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  ウィークエンドに詩を

 仕事が終わって、一週間の疲れから解放されると心の温かくなる飲み物をテーブルにおいて、かたすみの本を開いてみたい気分になります。ゆったりとした時間が過去に流れ込むとき、どこかにいってしまったものをふっと思いだして、そして今が、そのときとはまったく関係のない今があることに、そうなんだとささやかに思いつつもあれはいったいどこにいったのかななどととりとめもなく思いながら夜が更けていきます。失った時間の中で輝いていたのは一本のペンとうすい罫線の入った大学ノートでした。


   暖かい日差しに

 昨日までの大きな仕事が終わった後で
 屋上に通じる窓辺から
 小さな生き物の珍客がやってきた
 地上ではあまり見たことがなかったので
 その日差しをとおす
 あわい緑の葉の木のてっぺんに
 いたのだろうと想像した

 そういえば密林では地上の生き物たちが
 研究し尽くされてしまい
 高い木々の頂上の虫たちが
 研究の対象にされているという  

 屋上に通じる窓からあらわれた珍客は
 どうやら自分の来るところではないと
 気づいたようで
 私の仕事場を離れていった

 後には 午後の日差しと
 珍客のおいていった
 甘い香りだけが残っていた


   それから

 ひざしがまとわりつくようになって
 汗で額をぬらしながら歩いていると
 誰かが笑ったように思い 
 ふりかえると 
 薄紫のしゃきっとした花々が
 私を不思議そうに見つめている

 いつから私がこんな感じで
 太陽に焦がされるように歩いていたのか

 幼い頃は本当に私の中に君たちはいたのだけれど…

 三冊の絵本を枕元に置いて
 私は子どもらと眠りにつく
 あのくさはらが
 もうそこまできている

 それから それから



2013年02月02日
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カテゴリ:カテゴリ未分類
    一年の最初の夜に

  
満天の星を見上げた
犬を連れた羊飼いの子が
戦場の少年兵士が
密林に沐浴する少女が
車窓に顔寄せる行商人の子どもが
大都市のストリートチルドレンが
海に還るウミガメを見つめる小学生が
砂漠で水運ぶ裸足の子が
僧衣をまとう小さな修行僧が
登山家に付き従うポーターの男の子が
被布に瞳しか見せない女児が
氷に閉ざされた雪原の男児が
       
一年の最初の夜に世界は瞬間(たまゆら)
地球のどこか一点にいることを忘れさせ
宇宙のどこか一点に浮かんでいる

その夜 星々は
忘れてしまった大切な味覚を取り戻すために
金平糖のように夜空に散って
見上げる小さな瞳という瞳に降り注がれていた

     

      詩誌『樹』2013年1月号に掲載





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最終更新日  2013年02月03日 02時35分42秒
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