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カテゴリ:理系大学院
●東大の研究者のたまごは厚遇されているのか?●
以前、共同通信が「東大大学院生もつらいよ 親の年収下がり就職厳しく」 という記事を報じた。これは東京大学学生生活委員会学生生活調査室が、 実施した、第54回学生生活実態調査の結果を、ニュースソースとしており、 学内広報No.1325で公表されている。 見出しには「親の年収下がり就職厳しく」とあるが、どうもそれだけでは なさそうだ。果たして、東大の研究者である大学院生は、恵まれた環境にいる のだろうか。文系と理系という切り口で、調査の内容を掘り下げてみた。 ● 理系はアルバイトでも大学から出ない!? 修士課程、博士課程を問わず、東大の大学院生の約半数49.8%が、一カ月以上 の継続的なアルバイトをしていると、回答している。前回5年前の調査から比較 すると、3.1ポイントの微増で、前回は塾講師、家庭教師が、過半数を占めていた。 だが、現在は39.1%と13.5ポイントのダウン。伸びているのは、前回無かった TA(ティーチング・アシスタント)とRA(リサーチ・アシスタント)が、約4割 を占める。 博士課程では6割が、TAとRAに依存している。但し、理系では軒並み半数に 上るものの、文系ではTAやRAの募集自体が少ないため、1割に満たない研究科 もあり、その分、塾講師や家庭教師が増えている。一般事務やサービス業などの アルバイトをしている、大学院生も文系に偏っており、理系はアルバイトでも大学 を離れず、社会と断絶している様子が伺える。しかも、アルバイト収入の使途は、 7割弱が生活費で、アルバイトの理由の過半数が、生活費を稼ぐため、となっている。 ● 就職は理系が有利!? 就職についても、理系の過半数が、既に決まっている(22.7%)、見通しは明るい(7.0%)、 何とかなる(34.7%)なのに対し、文系ではかなり厳しい(32.8%)、見通しが立たない (19.7%)が過半数と逆転している。 就職の情報も公募で探すほか、自己収集がほとんど。文系は6割強が研究・教育職、 いわゆるアカデミック・ポストを希望しているのに対して、理系は4割弱だが、 国立研究機関や企業の研究職など、への希望も4割弱ある。理系の就職については 現実的な選択肢があるのに対して、文系には現実的な選択肢がないことが、浮き彫り にされている。 ● ポスドク問題への対応を要望 このようなあまり良くない、就職事情を反映してか、大学への要望では、 「オーバードクター問題や、ポスドク問題への対応」が、多くの研究科で1位を占め、 ほぼ同じポイントでの2位に、「奨学金などの拡充や増額」が挙げられている。 自由記述では「大学で指導する教員は、研究に対してはプロであっても、教育に 対してはプロではない」「すべての研究者が、教育能力があるかというと、そうで はない」(いずれも博士課程学生)など、多くの大学院生が、進路として希望している 大学教員の教育能力について、指導教員には直接は言えない疑問が、垣間見られる。 ● 裕福な家庭の子どもだけが、大学院に進学しているわけではない 「奨学金などの拡充や増額」を希望するほど、大学院生にはお金がかかるのだろうか。 家計の年収も共同通信では、独身の年収平均では915万円で、下がったと報道 されたが、既婚者も入れた全体の平均年収は907万円。しかし、250万円未満も8.7%、 450万円未満まで、広げると2割になり、年収の分布は幅広く、裕福な家庭の子ども だけが、大学院に進学しているわけではない。 食費、住居費、光熱費などの生活費の支出総額も、月間平均は約15万円で、 9万円未満で3割弱を占めている。首都圏で月間10万円程度では、決してよい暮らしは できないだろう。 ● 収入不足を支える奨学金の功罪 参考文献など書籍購入費、学会参加費用などの研究費の自己負担額は、平均で169万円 だが、10万円までが過半数を占めている。さらに、学費は年間52万円(博士課程)。 そして、生活費では年間平均にすると、180万円程度かかる。一般的な大学院生として 年間250万円にもなる支出を、補うために奨学金を利用する人が46%、その使途の 9割弱が生活費となっている。 奨学金を受けている人の74.6%を占めるのが、日本学生支援機構(前身は日本育英会) からだが、奨学金を受けなかった人の理由の中には、「貸与なので申請しなかった」が 23.9%いる。 就職も決まるか分からないのに、借金をすることへの不安がうかがえる。 ● 努力して進学した大学院生と、就職先が見つからない女子学生を、同列で考えるべきか 世の中には「研究者だけ厚遇されるのはなぜか。就職先が見つからない女子学生 のため税金が投入されたという話は、聞いたことがありません。博士号を取るほど 優秀であれば、自分の進路は自分で切り開いてほしいものです。」などと、来年度に 文部科学省が、概算要求した「科学技術関係人材の、キャリアパス多様化推進事業」 を皮肉る声も聞こえる。 はたして研究者は厚遇されているのだろうか。女子学生は努力をしても就職先が 見つからないのだろうか。少なくとも選抜を経て、大学院に進んだ学生の努力を支援し、 恵まれていない、日本の研究者環境を良くすることが、科学技術振興につながらない のだとしたら、日本も終わりだ。 ・・・ライブドアニュースより 参考: ●大学教授になるのに、必要な学歴は? ●大学教授と弁護士、どちらになるのが難しい? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2009.06.25 16:55:56
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