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第24話 『最終話』 <全24話> ──────────────────────────────────── しばらくすると、大きな白いテントが巨大な映画のスクリーンになり、きらびやかなドレスやタキシードに身を包んだ招待客たちは、砂浜一面に用意された椅子やブランケットに腰を下ろした。テントのなかを照らしていた明かりが落とされ、映写機のスイッチが入れられる。そして、二巻あるフィルムのうちの一巻めの上映が始まった。 上映が終わるころには、『ワン・ハート』は数々の放送局や、独立配給会社や、アメリカの大手ケーブルテレビ局に買われていた。プレミアショーに参加した人たちのあいだには、この映画はアカデミー賞の候補作品になるだとか、翌年のサンダンス映画祭で上映されるのではないかといったうわさが、飛び交っていた。 その夜は大成功だった。しかし、何事もそうであるように、結局はパーティーも終わるときがきた。招待客たちはいなくなり、テントはたたまれて、エストレリャはホテルへ帰った。 そこで旅行用の服に着がえると、荷物をまとめて、宿泊料を支払った。 ニース空港に着いた彼女は搭乗手続きをすませ、セキュリティチェックを通りぬけた。そして、搭乗ゲートで待っているとき、見覚えのある黒みがかった頭に目がとまった。頭の持ち主は新聞をのぞき込んでいる。 エストレリャは口をあんぐりと開けた。カルロがなぜ空港にいるのだろう? 「ここで何をしているの?」 彼に向かって尋ねたとき、もうすぐ搭乗が始まるというアナウンスが流れた。 カルロは新聞から目を上げて、驚いたふりをした。 「どうしたんだ、エストレリャ?きみこそ、ここで何をしている?」 「まだわたしの質問に答えていないわ。あなたはここで何をしているの?どこへ行くつもり?」 彼が立ちあがった。 「飛行機に乗るんだ。そして、インドへ行く」 「そんなはずないわ。インドへはわたしが行くのよ」 カルロは口笛を吹いた。 「運命だな」 「いいえ、運命じゃない。ただの間違いだわ」 「間違いじゃない」 彼は搭乗券を差しだした。そこに印字された座席番号は、エストレリャの席の隣だった。 「ここにチケットがある。席も取ってある。ぼくはインドへ行く」 「でも、なぜ?」 「きみが行くからさ。そばにいたいんだ。きみに目を光らせている人間が必要だろう」 彼がこんなことを言うのは、わたしを信用していないからではない。心配してくれているのだ。愛してくれているのだ。 前にも愛の告白は聞いていたが、このとき初めて、エストレリャはカルロの愛を体と心のすべてで感じた。これからは彼がいっしょにいて支えてくれる。長い年月、たったひとりでがんばってきたあとだけに、彼女は天にものぼる思いだった。 それでも、カルロが自分といっしょにインドへ行くという事実に対する驚きは大きかった。彼が何を手放し、何を犠牲にしようとしているのかをわかっていたからだ。 「でも、銀行は?家族の方たちはどうするの?」 「気にしなくていい。ぼくがこうするのは、きみのためでもあるけれど、自分のためでもあるんだ。ぼくにあの子たちを救うことができるなら、救ってやりたい」 エストレリャの目に涙があふれた。 「これから行くところに、高級ホテルはないのよ」 カルロは手を伸ばして彼女を抱き寄せ、腰に両腕をまわした。 「わかっているよ、カーラ。ぼくは寝袋や、蚊帳や、水筒の必要な生活でもだいじょうぶだ」 「それじゃあ、向こうに虫がいることは知っているのね」 「ああ。虫はたくさんいるだろうな」 カルロは少し唇をゆがめて笑った。 「だけど、これからの一年をきみと過ごせるなら、ばったの大群にだって耐えてみせるさ」 エストレリャの笑みがためらいがちになった。 「一年だけ?」 「それは、きみが結婚してくれるかどうかによるな」 「結婚するわ!」 エストレリャは両腕をカルロの首に巻きつけ、背伸びして彼の唇にキスした。 「カルロ・ガベリーニ、わたしがしたいことを教えてあげる。あなたと結婚して、あなたを愛して、死ぬまであなたと過ごしたい」 カルロが顔をほころばせて、エストレリャの唇を唇でそっとたどった。 「今のを書類にしてもらえるかい?」 エストレリャは声をあげて笑った。何年かぶりで心が軽くなっていた。 「必要ないわ。そんな書類を使う日はこないもの。わたしたちがいっしょになるのは、運命だったんだから」 <ご愛読ありがとうございました>──────────────────────────────────── この作品の一部、または全部を無断で転載、複製などをすることは著作権法上の例外を除いて禁じられています。 All rights reserved including the right of reproduction in whole or in part in any form. This edition is published by arrangement with Harlequin Enterprises II B.V./ S.a.r.l. All characters in this book are fictitious. Any resemblance to actual persons, living or dead, is purely coincidental. Published by Harlequin K.K., Tokyo, 2008
