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2014.07.25
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カテゴリ:高論歩事件帳
ひょうたん.jpg


 丸田万吉巡査と高論歩刑事が、結次郎老人がいないかと、畑の中を、探るように、覗いていると、「おっと、気いつけような、こぼれちゃもったいない、もったいない」肥桶を担いで、畑の中を歩いている結次郎老人が見えた。
「おおい、ケチ次郎さん、こんにちは!」
 結次郎は、振り向くと、人懐っこい笑顔をこちらに向けて、軽く頭を下げた。
「ちょっくら、待ってくれ、すぐ済ますから」
 人糞を糞溜めに入れているらしい。鼻が曲がりそうな臭気が掻き回されていた。悪臭のもとはこれだったのだ。
 結次郎老人は年の割合に達者な動きで、いつもの顔中を笑顔にして、「いやぁ、臭くて堪らんだろうが、人糞を発酵させるとね、、最高の肥料になるんだなぁ、町じゃ、鶏糞だの牛糞だのトン糞だのを、売ってるがねえ、人間様の肥料が一番栄養素が含まれていていいんだよ、江戸の頃は、みな、百姓が町人から、買ったもんなんだよ捨てて、流してしまうなんてのは、ああ、もったいない、もったいない」
 擦り切れそうなジーパンに荒いざらしのシャツを着ている。年に似合わぬ、なかなか、現代風な服装だ。多分バザーで手に入れた洋服だろう。

「結次郎さん、実はね、今日お邪魔したのは、里の梅子さんから、畑のものを盗まれたと、訴えがあってねぇ」
 あはははぁと、ますます顔中を笑皺にして、頭を掻く。
「こうして、人糞をね、自分のものだけじゃ足りないから、里の家からも、貰ってね、運んで、発酵させて、畑に撒くのさ、ところがね、雨が降ると、その肥料がみんな下の方、つまり、儀一郎さんの畑に流れてしまうんだよ。だからね、視てきたでしょ、儀一郎さんの畑はいつも大大豊作なのよ。誰のお蔭なのかなあ?それに引き替え儂のところの作物は見てのご覧のとおり、苦労の割に、なりが悪いのさ、だから、その、肥料代として、少しばかり頂いているんですがね、私は善意のつもりなんですよ。儀一郎さんはそこのところをわかってくれたんだが、女の人はどうも、ケチでいけないですね、あはは、ケチは私でしたね。嫁の梅子さんね、確かに怖い顔で私を睨んでいましたよ」

 うぅんと、丸田万吉巡査は唸った。一理あるとでも、いいたげなようだ。チッチッチッ、高論歩刑事の舌が鳴った。
「結次郎さん、それはね、契約と云うものがなくっちゃいけないいね、肥料代、年間幾ら、肥料代として、作物の何割かいただくとかね、それがなくて、無断で、他人の作物を持ってくるのは、やはり、泥棒です。窃盗になります」
「そんなもんですか、でもねえ、里の畑は、毎年毎年、村内一、いや、日本一の大豊作なんですよ。あの、梅子さんは、肥料などあげたことがないんです。私は、毎日毎日、肥を運んで、儀一郎さんの畑が肥えるように仕事をしてきたつもりなんですが、いけませんか?」
 相変わらず、にこにこ笑っている。

「結次郎さん、ここはひとつ、梅子さんに謝罪して、今後は、作物を盗まないようにして下さいよ、そうすれば、万事穏便に解決しますから」
 丸田万吉巡査は話が面倒にならないよう、糸がこんがらないように、結次郎を説得した。
「わかりました、私は他人と争い事をするのが一番損なことだと思っています。いままで、他人と争って、勝ったためしがありません。争わないのですから、負けてもいませんが、勝つとか負けるとか、そのことが、疲れることなので、ケチはやらないのです。ですから、梅子さんにお伝えください。今後、梅子さんの畑のものは盗りませんと、」

 チッチッチッ、これで解決かな?だが、何かがひっかかる。高論歩刑事は舌を鳴らした。丸田万吉巡査はほっとした表情で、
「では、梅子さんに伝えますので、失礼します」
 二人は結次郎老人の家を後にして、坂を下り、再び梅子に声をかけた。
「そういうわけで、今後は肥料代はいただきませんということで、了解していただきました」
「えっ?それで、今までのことはどうなります?弁償していただけるの?それとも、窃盗で、罰があるのかしら?」
 チッチッチッ、高論歩刑事はなかなかしつこい女だと感じた。
「まあ、そのへんは、署に帰りまして、検討させていただきます」
 揉め事が大きくならないうちに、ほぐれかかった糸がまた、絡まないように、丸田万吉巡査は早くこの場を立ち去りたかった。

(つづく)

作:朽木一空

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最終更新日  2014.07.25 19:41:41
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