魔法の真矛ちゃん(真矛・告白25)
―真矛・告白(25)―「ご存知ですかな。人形には、持ち主を選ぶ権利があるんです」 店主のおじいさんは、人形を抱き上げ、リカさんに差し出した。リカさんはそれを生きた赤ん坊のように、大事そうに受け取り、「見て、真矛。この人形、本当にあなたによく似ているわ」 まるで少女のようにうっとりとした。リカさんのほうが、私よりも人形を欲しがっているみたいだった。 「どうやら人形も、あなたが気に入ったようですな」「え? そんなことが分かるんですか?」「はい。これを作ったわしには、人形の気持ちがよく分かりますのじゃ」 おじいさんは愛おしそうに、金色の髪をなでた。「この子をください。それと、着替えも欲しいわね、真矛?」「あ、うん」 こうして大きな荷物をひとつ増やして、私たちはその店を出た。 外は暗くなってきて、建物に挟まれた通りは街灯が少ないせいかさらに陰気だった。「のどが渇いたわね、戻りながら、どこかのお店で少し休みましょう」「あ、待って、あそこにお店があるみたいよ」 少し先に、明るく照らされたKAFEの文字が見えた。 店内の照明は温かみがあり、数人の客が話しこんでいたが、心地よい音楽で話し声はかき消され、私たちが座った席には届かない。ショーケースには色々なケーキがずらりと並んでいる。 「ねえ、さっき言ってた美味しいケーキのお店って、ここだったの?」 私の問いかけにリカさんはちょっと考えてから、 「いいえ、やっぱりただの偶然よ。 ここには来たことが無いもの。さっき人形を買った店も、はじめて見たのよ」 私は買ってもらった新しい本の表紙を横目にケーキセットを食べ、リカさんも人形が気になるらしく、時々椅子の上の人形が入った紙の箱に手を載せていた。 買い物帰りの客が立ち寄っていくたび、ケーキはどんどん売れていった。こんな裏通りなのに、人気のお店なんだなと思った。