第23話 『カルロヘの感謝の想い』 <全24話> ──────────────────────────────────── その夜遅く、ホテルの部屋のドアの下に、封筒が二通差し入れられた。エストレリャはそれをベッドへ持っていった。 ひとつめの封筒は濃いクリーム色で、なかからやはりクリーム色をした、厚手の招待状が出てきた。 インテグロ投資銀行主催、 映画『ワン・ハート』のプレミアショーに、 貴殿をご招待申しあげます。 明晩七時、〈リヴィエラ・ホテル〉まで ぜひお越しください。 カルロが約束してくれた特別上映会だ。 エストレリャは震える手で、ふたつめの封筒を開けた。そこには、ニューデリーまでのファーストクラスの航空券が入っていた。片道だけの航空券が。それを見て、目に新たな涙があふれた。 翌日の夜、エストレリャはまるで闘いの準備をするように細心の注意を払い、上映会のためにドレスを着て、髪を整えて、化粧をした。ある意味で、それは闘いの準備だった。今夜遅く、カルロのもとを去る前に、もう一度だけ彼と顔を合わせる心がまえをしているのだから。 エストレリャはバスルームの鏡に映る青白い顔を見つめた。 今夜は地獄の苦しみを味わうことになるだろう。カルロといっしょにいながら、本当の意味でその時間を共有できないことは、想像できるかぎりもっとも残酷な罰だ。 ドレスのストラップに手を伸ばして、位置を直す。ドレスの生地は肌色のサテンで、きらきら光る透明なスパンコールをあしらった小さなすみれの花々が、その上を覆っていた。とてつもなく高価で、ハリウッドで好まれる挑発的なデザインだった。今夜もう一度だけ、魅惑的なモデルの役を演じなければならない。カメラマンや記者たちの前で輝いてみせて、『ワン・ハート』が間違いなく最大限の注目を集めるようにしなければならない。 カルロが運転手つきのリムジンをよこしてくれたので、エストレリャはそれに乗って〈リヴィエラ・ホテル〉へ向かった。途中、輝くスポットライトが、夜空に何本もの白い光の筋をつけているのが見えた。 リムジンが砂浜で止まって初めて、そのスポットライトがプレミアショーのためにつけられたもので、その光のもとにたくさんの人々が引き寄せられているのがわかった。 エストレリャは畏敬の念に打たれた。これはみんな、カルロが考えてくれたことだ。赤いカーペットの上を進むうちに、いくつものフラッシュが目の前で閃いた。大きな会場で開かれるプレミアショーに負けないほど、おおぜいの記者たちが集まっていた。 たった三日で、カルロはどうやってこれほどの準備をすべて整えたのだろう?わたしのために、上映会場や観客や記者たち、赤いカーペットまでそろえてくれたのだ。 エストレリャはもう少しで落ち着きを失いそうになった。カルロのしてくれたことすべてがとてもありがたくて、その援助に対する感謝で胸がいっぱいだった。今までカルロのような男性に出会ったことはない。そして、これからも出会うことがあるとは思えない。 砂の上に張られた白いテントのパビリオンに入ると、そのなかでカルロが待っていた。上映会は盛装で参加することになっていたので、今夜もまたタキシードを着ている。 その姿を見たとき、エストレリャの胸は高鳴った。カルロはとても大きく堂々としている。わたしの夢を守るために、力を尽くしてくれたのだ。 「とってもすてきよ」 エストレリャはカルロのタキシードの袖に手を置いて、頬にキスしようと伸びあがった。 そのとき、彼がこちらに顔を向けたので、キスは唇で受けとめられた。 「愛している」 エストレリャの目が熱くなった。胸の痛みはまるで引き潮のようだ。そのうずきに引っぱられ、のみ込まれそうになっているのに、屈することは許されない。インドの少女たちのことが頭に浮かんだとたん、自分にはやらなければならない仕事があるのを思いだした。 「わたしも愛しているわ」 エストレリャはそうささやいてカルロから離れ、各国からやってきた映画バイヤーの輪のなかへ入っていった。 <10/30公開 最終話へつづく> ──────────────────────────────────── この作品の一部、または全部を無断で転載、複製などをすることは著作権法上の例外を除いて禁じられています。 All rights reserved including the right of reproduction in whole or in part in any form. This edition is published by arrangement with Harlequin Enterprises II B.V./ S.a.r.l. All characters in this book are fictitious. Any resemblance to actual persons, living or dead, is purely coincidental. Published by Harlequin K.K., Tokyo, 2008
