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 パリで客死した森有正は次のように書いている(『バビロンの流れのほとりにて』)。

「僕の若い日の熱情は、学問と音楽と、そして、美しい人と一緒にいて話をしたり信頼し合うことだった」

 この美しい人は女性のこともあれば、男性のこともあった、と森はいう。哲学というあまりはやらない学問に惹かれたのは高校生の時だった。

「仕事というものはいったい誰のためにするのだろう? 仕事自体のため、と答える人もいるし、自分自身のため、という人もある。どちらも決して本当ではない。仕事は心をもって愛し尊敬する人に見せ、よろこんでもらうためだ。それ以外の理由は全部嘘だ」

 初めてこの文を読んだ時、驚いてしまって思わず線を引いたのを覚えている。真理の探求のためではなかったのか? 森はこの文に続けて、

「中世の人々は神を愛し敬うが故に、あのすばらしい大芸術を作るのに全生涯を費やすことができたのだ」

と書いているので、僕が理解したような恋人のことを、あるいは森は意図していないのかもしれないが、仕事をなしとげた時にそれを喜んでくれる人がいることは大きな励みになるというのは本当である。

 もっともこんなふうに人に依存してしまうと、思うような注目を得られない時にがっかりしてしまう。命をすり減らして打ちこんだ仕事でも自分以外の他の人にはさほど関心を引くことはないかもしれないからである。

 いつも考えていること。

 自分は他の人の期待を満たすために生きているのではない

 ということ。だから、自分がしようと思うことの是非を他の人の判断に委ねないで自分の責任で行ないたい。人の顔色をうかがう必要もない。

 他方、この権利を他の人も自分と同様持っているわけだから、

 他の人は私の期待を満たすために生きているのではない

ということ。
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