ここのところ夜中まで詰めて作業をしていた暁は、その日も夜中まで1人院生室に残って作業をしていた。ひと段落付いてノートパソコンを閉じた時は既に午前2時を回っていた。あくびをしながら院生室の鍵をかけ、非常灯だけが点いた廊下に出た。歩き出そうと振り返った瞬間眠気がふっとんだ。
暗闇の中に山崎が立っていた。
「何してるんだ、お前。加藤が心配して探してたぞ。」
「アキラさん、見せたいものがあるんです。」
山崎は暁の言葉をまるっきり無視して口を開いた。
「こんな時間になにもないだろう。明日改めて来いよ。」
暁は目を合わさないようにして早口で告げると、歩き出した。
「ニシハラのことです。僕を無視すると、彼のためになりませんよ。」
暁は立ち止まって振り返った。闇の中でニヤリと笑う山崎の表情を見て、背中に何か這うようなものを感じた。
「ついてきてください。」
山崎は歩き出した。暁は黙って付いて行くしかなかった。
「見せたいものは家にあるんです。さ、どうぞ。」
山崎に車に乗るよう促されて、暁は躊躇した。
「学校に、持って来られないものなのか?」
暁の拒絶に山崎はクスリと笑う。
「僕はかまいませんけどね、見られて困るのはニシハラですよ。」
「本当に、こんな時間に出向く価値のあるものなんだろうな。」
暁は山崎を少し上から見下ろして、脅しをかけたが、山崎に効果はなかった。
「それを決めるのはあなたです。僕は提案しているだけ。僕は彼が学校に来られなくなるような事態になっても全くかまわないんですから。」
山崎の態度の余裕さが、これがはったりではないことを匂わせていた。どうします?と山崎が下から暁を見上げて言った。
「わかった。ただし、自走させてもらう。バイク取ってくるから待ってろ。」
暁の答えに、山崎は口端を上げると、どうぞご自由に、と言って車に乗り込んだ。
暁はバイクを取りに行きながら、衛に連絡をつけようか迷ったが、夜中の2時半と言う時間が電話することをためらわせた。これから山崎の家に行くというメールを手早く衛の携帯に送ってから、山崎の後を追った。
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君が思うほど僕は君のこと好きじゃない・37
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