第22話 『プロポーズの行方』 <全24話> ──────────────────────────────────── 「ぼくと結婚してくれ」 カルロがせがむように繰り返した。 今まで、エストレリャが聞いたどんな言葉よりも甘い言葉だった。わたしの目標や夢、情熱の対象を知りながら、それでも求めてくれるなんて。彼の思いは驚くべきものだった。彼女は目頭が熱くなり、胸がいっぱいになった。 「できないわ」 向かい合ったエストレリャの腕を、カルロはしっかりつかんだ。 「なぜ、できない?」 「ひどい奥さんになるもの」 「そんなことはない!」 エストレリャは立ちあがって、カルロの唇にそっとキスした。 「あるのよ。とくに、ガベリーニの男性にとっては。ガベリーニ家はお金持ちで権力のある、とても有名な家柄でしょう。アルゼンチンのガルバン家みたいなものよ。わたしはそういう家がいやなの。もう二度と、そういう家では暮らせないの」 「いとしい人、そんなことを言わないでくれ」 「もう、やめて」 目が燃えるように熱く、エストレリャは涙をこらえるのが精いっぱいだった。 「お願い、言い争うのはやめましょう。ますます話がこじれるだけよ。わたしたちはそれぞれ人生において、異なる目標を掲げているわ、カルロ。お互いに目指す方向が違うのよ」 二人を乗せた車は、カンヌへ向かって走った。帰りの車中は、耐えられないほど緊張した空気に包まれていた。 〈カールトン・ホテル〉の前で車を止めると、カルロはエストレリャのほうを見て、険しい顔で言った。 「どうしてぼくたちがうまくいかないと思うのかわからない」 「こんな関係が長続きするはずはないもの」 エストレリャの目は砂が入ったようにごろごろしていた。 「あと一週間もしないうちに、カンヌの町は元どおりになる。ポスターははがされ、赤いカーペットは巻かれて、人々はいなくなる。わたしたちも同じよ。今はこの町の魔法にかかっているけど、これは現実の世界じゃないわ。少なくとも、わたしにとっては違う。わたしの生きる世界はタミール・ナドゥなの」 カルロの顔が青くなり、目のなかに恐怖が浮かんだ。 「子どもたちを救うために、きみがインドへ行く必要はないんだ」 ぶっきらぼうな口調だった。 「ここでだって、基金を募ることはできる。危険に身をさらさなくたって、孤児たちのことを世の中に知ってもらえるはずだ」 エストレリャはカルロがアリーのことを言っているのだとわかった。 「向こうへ行かなければ、子どもたちにお金が届くかどうかわからないわ。あの子たちがちゃんと世話をしてもらえるかどうか確かめなければならないの。万事うまくいってほしいと、願うだけではだめなのよ。絶対にうまくいくようにしなければならないの」 カルロの口元がこわばり、銀色の目が冷たくなった。 「ぼくたちがうまくいくかどうか、試すチャンスもくれないんだな」 エストレリャの目から涙がひと粒こぼれた。彼女はあわててそれをぬぐった。 「無理なのよ、カルロ。でも、あなたのことは本当に愛している。これからもずっと愛しつづけるわ」 「これで、さよならなのかい?」 さよならという言葉が、エストレリャは大嫌いだった。その言葉がこんなふうに使われることも。カルロの言い方だと、二人の別れが簡単なことのように聞こえる。簡単ではないのに。まるで地獄にいるような気分だ。それでも、少女たちを見捨てることはできない。約束したのだから。 「さよならするわけじゃないわ」 胸がいっぱいになって声がかすれた。 「オ・ルヴォワールはどう?また会う日まで」 「いやだね。そんな言葉は気に入らない。ぼくは言わないよ」 「それなら、言わなくていいわ」 エストレリャはカルロの唇に唇を押しつけて目を閉じ、自分に言い聞かせた。こんなふうに愛されたときの気持ちを覚えておこう。彼の強さや温かさ、とてつもない心の広さを覚えておこう。 涙をこらえて顔をそらし、カルロの耳にささやく。 「あなたのことは忘れないわ。あなたがわたしやタミール・ナドゥの子どもたちのためにしてくれたことは忘れない」 カルロが答えられずにいるうちに、エストレリャは車から抜けだし、涙をこらえてホテルに駆け込んだ。 <10/29公開 第23話へつづく> ──────────────────────────────────── この作品の一部、または全部を無断で転載、複製などをすることは著作権法上の例外を除いて禁じられています。 All rights reserved including the right of reproduction in whole or in part in any form. This edition is published by arrangement with Harlequin Enterprises II B.V./ S.a.r.l. All characters in this book are fictitious. Any resemblance to actual persons, living or dead, is purely coincidental. Published by Harlequin K.K., Tokyo, 2008
第21話 『無上の幸せ』 <全24話> ──────────────────────────────────── 二人のあいだには、何か激しいものが息づいていた。知性や言葉では明らかにできないものが。 カルロが頭をさげてキスをした。唇と舌を駆使したその本物のキスをされたとき、自分は今まで愛を交わしたことなどなかったのだとエストレリャは気づいた。セックスで喜びを得たことはあるが、それは愛ではなかった。この無上の幸せに、少しでも近づくものではなかった。 そう、こんなふうにだれかに近づくことは、無上の幸せだ。それは、とてもいい気分だった。自分にとってたいせつなものや人生の意義を見いだし、愛によって力を得たように感じるのは、すばらしい気分だった。 カルロがエストレリャの腿のあいだで体の位置をずらし、なめらかなひと突きで、なかへ入ってきた。彼女はなすすべもなく彼を締めつけた。息が喉に詰まり、熱が出たように肌がほてる。ほんのわずかな刺激にも、体が敏感に反応した。 二人の愛の行為は、ゆっくりとしていて濃密だった。それは強制や競争、勝つことや手に入れることとは無縁だった。ただ触れ合い、感じるためのものだった。二人きりで。 