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2004.12.24
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カテゴリ:短編小説
 如何に人類が空を支配しようとも”それ”を見た者はいない。
 過去に置いて人類は大規模な天災にあい、その文明をかなり失っていた。
 その、失われる前に作られた”それ”は、空をただぼんやりと浮いていた。
 それは、表面を黒く光らせ、一目見ただけならばごつごつした固まりに見える。
 しかしよく見ると、その固まりは人型が体をうずくまったようにしているためにそう見えていることがわかる。
 可変式内燃機関併用型軍用魔導甲冑というのが”それ”の名前である。
 制作された当時、その魔導甲冑は世界を制するとまで言われた強力な兵器であったが、突如命令を無視して空の彼方に飛び去った。
 ”それ”が持つ遮蔽機構は最高の物で目視においても見つけることは出来ないほどの物だった。
 結局、捜索にかかる費用と命令無視の原因から探索は打ち切られ、名も無き魔導甲冑は空に浮かぶ衛星の一つとなった。

 そして、今日もそれは、いや彼はただぼんやりと誰もいない空に浮かんでいた。

「暇だ・・・」
 ぼそりとつぶやいた。

「この空に浮かび始めて何年にもなるが、いい加減浮かんでいるのにも飽きたな。とはいえ、何時軍に見つかるともわからない状態で下手に動いて見つかるわけにも行かない」
 誰もいないのにもかかわらず、いや誰もいないからこそぼそぼそと独り言をつぶやいた。

(たすけて・・・)

「ん?」
何か声が聞こえたような気がしてあたりを探査するが何もない。当然と言えば当然だが。

「ただのノイズか?」
そう思って、再び待機状態、つまり眠ろうかと思ったわけだが。

(ここからだして!!)

「な!?だ、だれだ!?」
今度こそ間違いない。こんなに大きなノイズが発生するわけがない。

今度は念入りに探査をする。
(・・・・念話の類か?一体どこから・・・)
仮にも魔法と科学の融合体、魔法による探査も可能である。擬似的にも意志を与えられた影響か、勘に似たものも持っている。

思考波をたどっていくと、雪に埋もれ既に廃墟と化しているある村にたどり着いた。

村にある教会の地下。
そこには、一人の男と。そして、十字架に縛られた少女が居た。
男は、少女の首筋にかぶりついている。
「う・・・あ・・・あぁ・・・」
苦しそうに少女が呻く。

しかし男はそれを意に介すことなくかぶりついている。

しばらくすると男は少女から離れ一階に歩いていった。
男が見えなくなると少女のすすり泣く声が響く。

その首筋からは血が流れていた。

(・・・何だ?これは・・・)
一度として、地上をのぞき見たことがなかった彼にとって今の映像は衝撃的だった。少女がつるされている事ではなく、見る影もなくなった今の世界が、である。
(まぁ、それはいい。別に地上がどうなろうと私には関係のないことだ。それよりも)

そう言って、少女を見る。と言っても彼の特殊な知覚で遠隔の地をのぞき見ているのだが。
先ほど聞こえた声は、だんだん大きくなっていた、おそらく意識が向いたためより受信しやすくなっているのだろう。

(うるさい・・・・)
さすがに、何時までも女の子の泣き声を聞いているとあるはずのない胃がキリキリしそうだ。

そんなわけで、少女を黙らせるべく。彼は起動してから2度目に自分の意志で動くことにした。

人型から戦闘機へ静かに変形を始める。
その緩やかな変形はモーフィングのようだ。

程なくして変形が完了すると、白煙と魔導光を曳いて飛び去った。

「はぁ・・・」
古びた教会の椅子に横になりため息をつく男。
ひげは生え放題で、服も体も何日も洗っていない。
食料も底をついた彼を生きながらえさせているのは先ほどの少女の生き血だった。
口の中が鉄分の味でいっぱいになっていて気持ち悪いが我慢するしかない。
自分が生きるためには彼女に血を吸わせてもらうしかなく、だが一方で彼女は生きていくのに必要な物はない。
逃げようとした彼女を捕まえ、縛り、監禁した。
そうしなければ生きてゆけなかったからだ。
2度目の氷河期とも呼ばれた天災の時、かれは運悪く逃げ遅れ、雪崩に飲み込まれたこの村に閉じこめられた。
不老不死の少女と共に。
そして、現在の関係が成立している。

