|
カテゴリ:【物語】桃源郷
不思議な不思議な物語
書いている自分にとっても不思議な物語 不思議すぎて、ついていけない!と 思ったら、そっとお帰りくださいね(笑) 『渇っ!!』 「あ~!もう!!どうしたら、伝わるんだよ!」 頭をかきむしって、地面に転がっている石ころを蹴飛ばした。 あれからリンは、もう一人の自分と何度もコンタクトをとろうとした。 そのたびに、「ちょっと待て」だの「これは、妄想」だの、とりつくしまもない。 リン以外にも、もう一人の自分に何とかコンタクトをとろうとする存在が 四苦八苦している。 それでも、もう一人の自分は頑なだ。 目を閉じ、耳を塞ぎ、口を強く引き結ぶ姿は、まるでさんざるだ。 「別に妄想だって、変人だって良いじゃないか!」 思わず吐き捨てると、そばで明るい笑い声がひびいた。 「リン、彼女の世界で、変人扱いされるのはなかなか大変なことだよ。」 返事があったことに驚いて、振り向くと、明るい金の光のなかで、笑顔を浮かべる 天使がいた。 「…ミカエル」 ふわりと大地に降り立って、来る途中でもいだのだろう、桃を持っていた。 「…なんか眩しい。」 自然の光ではない、天使特有の輝かしいエネルギーに、リンは目を細める。 「それは、失礼。」 あたりに放つ光を押さえるが、それでも眩しかった。 天使は、面白そうにリンのつくっている桃源郷を眺めてから、桃にかぶりついた。 「うまいな。」 美味しそうに食べる天使に思わず笑顔を向ける。 「ありがとう。なんか、育てるのって私に向いてたみたい。」 「だろうな。」 「ねぇ。」 「ん?」 「もう一人の私はもうこないかな?」 リンの言葉に、天使は、桃を口に運びかけていた手をとめた。 「なぜ?」 先ほどまでの人好きのする笑みが消えて、ただリンの顔をじっとみる。 いつもは、物事をはっきり言うリンが顔を赤らめてもじもじとしている。 「なぜ、そう思う?」 幾分かやわらかい声音で問われて、思わず叫んだ。 「だって、苦しそうじゃないか!」 顔を歪めてうつむく。別の人格ではあるけれど、もとは自分と同じもう一人の自 分だ。 自分の今いる世界を大切にしたいんだってことも、こっちの世界も好きなんだっ てこともわかる。 受け入れたい気持ちと受け入れるのが怖い気持ちがせめぎあっている。 肩を落としてしょげ返っているリンの頭上に、また明るい声が降ってきた。 「大丈夫だ。」 顔を上げると、桃を食べ終わった天使が楽しそうに笑う。 「…大丈夫?」 「ああ。心配するな。」 「本当?」 いまいち信用しきれないという顔をしているリンに、にやりと笑う。 「彼女もそろそろ真剣に向き合おうと考えてる。もう少しだ。それに、俺 も色々と働きかけようと思ってるしな。」 心底楽しそうに笑って、帯刀している剣をぽんぽんと叩いた。 リンは、天使のあまりに張り切っている様子に、思わず顔を引きつらせた。 「お、お手柔らかに。」 「任せておけ。」 うきうきしている天使を前にして、もう一人の自分に思いを馳せる。 思わず頑張れとつぶやいた。 「ん?リン、そろそろ寝る時間みたいだぞ。」 天使が、もう一人の自分に意識を向けて言った。 また、妄想とか言ってるなぁと呆れたようにつぶやく。 それでも愛しそうな表情を浮かべる天使をみていて、閃いた。 「ねぇ。ミカエル。寝る前ってつながりやすいんだよね?」 「ああ。そうだが…」 「ちょっと、手伝ってくれる?もう一度がつんと言っとこうと思って。」 握り拳をつくって、天使をみるリンを一瞬呆けたようにみる。 それから、空に響き渡るように、声をた上げて笑った。 「っははは!いいだろう。つながりやすいように手助けしてやる。」 そこでリンの顔をみて、にっと笑った。 「目を覚まさせてやれ。」 「もちろん!」 リンも笑顔で応えた。 リンは、ミカエルの横に立つ。もう一人の自分とつながるタイミングを探ってい るのだ。早すぎれば、拒絶されてしまうし、遅ければ、夢のなかの出来事とし て片付けられてしまう。 意識はあるけれども、抵抗の少ないうつらうつらとする時間。 徐々に、雑念が減っていく。 そろそろだろうかとリンが気を揉んでいると、ミカエルがこちらをみて手をふっ た。 「いまだ。行け。」 リンは、うなづいて、コンタクトを開始した。 リンがもう一人の自分の前に現れると、もう一人の自分は動揺していた。 一瞬ためらったものの、とにかく言いたいことを伝えようともう一人の自分と向 き合う。 「あなたは、妄想とかなんとか言ってるけれど、あの場所は、ちゃんと存在して て私は私で存在してるの。」 「私は私で進んでいくの。」 「とめようと思ってもとめられるものじゃないの。」 そこで、もう一人の自分の姿が遠ざかる。 時間がないことを悟って、リンは慌てて叫ぶ。 「もっと自分を信じろ!!」 そこで、ふつりと途切れた。寝てしまったのか。 隣りにいるミカエルを不安気にみる。 「大丈夫だ。」 力強くうなづいて、立ち上がった。 そろそろ行かなければならないらしい。また来ると笑って、いくつか桃を持って 去って行った。 リンは、先ほどのやりとりを思い出し、思わずため息をついていると、 桃の木がある奥の方で何か音がした。 なにかが騒いでいる。もう一人の自分のことは気になるものの、今は騒ぎの元を 確認する方が大切だ。 「変なものが侵入したんじゃないといいんだけど。」 不安そうに呟いて、その場を後にした。 続く この後、少しづつ登場人物が増えていきます。 自分もびっくりです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2011.05.21 17:03:59
[【物語】桃源郷] カテゴリの最新記事
|