緊張がよみがえって快楽が募ってくると、感覚は鋭く強くなった。エストレリャはカルロの肩に腕をまわし、温かく汗ばんだ肌に顔を埋めて、彼にすべてを捧げた。体だけでなく、心も。 だれかに対してこんな気持ちになるとは、思ったこともなかった。それでも、これが愛なのだという確信はある。生まれてからずっと、ばらばらのかけらのような気持ちで過ごしてきた。でも今やっと、カルロがわたしという人間を、完璧にまとめあげてくれたのだ。 翌朝早く、エストレリャはカルロの愛撫で目覚め、二人はふたたび愛し合った。 互いに燃え尽きたあと、エストレリャはベッドに頬杖をついて、カルロを見おろした。 「どんな暮らしをしているか話してくれないのね」 急に深刻な気持ちになって言う。 「家族のことも、昔の恋人のことも」 「うちは大家族なんだ。弟が三人。みんなイタリアで働いている。それに、親戚がおおぜい」 カルロは肩をすくめた。 「そして、きみに会うまで、だれかを愛したことはなかった。付き合った女性はいるけど、そこに愛はなかった」 おかしなことに、エストレリャの脈拍は二倍の速さになった。 「わたしも同じ気持ちよ」 カルロは手を伸ばして、エストレリャの頬を包んだ。彼女の顔の形や、緑がかったはしばみ色の知性的な目が好きだった。ぼくが女性に求めるすべてを、エストレリャは持っている。いや、それ以上のものを。 「今、いちばんの願いはなんだい?」 「タミール・ナドゥにいるすばらしい女の子たちを、力のかぎり救うこと」 自分に関係したことでないのにがっかりしながら、カルロは首を伸ばして、エストレリャの唇にキスしてささやいた。 「その次は?」 「『ワン・ハート』を世界じゅうに広めること。孤児たちのことを、みんなに知ってもらいたいの」 カルロはまたキスした。 「その願いはかなうよ」 昼前に、二人はドライブに出かけた。人でこみ合うにぎやかなカンヌをあとにして、高い山々へ続く道を進んでいくと、コート・ダジュール一帯のすばらしい景色が望める。 カルロは丘の上にあるムージャンという古い村に入って、車を止めた。二人は野生の花が咲き乱れる草地を横切り、崩れかけた石の壁に向かって歩いていった。 壁に座ると、エストレリャがカルロに寄りかかった。 「きれいなところね。とても平和だわ」 カルロは彼女を見おろした。黒みがかった長い髪が片方の肩にかかっているようすを眺めながら、胸が熱く締めつけられるのを感じた。こんな気持ちになったのは初めてだ。これからも、ほかのだれかに、同じ気持ちを抱くことはないだろう。 エストレリャの顔を自分のほうに向かせて、視線を合わせる。 ああ、ぼくは彼女を愛している。彼女なしの人生など、考えられない。 カルロはエストレリャの顔を両手で包み、キスをした。 「ぼくと結婚してくれ」 <10/28公開 第22話へつづく> ──────────────────────────────────── この作品の一部、または全部を無断で転載、複製などをすることは著作権法上の例外を除いて禁じられています。 All rights reserved including the right of reproduction in whole or in part in any form. This edition is published by arrangement with Harlequin Enterprises II B.V./ S.a.r.l. All characters in this book are fictitious. Any resemblance to actual persons, living or dead, is purely coincidental. Published by Harlequin K.K., Tokyo, 2008
第20話 『熱い情熱』 <全24話> ──────────────────────────────────── 赤いシルクのドレスについた小さなホックがはずされ、真紅の生地が引きおろされた。黒いレースのブラジャーがあらわになる。そのままドレスはヒップを滑りおり、足元に落ちた。 カルロの口が両手のあとをたどった。なめらかな肩から、胸のふくらみ、腰の曲線へと。 エストレリャはあまりに多くを感じ、あまりに強い欲望を覚えていた。だからこそ、カルロに身をまかせて自制心を解き放ち、この一瞬を楽しむのは、ぞくぞくするほどの快感だった。 そして、カルロはこの一瞬を最高のものにするすべを知っていた。耳たぶの下に触れた唇が、胸へ伝いおりる。肌の上で舌が小さな円をいくつも描き、炎を燃えたたせた。唇で胸の先端をとらえられて、エストレリャははっと息をのんだ。熱い口が押しつけられると同時に、責め苦と喜びが同時に襲いかかってきた。 彼とこうしているのは、官能的で刺激的だ。求めていたものが、すべて現実になった。全身がだんだんとほてり、エストレリャの想像をかきたてた。そして、彼女はもっとほしくなった。 カルロが頭を上げた。暗がりで輝く目が、じっと彼女を見つめた。息遣いは荒く、銀色の目は青みを帯びている。 彼はわたしがほしいのだ。わたしが与えられるすべてがほしいのだ。 エストレリャは身を乗りだして、カルロの胸に自分の胸をこすりつけた。それから、シャツのボタンをひとつずつゆっくりとはずした。 カルロはそのようすを見守っていた。好奇心に満ちた鋭い視線を感じながら、エストレリャはシャツを彼の肩から滑り落とした。 うっすらと焼けた胸と筋肉質の平らな腹部があらわになった。固い腹部に両手を置き、筋肉を舌でそっとなぞる。肌はとても温かく、いい香りがして、サテンのようになめらかだった。