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「俺はさ」
圭の昔話を聞いて、暁も自然と自分の過去を話す気になった。 2,3歩下がって壁にもたれかかると、ジーンズのポケットに両手を突っ込んで、うつむき加減に話し出した。 圭は暁に向き直ると、片膝を抱えて、逆の足を下ろして話を聞く体制を取った。 「高校2年の時、ある女の子に付き合って欲しいって言われて、別に初めてじゃなかったし、断る理由も無かったから、俺は軽いノリでオッケーしたんだ。」 話しにくいのか、暁は話している最中に何度も自分の髪を触った。 「すごく甲斐甲斐しい子だった。違うクラスなのに、わざわざ弁当作って持ってきてくれたりだとか、Hの時も、俺はまるで宮殿の王子様のような扱いを受けたしね。」 暁はクッと自嘲気味に笑うと、また前髪をかき上げた。 「けど、距離が縮まれば縮まるほど、その子が近づいてくればくるほど、俺はわずらわしくなって行った。自分でも信じられないくらい冷たい言葉でその子を何度も傷つけた。でも彼女はそれでも笑って付いて来るんだ。俺は何かやばい感じがして、もう別れようって言ったんだけど、彼女は頑なについて来た。」 圭はちょっと生意気な高校生の暁と、後ろから大きな背中を見つめてる小さな女の子を想像した。彼女は冷たくされても、その背中が目の前にあるだけで幸せだったんだろうか。 「朝、今日こそは彼女に優しくしようって誓って家を出るんだ。でもうちの前で待ってる彼女の顔を見た途端、スイッチが入ったように黒いものが湧き出て来る。俺は自分をコントロールできなくなっていった。」 暁は背中を壁につけたまま、ずるずると膝を折って座り込んだ。 「俺は、あてつけるように、他の女と付き合い始めたんだ。それでも彼女は俺と別れたくないと言った。俺は・・・。」 暁は乾ききった口内を、無理やり唾を飲み込むことで湿らせた。喉が痛い。口を両手で覆うと、大きく息を吐いた。そんな様子を見て、圭は暁のそばに寄った。そして隣に同じように座ると、肩を優しくなでた。 「・・・俺は、彼女がうちに来る時間に合わせて、女を呼んで、抱いたんだ。」 腕に当てられた圭の手が止まった。暁は口に当てていた手で顔を覆うと、そのまま髪をかき上げ頭を抱いた。 「彼女に見せつけるため・・・?」 圭が聞くと、暁は膝に顔を埋めたままの姿勢で頷いた。 「彼女の反応に・・・満足した?」 暁はしばらくそのままの姿勢でいたが、やがて、息を深く吸うと、顔を上げ、頭を壁にもたれかけた。 「死んだ。」 圭は腕に触れた手をそのままに黙って暁を見た。 「彼女はその日、信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれて死んだ。彼 女の両親も、みんな俺のせいじゃないって言ったけど、俺は、その日じゃなければ避けられたんじゃないかと思ってる。もっと早く気付けたかもしれない・・・もしかしたら、死んでもいいって一瞬考えたんじゃないかって思うんだ。」 圭は何も言わなかった。でも暁の腕に触れた手が少し震えていた。暁はそれを感じながら、話を続けた。 「でもね、俺は泣けなかった。俺の所為だと自分を責めながらも、どこかで彼女がいなくなってホッとしてたんだ。そんな自分が怖かった。・・・スイッチが入っちゃうと、自分がコントロールできない。自分が自分で無くなる。」 だから俺はスイッチが入る前にいつでも切れる距離にいたいんだ。と言って暁は自分の腕から圭の手を取って圭に返した。 「俺はここに、逃げてきたんだ。・・・俺ってそういう奴。」 暁はフッと悲しげに笑うと、片手で髪をかき上げ、足を床に放り投げた。 沈黙の時が流れた。どちらもしばらく動こうとしなかった。 --- 君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・25 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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