「はぁ・・・」
彼は何度目かわからないため息をつき、眠りについた。

雪を踏みしめる音で目が覚めた。
(なんだ?)
そう思い起きあがると、ドアが開かれておりそこには黒い人型の何かがあった。

(ロボット?いや、そんな馬鹿な)
一瞬よぎった物を否定する。

男が困惑しているうちに、その人型の物体は男を無視して教会の地下に歩いていった。

「ってぇ、何なんだ!?」
慌てて追いかける。謎の物体に命綱をどうにかされてはたまらない。

彼は、教会の地下にたどり着くと目的の物をみつけ歩み寄った。

少女はおびえた表情でこちらを見て
「唖、あなたも血を吸いにきたんですか?」
と、いった。

「・・・お前が泣き叫んでいる所為でわたしが安眠できない。頼むから静かにしてくれ。」
とりあえず、率直に用件だけを言ってみた。

「私をここから助けてくれるなら」
すると、そう彼女は答えた。

「わかった、まかせ・・・」
と、言いかけたところで、

「だめだ!それを持って行くんじゃない!」
と叫ぶ声が聞こえた。
振り返ると男が息を荒げて、叫んでいた。

「それとはどれのことだ?」
何のことだかわからず彼が聞き返すと、

「そこの十字架に縛ってあるそれのことだ」
そう言って少女を指さす男。

彼は無言でしばらく佇んだ後。
無言で少女を縛り付けている鎖を切り裂いた。
突然ささえる物がなくなり倒れ込む少女を無骨な黒い手が支える。

「おい!?聞いてるのか!?」

男の叫びを無視して彼は少女を優しく抱き上げ出口に歩いていく。

「ひ・・・」
男は、彼の無言の圧力に負けるように道をあけ、腰が抜けたかのように座り込んだ、実際抜けているのかもしれない。

少女を抱えたまま、教会の外に出て、彼は人型のままふわりと浮かび上がった。
ふと腕の中の少女を見ると、疲れが出たのか気を失ったかのように眠っていた。
そのまま最寄りの町の近くにある森の中まで飛んでいき、少女を横たえた。

「・・・・」
無言でたき火をするため枝を探しに行った。

たき火のはぜる音で目が覚めるとそこは森の中だった。
「え?あれ?・・・」
「目が覚めたか。」
きょろきょろと辺りを見回す少女に彼が声をかけた。
「あ、はい。ありがとうございます。助けていただいて」
「気にするな、安眠のために助けただけだ。」
「それでも、です。」
「・・・感謝するのはお前の勝手だ。」

しばらく、無言でたき火を囲む二人。
「あの。」
「なんだ。」

少女はうつむきながら、
「わたし、そろそろ行こうと思います。」
そう言って立ち上がろうとすると

「ちょっと待て。」

「え?」
予想外の制止に動きを止める。
「私もついて行っていいか?」
「どうしてですか?」
彼は、先ほどの教会でのことを思い出しながら。
「なんと言ったらいいのかわからないが・・・興味本位だ、私が眠っている間に代わってしまった世界を見てみたい。だが、私は世間に対して疎い。だから・・・」

「わかりました、一緒に行きましょう」
迷わず少女は答える。
「いいのか?」
「一人では心細いと思っていたのでちょうどよかったです。では、自己紹介をしましょう私はエレナ。」
「・・・名前は・・・無い。名前を付けられる前に逃げ出してしまったのだ。だから、名無しだ。」
「では、名前を付けましょう。あと、変装もその格好では目立ちます。」
「姿ならば問題ない」
そう言うが早いか体が変形し青年の姿になる。
「なら・・・後は名前ですね。何かアイデアはあります?」
「・・・・いや、無い。」
「そうですね、じゃあ、考えながら歩きましょうか。」

そう言って立ち上がり、町に向かって歩き出し、くるりと振り返って。

「ほら、早く行きましょう。世界を見て回るのは大変なんですから」







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Last updated  2004.12.25 00:19:32
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