これほどすばらしくセクシーな男性が、今夜はわたしだけのものになるのだ。 エストレリャが目を上げると、視線と視線が絡み合った。何も言わずに彼のベルトを引きぬき、黒いパンツのファスナーを下ろす。 言葉を使い果たしたかのように、二人とも黙っていた。沈黙が興奮と情熱を高める。 エストレリャはあまりに彼を意識していたため、まるで鼓動が聞こえ、息遣いまで伝わってくるような気がした。 カルロと視線を合わせたままで、下着の上からそっと彼をてのひらに包む。そこは、すでに硬く張りつめていた。彼女は白い生地の下に手を滑り込ませ、全体をなでた。 カルロの喉の奥からうめき声がもれた。もう一度なでると、今度は緊張した腹部が収縮し、贅肉のない腰が揺れ動くのがわかった。エストレリャは生まれて初めて、手と口で男性を愛したくなった。彼を感じて、味わいたい。彼を完全に自分のものにしたい。 しかし、そうはさせてもらえなかった。ひざまずこうとしたとき、彼女はカルロの手で立たされて、ベッドへ運ばれた。 <10/27公開 第21話へつづく> ──────────────────────────────────── この作品の一部、または全部を無断で転載、複製などをすることは著作権法上の例外を除いて禁じられています。 All rights reserved including the right of reproduction in whole or in part in any form. This edition is published by arrangement with Harlequin Enterprises II B.V./ S.a.r.l. All characters in this book are fictitious. Any resemblance to actual persons, living or dead, is purely coincidental. Published by Harlequin K.K., Tokyo, 2008
第19話 『魅惑的なカルロ』 <全24話> ──────────────────────────────────── 一瞬のうちにわきあがった感情に圧倒されそうになって、エストレリャは打ち明けた。 「ずっとあなたを待っていたような気がするわ」 カルロは彼女に覆いかぶさったが、両肘をつき、胸と胸が軽く触れ合うところで上半身の体重を支えた。 「ぼくもだ」 あらわになったエストレリャの鎖骨と首筋にキスの雨を降らす。 首筋にそっとキスされて、エストレリャは体を震わせた。肌に当たる唇の感触はとても甘美だった。唇で唇をたどられると、彼女はため息をついてカルロに両手を伸ばした。黒い髪に深く指を差し入れて、後頭部をてのひらで包み込む。 そして、彼の口元でささやいた。 「ここで始めないほうがいいわ。やめられなくなるもの」 「帰ったほうがいいかもしれないな」 「そうね。わたしのホテルへ行きましょう」 〈カールトン・ホテル〉へ戻る途中、パレ・デ・フェスティバル・エ・デ・コングレの前を通りかかった。赤いカーペットを敷いた二十二の石段で知られる、映画祭のメインホールだ。多くの著名な映画監督や俳優たちがそろってこの石段を上り、やはり多くのカメラマンたちがこぞってこの石段にレンズを向けるのだ。 カルロはエストレリャの腰に腕をまわして、少し歩をゆるめた。これほど楽しい夜を過ごしたのは、本当に久しぶりだ。エストレリャといっしょにいると気分がいい。いつもより感覚もさえているし、気持ちもくつろいでいる。 「ほら、これがカンヌでいちばん有名な階段だ」 ハイヒールを二本の指でぶらさげたエストレリャが言った。 「人がいないと、感じが違うわね」 「きみもあの石段を上りたい?」 エストレリャは首を振った。 「わたしは名声には興味がないから。実際、仕事を変えようと思っているの。人々のために何かができればと考えているわ」 その言葉に、カルロは驚いた。 「モデルをやめるのかい?」 「〈リリーフ・ナウ〉で仕事をしないかと誘われているの。受けようと思っているわ」 エストレリャはほつれた髪を耳にかけた。 カルロは彼女を見つめた。髪をかきあげる手、月明かりを映してきらめく目。いくら眺めても飽きることはないだろう。 「給料をもらえる仕事なのかい?」 「いいえ。でも、貯金が少し残っているから、一、二年は食べていけるわ」 「スポットライトはもう浴びなくていいというわけだね?」 カルロはそう尋ねながら、ミラノの大きな屋敷で静かに暮らし、週末にはコモ湖の別荘で過ごすエストレリャとの生活を思い描いた。 「ええ、もういいわ」 二人は〈カールトン・ホテル〉に着き、正面の石段を上った。 なかまで送ってくれたカルロを、エストレリャはエレベーターに引き入れた。 「どこか行かなければならないところはある?」 そう尋ねたとき、扉が閉まった。 二人の視線が絡み合う。 「今夜はない」 エストレリャはカルロの目に溺れてしまいそうだった。カルロに溺れてしまいそうだった。 「それなら、いっしょにいて」 カルロはいっしょにいてくれた。 何カ月もだれとも付き合っていなかったので、ゆっくりと服を脱がされるあいだ、エストレリャは息を詰めていた。 <10/26公開 第20話へつづく> ──────────────────────────────────── この作品の一部、または全部を無断で転載、複製などをすることは著作権法上の例外を除いて禁じられています。 All rights reserved including the right of reproduction in whole or in part in any form. This edition is published by arrangement with Harlequin Enterprises II B.V./ S.a.r.l. All characters in this book are fictitious. Any resemblance to actual persons, living or dead, is purely coincidental. Published by Harlequin K.K., Tokyo, 2008
