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2014.08.20
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カテゴリ:小説
燃える.jpg

 あれから一か月。ぼくは無事退院して元の生活に戻った。いや元の生活と言っても、事故以前のぼくつまり吉崎徹ではなく、(株)河野製作所代表取締役の河野満としての生活である。
 一方の吉崎徹としてのぼくは、いやぼくの体はいまだ意識不明で、相変わらず体中包帯を巻いたままのミイラ男だ。そしてずっとICU(集中治療室)で治療看護を受け続けている。河野になったぼくは、病院の依頼を受けて、独身で身寄りのない吉崎の身元引受人にならざるを得なかった。さらに成り行き上、当面の間は彼の入院費用も負担することになってしまったが仕方ないだろう。

 まあそんなことも含めて、河野満としてのぼくの新しい生活は、いろいろと忙しかった。まず河野製作所の社長としての職務を全うしなければならないが、取引先の人脈なども一から覚え直さなくてはならない。事務処理などにはある程度自信があるものの、明るく積極的な河野の性格と正反対のぼくには、営業的なセンスが全くなく社長業務の大部分が苦痛の連続であった。
 仕事の面ではなかなか馴染めず、従業員たちの間では「あの事故以来社長は変わってしまった」という陰口が囁かれているようだ。さらに最近帳簿を調べてみたら、なんと河野が社長になってから創業以来初めて赤字になりそうである。とにかく出社すれば、毎日毎日重苦しく辛い日々が、荒波のように押し寄せてくるのだった。

 ただ会社を離れて、家に帰ると優しくて美貌の妻である沙保里が待っている。退院後、河野になったぼくは、昔から憧れていた沙保里と初めて抱き合った。ぼくは夢中で彼女の唇を吸い体中をまさぐり、別世界を彷徨うように沙保里の中で果てていた。ぼくは感動の余り打ち震えていたが、沙保里はそれ以上に感動し身悶えてぼくにしがみつき、熱いため息を吐き出すようにそっと囁いたのである。
「体を重ねるのも久し振りだけど、こんなに激しく燃えたのは生まれて初めてよ。あなたはまるで別人みたいだわ・・・。」なんと河野と沙保里は、2年以上もセックスレスだったらしい。
 その日からぼくは沙保里の虜になってしまった。もちろん彼女も同様である。それで辛いことばかり続く会社の職務はますます嫌気がさし、毎日定時になると真っ直ぐに帰宅し、沙保里と肌を重ね続ける生活に没頭するばかりだった。


(次回につづく)

作:河村 道玄

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最終更新日  2014.08.20 10:00:08
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