい上に
琴、三味線、
胡弓を実際に演奏する
通称「阿古屋琴責め」
という珍しい演目。

傾城って言うのは
遊女のなかでも
教養を備えた格式高く、
文字通り
城を傾けるほどの美女。

久しぶりの玉三郎さん。
((o(^-^)o))楽しみでもあり、
内心はお年を召されたから
オーラが減ってるかもと心配でした。

実際の舞台を拝見したら
そんな心配は吹っ飛ぶ美しさにウットリ羽ハート

玉三郎さんを観られる時代に
生きていることに感謝!ってな具合です。

「竹田奴」っていう面白い顔の人達が
責め道具を持って
ピョコタン、ピョコタン
花道を飛び跳ねてくる
楽しい趣向もあったりして、
見どころ満載の「阿古屋」。

武田奴は重苦しい雰囲気を和らげるための
演出だそうです。


そうそう。阿古屋の演奏を舞台の端っこで
微動だにせず座っている役の染五郎さん。
神妙な面持ちで両手は
ずーっと腰に差した刀の柄にかけたまま。

所作、踊り、唄、科白、
なんでもできなくてはならない
役者さんのお仕事。

動かない、しゃべらない、

というのも芸のうちだよね。
私は5分ともちませんもの。

コミカルな演技の段四郎さんも
重厚な吉右衞門さんも
もちろんですけれど、
染様びいきなので。

お正月の舞台でも声がかすれていた染様。
今日もちょっと怪しげでした。喉が弱いのかな。

休む間もなく、客演、テレビ、出版と多忙な
人気者の悲哀でしょうか。




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