第18話 『キスの魔力』 <全24話> ──────────────────────────────────── エストレリャは赤いハイヒールのストラップをはずして裸足になり、カルロと並んでひんやりした砂の上を歩いた。 四百メートルほど黙って歩くうちに、エストレリャは自分がカルロと過ごす時間を楽しんでいることに気づいた。今夜、彼はわたしをすばらしい気分にさせてくれた。人生だけでなく、わたし自身についても。 カルロは力強く、しっかりした、本物の男性に思える。 赤いドレスの裾をさらに高く持ちあげて、エストレリャは波打ちぎわに歩を進めた。冷たい水が足にまつわりつき、肌をくすぐる。 ここで見る空はとても大きく果てしない。彼女は振り返って、白亜の建物がひしめく、まばゆいカンヌの町並みに目をやった。 そして、その町を背景にして広がる人けのない砂浜をぐるっと示した。 「まるで映画みたい。授賞式の前に、この砂浜で映画を見せればいいのに。ここの美しさには、どの劇場だってかなわないわ」 小さな声で笑って、カルロを見つめる。 「ごめんなさい。ひとりでしゃべりすぎているわね」 「あやまることはない。楽しいよ。きみの思いつきや考えを聞くのは楽しい。きみのすべてを知りたいんだ」 「でも、言わなくてもいいことまで言うかもしれないわ。間違ったことだって言うかもしれないし」 カルロは近づいてきて、すぐ隣で足を止めた。 「自分の意見を持てないなら、思考があっても意味がないだろう?そして口にしてはいけないなら、自分の意見を持つことにも意味はないよ」 エストレリャはこみあげる感情を押し隠して、かすかに口元をほころばせた。 「気をつけて。わたしはいろいろな意見を持っているわよ」 「そいつはいいね」 カルロは波打ちぎわから離れて、砂の上に腰を下ろした。 「ここへ来て、アルゼンチンの話をしてくれないか。ぼくは行ったことがないんだ」 エストレリャは隣に座った。彼が上着を脱いでむきだしの肩にかけてくれたので、シルクで裏打ちした温かな生地にくるまった。 「ここにいると、マル・イ・シエラスを思いだすわ。訳すと、“海沿いの丘陵地帯”ぐらいの意味かしら」 「ロマンチックな感じがするね」 「そうでしょうね。アルゼンチン人がよく遊びに行きたがる場所なの。このコート・ダジュールみたいに。マル・イ・シエラスには、きれいなビーチやリゾートがあって、大きなナイトクラブやカジノもある。ここと同じように、お金持ちでおしゃれな人たちが集まるのよ」 言葉はそこでとぎれた。カルロが身を乗りだして、エストレリャの頭のうしろをてのひらで支え、キスで口をふさいだのだ。 彼の唇を感じたとたん、熱い炎が揺らめき、エストレリャははっと息をのんだ。カルロの肌は温かくいい香りがして、体はたくましかった。これこそが自分に必要なものだったのだと、彼女の本能が告げていた。 エストレリャは両手でカルロの顔を包み、肌の感触や髪の手ざわりを楽しんだ。 彼が唇でエストレリャの唇を開いた。舌で探られ、唇を強く押しつけられると、彼女の腹部はぎゅっと締めつけられた。 キスの魔力は、テクニックというよりも情熱から生まれていた。 二人のあいだの情熱は、手で触れられそうなほど激しかった。 やがて、エストレリャは砂の上に横たえられた。黒いジャケット越しに、体がやわらかな砂の粒に沈み込む。 カルロが頭を上げ、真剣な表情でじっと彼女を見おろした。 「ぼくがどんなにきみにキスをしたいと思っていたか、わからないだろうね」 「それなら、もう一度してみたほうがいいかもしれないわ」 エストレリャはささやいた。 <10/23公開 第19話へつづく> ──────────────────────────────────── この作品の一部、または全部を無断で転載、複製などをすることは著作権法上の例外を除いて禁じられています。 All rights reserved including the right of reproduction in whole or in part in any form. This edition is published by arrangement with Harlequin Enterprises II B.V./ S.a.r.l. All characters in this book are fictitious. Any resemblance to actual persons, living or dead, is purely coincidental. Published by Harlequin K.K., Tokyo, 2008
