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衛がコーヒーメーカーからできたてのコーヒーをマグカップに注いでいるところへ、圭が入ってきた。
「うわっ。びっくりした。」 ドアを開けた目の前に人がいたので、圭は文字通り飛び上がった。衛はその様子を見てひとしきり笑うと、ヘッドフォンをはずして胸を押さえている圭にマグカップを二つ、上の部分を覆うように掴んで差し出した。 「いいところに来た。靴を脱ぐ前に、これ、隣のミーティングルームに持って行って。」 圭は、あ、はい。と返事をすると、鞄とヘッドフォンを床に置いてから、取っ手の部分を受け取った。衛が手を伸ばしてドアを支えてやると、圭はソロソロとこぼさないように運んで行った。 「待てよ、両手が塞がれている状態でどうやってドアを開けるんだ?」 衛はいったんドアを閉めたが、急いで靴を履くとドアを開けた。案の定、圭はミーティングルームの前で固まっていた。 「おお、悪い」 声をかけると、圭が衛のほうを向いて首を振った。 「?」 なんだか様子おかしい。衛が近寄ると、ミーティングルームから山崎の声が聞こえてきた。 「俺、本気なんです。暁さんのことが好きなんです。」 何を言われているか理解できず、ポカンと口を開ける暁に、山崎は、堰を切ったように次から次へと言いたいことを畳み掛けた。 「始めは贔屓されていることが嫌なんだと思ってたんです、でも、アキラさんが誰かと一緒にいるのが嫌なんだってことに気づいたんです。最近ずっとニシハラと一緒にいて、アキラさんは今までと同じように俺と接しているつもりかもしれないけど、前は約束をすっぽかすなんてなかった。ずっと一緒にいて欲しいんです。誰かと一緒にいるところは見たくないんです。」 「ちょ、待て。」 暁はやっと何を言われているかわかって、立ち上がって興奮する山崎の肩を押して、とにかく座らせようとした。しかし、一度頭に血が上ってしまった山崎は止まらない。 「アキラさんはニシハラのこと、どう思ってるんですか?付き合ってるんですか?俺なんか相手にならないですか?」 「あーあ、こりゃだめだな。」 外でこのやり取りを聞いていた衛はため息をついて、クイッと眼鏡を上げた。 「暁にこの攻め方は間違ってるな。相手が熱くなればなるほど、暁は冷めてくんだ。」 そう言って、衛はちらりと圭を盗み見た。圭は何も言わず無表情でドアを見つめている。 「落ちつけって。」 暁は山崎の頬を軽く叩いた。山崎はハッとして暁を見上げたが、暁の眼を見るとゾクッとして一歩下がった。 「俺のプライベートはお前には関係ない。慕ってくれるのは嬉しいが、行き過ぎた好意には答えられない。今度から俺に用があるときはカトウと二人で来い。」 暁の冷たい視線に、山崎は頭が痺れたような感じがしてペタンと座り込んだ。暁はそのままボールペンと裏紙を手に取ると、無言でミーティングルームを出た。 「あつっ」 ドアを勢いよく開けると、目の前にいた圭は、驚いて手に持ったコーヒーをこぼした。 「あ、悪い。」 思わず暁が手を伸ばすと、圭はビクッとして身を引いた。暁は圭の揺らいだ瞳で、自分が山崎に何を言ったかを自覚した。ツーッと嫌な汗が背中を伝う。暁はゆっくりと左手で自分の顔を覆った。その様子を見て、衛が暁の肩を優しく叩く。 「ヤマサキのフォローは俺が入れとくから、お前はもう帰れ。今日は疲れてるんだよ。」 それから、圭に向かって悪いけど付いててやってと言うと、ミーティングルームに入って行った。 --- 君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・31 人物紹介 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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