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僕は今、ちょっと重い仕事を任されている。 といっても、ベテランの先輩とコンビでやっていくので大したことはない。 多分。 そして‥ その先輩42歳を、「この人本当に恐ろしい人だなぁ」と思った、 表題の一言が今週の名言である。 コンビで向かった、その仕事の交渉の席。 相手は、我社が最も恐れる販売代理店の巨星だ。 偉い人、若いやり手、新人君というキャスティングで先方は向かい側に座る。 コンビで相対するが、結構なプレッシャーである。 「どうして出来ないんですか。社内にも社外にもうまく言ってくださいよ」 若いやり手は予想通りどんどん押してくる。 高校も大学も超一流と聞いたことがある。 ・・当初、この販売代理店は、Bという企画をやりたかった。 しかし、企画Bでは倫理規定上、我社も、我社の関係会社もうなずかない。 だから、まず企画Bから毒を抜いた企画Aを持ち込んできたのだ。 我社がうなずき、話を進める段階で先方がB企画への変更を求めてきている、 そして、話せば話すほど、どんどん毒の含有率が増していく・・ 大まかにはそういう状況だった。 「あなたたち営業でしょ。そのくらいまとめるのが当たり前でしょ ・・多かれ少なかれそういうことでメシ食ってるじゃないですか」 営業でしょ--。素人営業マンの僕はこの言葉に弱い。 営業というのはそこまでやらなければならないのか・・。 「いやいや。この話というのはね、 最初にボタンのかけ違えからスタートしているんですよ。 だから、まずはそれを丁寧にかけ直さなきゃいけないんですよ」 先輩は、にこにこしながら厳しい口調で言い返す。 「ところで・・ここの部分はどうするおつもりなんですかね」 「あっ」 話のところどころで、相手の虚をつく。 ・・・ 「なんでC案(Bにさらに毒を強めたもの)じゃいけないんですか B案とどう違うと言うんですか。 営業として上手く話して、通してくださいよ」 「だからね、今は、A案とB案のボタンの掛け違えを、内部的にも対外的にもなおす 作業をしているんですよ。それでC案を約束なんて、出来ませんよね」 「えっ、何でですか・・」 この際、話を白紙に戻してしまおう、とは言わない。 先輩は、同じ説明を、徐々に語気を強めながら繰り返す。 結局、お互いに持ち帰って検討ということになった。 * * 「あいつ、頭はいいけどダメだなぁ」 帰り道、先輩は笑顔を崩さず話す。 「詰め将棋で言うと、こっちがもう最後の駒を握っていて、 『これ以上話を進めると、アンタ詰んじゃいますよ』っていうことが、 あれだけ言ってまだ分からないんだよなぁ。 こっちはそれを笑いながら言うか、怒りながら分からせるかっていうことだけだな。 ・・・詐欺師としては、こっちの方が上だからね」 先輩の笑った猫のような細い眼は、 夕日を受けて不気味に光っていたのだった。 この春転勤してきたこの先輩は、営業一筋。 マーケティングの本を月に4冊は読むという。 ひさしぶりに、僕は今、「すごい」と思える人を、見ている。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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