第17話 『心地よい安堵』 <全24話> ──────────────────────────────────── 「みんなアリーの功績よ。ビジョンを持って、たいへんな役目をこなしたの。そんな彼女の作品をちゃんと観てもらいたかった。そして、そのとおりになった。あなたにお礼を言うわ」 カルロは観客のいなくなった会場にすばやく視線をめぐらせた。 「もっと大きな場所ならよかったんだけどな。もっとたくさんの人に見てもらうべきだ」 「いつかはね」 カルロの目がエストレリャの顔を探った。 「きみは本当にあの子たちのことを心にかけているんだな」 「当たり前でしょう。あんなにかわいい子どもたちなのに、あそこにいたら未来はないのよ。あの子たちにはもっと価値があるわ。家庭や教育や栄養を与えられる価値が。そして、何より、愛を与えられる価値が」 「養子を斡旋したらどうかな?」 「それも目標のひとつよ。でも、インド国籍の子どもを養子にするのは簡単ではないの。いろいろと複雑な手続きがあって、それをやっと切りぬけても、すべての子どもたちが養子になれるわけではないのよ。そうしたら、残された子どもたちはどうなると思う?だから、養子になれない子どもたちを助けるための資金をつくって、孤児院に教師を送ったり、本や備品を買ったり、薬や食べ物や服を買ったりしようとしているの。やらなければいけないことは山ほどあるのよ」 カルロの表情がやさしくなった。 「きみもそういうことがしたいんだね?」 「ええ」 カルロは手を伸ばして、エストレリャの顔にかかった黒髪をひと房、うしろへなでつけた。 「だけど、きみに世界を救うことはできない」 顔に当たる彼の手の感触は心地よかったが、その言葉に心がうずいた。 「なぜ?」 ありがたいことに、カルロは笑わなかった。ただ、思いやりに満ちた表情で、ゆっくりと首を一度振った。 「そんなことを答えさせないでくれ。今日は長い一日だっただろう?夕食をごちそうさせてくれないか?」 エストレリャは口を開いて断ろうとしたが、できなかった。 まだカルロといっしょにいたい。今夜、彼がここに来てくれて、とてもうれしかった。彼の理解と協力に、必要以上の喜びを感じてしまっている。そんな状態で、別れを告げられるはずがない。 頭を上げて、カルロの顔を見つめる。その顔はとても精悍で、とても落ち着いていた。見つめていると、なぜか胸がときめいた。 わたしには、味方になってくれる人が必要だった。扉を開けて、事を起こしてくれる人が。カルロはそのすべてをしてくれた。 カルロはそこにいて、わたしを支えてくれたのだ。彼のしてくれたことはすばらしかった。 カルロのそばにいて、不安を感じないのは初めてだ。肩肘を張らずに、ただいっしょにいたいと思うのも。心配も、疑いも、抵抗する気持ちも、すべて消えうせた。もしかしたら、彼と夕食をとるのはいい考えかもしれない。 「ええ、すてきね。ありがとう」 二人は混雑したクロワゼット大通りから二ブロックほど離れ、どっしりと居並ぶホテルの裏に隠れた、静かなレストランで食事をした。食事のあとは、できるだけ人ごみを避けて〈カールトン・ホテル〉へ戻るため、ビーチへ向かった。 月明かりが海面を照らし、黒っぽい砂に波が白く泡だっていた。 <10/22公開 第18話へつづく> ──────────────────────────────────── この作品の一部、または全部を無断で転載、複製などをすることは著作権法上の例外を除いて禁じられています。 All rights reserved including the right of reproduction in whole or in part in any form. This edition is published by arrangement with Harlequin Enterprises II B.V./ S.a.r.l. All characters in this book are fictitious. Any resemblance to actual persons, living or dead, is purely coincidental. Published by Harlequin K.K., Tokyo, 2008
第16話 『絶賛の拍手』 <全24話> ──────────────────────────────────── 上映会場は暗かった。映画が終わっても、完全な静けさに包まれていた。エストレリャは両手で椅子の肘を握り締めて、胸を刺すような失望の痛みをこらえた。 観客に気に入ってもらえなかったのだ。 感動を覚えてもらえなかったのだ。 自分と同じようには、子どもたちのことを見てもらえなかったのだ。 明かりがついても、赤い椅子が並んだ観客席は静まり返っていた。 そして突然、だれかが拍手した。 次の瞬間、おおぜいの人たちが拍手していた。 エストレリャは鳥肌が立つのを感じた。拍手の音はだんだん大きく、速くなった。頭のなかでごうごうと鈍い音がとどろく。 どう考えていいのかも、どう感じていいのかもわからない。 気に入ってもらえたのだろうか? だれかが彼女の肘に手を触れ、耳元で言った。 「立って。みんな、きみを見たいんだ。きみをたたえたいんだよ」 エストレリャはゆっくりと立ちあがった。照明がさらに明るくなった。そんなものはないのに、スポットライトを浴びて立っている気がした。場内から観客が去ったあとも、彼女の耳のなかではまだ拍手喝采が鳴り響いていた。 今、思うことはふたつだけだ。カルロがいっしょに上映会に参加してくれていたらよかったということ――ホテルに電話して伝言を残しておいたが、返事はなかった。そして、アリーがここにいて、すべてを見ていてくれたらよかったということ。 アリーは大喜びしただろう。彼女こそ、みんなの賞賛を受けるにふさわしい人だった。 「すばらしい仕事をしたね」 エストレリャはくるりと振り返った。すぐうしろの列に、カルロが立っていた。