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 映画『化粧師』の中で化粧師の小三馬に思いをよせる純江が、小三馬が自分のほうを向いてくれていないことを知って見合いするという話が出てくる。純江がそのように思い至る出来事のうち大きなのは二つある。

 そのうち一つは…女優志望の時子が字を覚えたくて本屋に通っては子ども向けの手習いの本で勉強する。時子にはこの本を買うだけのお金がない。ある日、働いてためたお金を持って本屋に行くと、本屋の主人が、この本はもう売り物にはならないから持っていってくれ、お金のことは心配することはない、小三馬が払ってくれたから、という。当惑する時子はではこのお金を小三馬さんに渡してください、といって立ち去る。

 この場面を純江は一部始終目撃する。映画はこの時の純江の表情をアップで映し出すだけなので純江の気持ちは推量するしかないのだが、純江は私は「この子に負けた」と思ったかもしれないし、「私ではなくこの子に小三馬は心を寄せている」と思ったのかもしれない。

 続く大きな出来事についてはここでは触れないが、いずれの場合も彼の気持ちを確かめていない。その前に彼女はあきらめてしまっている。自分の気持ちを打ち明けるのは見合いをした後のことだった。「ずっとずっと小三馬さんの近くにいたい」と。

 この言葉は小三馬にたしかに届いているのだが…言葉で気持ちを確認したり、気持ちを伝えるという基本的なことをしないで、あきらめたり、ひどい人、と断罪するようなことはよくあることだと思う。この二人のケースで、もしも男性の方が好意を持っていて、女性が気持ちも打ち明けないままに身を引いたりしたらずいぶんと後味が悪いだろう、と想像する。それとも男の鈍感さこそ責められるのだろうか…

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