盛装しており、とくに連れはいないようだ。 彼女のなかに驚きとうれしさがわきあがった。赤いシルクのショールをむきだしの肩に巻きつけて言う。 「来てくれたのね」 「これは見逃せないよ」 エストレリャの喜びはさらにふくれあがった。ほろ苦い気持ちで胸がいっぱいになる。カルロ・ガベリーニは敵だと思っていたのに、もうそんなふうには感じられない。 「ホテルのフロントに伝言を残したのに、あなたから連絡がなかったから……」 声がとぎれて、顔が赤くなった。まるで、女子学生のような話し方だ。 「ミラノで商談があったんだ。飛行機で飛んで、一日向こうにいて、夕方戻ったばかりだ」 「でも、映画は観てくれた?」 「ぜんぶ観たよ」 「正直に言って。どう思った?」 「とても力強くて、とてもまっすぐな映画だ」 頬がほてるのがわかったが、エストレリャには抑えようがなかった。ずっと長いあいだ、今夜を待っていたのだ。 <10/21公開 第17話へつづく> ──────────────────────────────────── この作品の一部、または全部を無断で転載、複製などをすることは著作権法上の例外を除いて禁じられています。 All rights reserved including the right of reproduction in whole or in part in any form. This edition is published by arrangement with Harlequin Enterprises II B.V./ S.a.r.l. All characters in this book are fictitious. Any resemblance to actual persons, living or dead, is purely coincidental. Published by Harlequin K.K., Tokyo, 2008
第15話 『とけた誤解』 <全24話> ──────────────────────────────────── エストレリャは呪縛を解こうとするかのように片手を上げた。こんなことを考えたのは、暑さのせいだ。いつまでも弱まらない日差しのせいでもあるし、疲れているせいでもある。 カルロのせいでも、運命のせいでもない。彼といっしょにいることを、こんなにうれしがっていてはいけないのだ。彼はどうしようもない男だ。彼のせいでわたしは窮地に陥った。つながりを持つなどとんでもない。意思のうえでも、気持ちのうえでも、そのほかのどんな部分においても。 エストレリャは椅子を引いて立ちあがった。 「もう遅いわ。行かないと。まだたくさんやることがあるの」 カルロも立ちあがった。 「ほかに手伝えることはないかい?もっと何かあるはずだ」 確かにあるだろう。彼ほどの資産家なら、上映会場を押さえることも、観客を集めることもできるに違いない。 しかし、それを頼むわけにはいかない。危険だし、間違っている。 「役に立ちたいなら、〈リリーフ・ナウ〉という団体を支援してあげて。アリーが携わっていたNPOなの。寄付したら、きっと喜ばれるわ」 いっしょに表へ出ると、カルロはエストレリャをタクシーの後部座席に押し込んだ。しかし、すぐには車を出させようとせず、座席に身を乗りだして、銀色の目でじっと彼女を見据えた。 「ぼくには障害のある妹がいたんだ。二年ほど前に亡くなったけど、生きていたらきみのことを好きになったと思うよ、エストレリャ。きみがやっていることもすばらしいと感じたと思う」 少しためらって付け加える。 「ぼくもきみがやっていることをすばらしいと思っている」 エストレリャは首を振った。なんと言えばいいかわからなかった。またもや、気持ちをかき乱されていた。相容れない感情があまりにたくさんありすぎた。 カルロは静かな声で続けた。 「妹のギャビーはルーマニアからもらわれてきた。母はずっと女の子をほしがっていてね。ギャビーは母のたいせつな娘だったんだ」 エストレリャの顔をじっと見おろしながら、カルロは恋に落ちたことに気づいた。それも、激しい恋に。 彼は手を伸ばして、エストレリャの頬に触れた。 「うしろだてが必要なときはいつでも力になるよ、エストレリャ」 エストレリャの目に涙が浮かんだ。 「わたしは今でも『ワン・ハート』を上映したいの。もしかして、どこかに電話をかけるか何かして、裏から手をまわしてもらうことはできる?」 カルロは上体を起こして言った。 「手伝えることがないか考えてみよう」 <10/20公開 第16話へつづく> ──────────────────────────────────── この作品の一部、または全部を無断で転載、複製などをすることは著作権法上の例外を除いて禁じられています。 All rights reserved including the right of reproduction in whole or in part in any form. This edition is published by arrangement with Harlequin Enterprises II B.V./ S.a.r.l. All characters in this book are fictitious. Any resemblance to actual persons, living or dead, is purely coincidental. Published by Harlequin K.K., Tokyo, 2008 │<< 前のページへ │一覧 │ 一番上に戻る │ |