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2016.10.24
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カテゴリ:忍草シリーズ



間男じゃねえよ、女のうらおもて

裏と表があるのは
なにも男だけじゃないよ
人生いろいろ 
女にだっていろいろあるさ


 本所一つ目通りから、横に入った亀沢町に金三郎がお梅と暮らしていた裏長屋があった。お梅が好物だといっていた虎屋の羊羹を小脇に抱え、手ぬぐいで顔を隠すようにして長屋の門を潜る。
 洟を垂らし、薄汚い着物を着た子供らが狭い長屋の路地をかけずり回っていた。その子供をよけるようにして、金四郎は路地を歩く、たしか雪隠の横だといってたな、ここだ、ここだ、指に唾をつけて、障子に穴をあけて、中を覗いてみる。
「だれだい!!、また、いたづらして、障子張ったばかりなんだよ!」
 すごい剣幕で中から怒鳴り声がしたかと思うと、ぴしゃっと、障子が開いた。顔を出したお梅はあんぐりと口を開けたまま突っ立っている。びっくり仰天、もう金三郎は八丈島へいって一生会えないと覚悟を決めていたのだ。
「あんた、あんたかい、金さんだよね?まさか幽霊じゃないよね、、、」
「ああ、おいらだよ、足も生えてらあ、ご無沙汰しちゃったな」
「何を寝ぼけたことをいってるんだい、六月もほったらかしにして、ご無沙汰もあったもんじゃないよ、まあ、そんなとこに突っ立っていたってしょうがない、中へ入りなよ」
 遠山影元は、金三郎になりきって狭くて汚い長屋の畳に足を踏み入れた。
「さあっ、あんた、早速抱いてくださいね」
「おっとっと、そうはいかねえ、お梅さん」
「なにを、気取ってんだい、あんたらしくもない、いつだって帰ってくるなり、私を押し倒していたじゃない、私もそれが好きなんだけどさ」
「ちょっと、お待ちなせえ、ちょいとこの間の話をしなけりゃ、、、」
「なにをぐずぐずあんたらしくもない」
 お梅に押し倒されて、金四郎はあっという間に犯されてしまった。それは妻の菊枝とは違って、荒々しく動きが激しく、お梅の声も長屋中に響き渡るような声であった。
「久しぶりだもの、燃えちまったよ、」
「あんた、背中の桜吹雪どうしたのさ」
 遠山の金四郎は焦った。迂闊であった。誤魔化しようもなかった。
「あっ、刺青のことか、それが、知らねえうちに消えちまったよ、、」
「ふっふっふっ、あんたが金三郎じゃないことぐらい、お見通しだよ」
「じゃあ、金三郎じゃないってこと知っててまぐわったと?」
「まぐわうまでは金三郎だったのさ、だから、不義密通にはならないさっ、あんたも間男にはならないよ、ところで、あんたは誰なんだい?」
「儂か、儂は金三郎の影武者だよ」
「御冗談言っちゃこまりますよ、なんではぐれものの金三郎に影武者が必要なんですか?そんなことはどっちでもいいさ、あんたは金三郎と繋がってるんだろう、必ず金三郎に帰ってくるように伝えてほしいんだよ、あたしは金三郎にぞっこんなんだから、きっとだよ、、」
 そう言って、涙ぐみながら、お梅が手拭いで金三郎の後始末をしていると、どんどんどん、さっきの汚い子供らがずかずかと、長屋の中になだれ込んできた
「お梅おばちゃん、このひとだあれ?いい人?わるいひと?お梅おばちゃん、泣いてるよ」
「ああ、どっちでもないよ、話があるんだ、うるさいから外で遊んでおいで」
「あの子らはなんでぃ、あんたの子でもなさそうだし」
「あの子らはみんな捨て子さ、大徳院でお救い米をだしてる熊五郎親分がまとめて面倒見てるんだけど、熊五郎のところで預かってちゃ、やっぱり、行く先は博徒になっちまうから、私が引き受けてるのさ、てえへんだよ、今はね、お江戸じゃ飯が食えねえ、死ぬか生きるかてえへんだ、猫は三味線の皮にされちまう赤犬は旨いと食われちまう、犬公方の綱吉様の頃ににゃ考えらえねえことさ、」

 金三郎の影武者遠山の金四郎は本所の鬼瓦一家の熊五郎のことはよく承知していた。熊五郎は見回り同心の山辺作之進から本所相川町の御用の向きを任され、十手を預かっていた。賭場を開帳するやくざと岡っ引きの親分の二足の草鞋を履いていたのだった。
 その熊五郎、本所あたりでは、強き者に屈せず弱き者を助ける任侠者で、庶民から絶大な人気があった、だが、その熊五郎が、年の暮れには、自腹を切って大徳院でお救い米をしているということだった。
「金さん、あんた熊五郎親分に挨拶してこなきゃあね、さっ、大徳院にいってみようよ、」
 
 金四郎とお梅、それに五人の洟たれ子供らもぞろぞろと、ついてきた。大徳院の境内はにぎやかだった。浮浪者、物乞い、貧乏人がどこから浮いてでもきたのだろうか、
「ありがてえ、ありがてえ」と感謝して大根汁を啜って、粥にかぶりついていた。
「江戸には、こんなにも飯の食えないひもじい思いの人がいたのだろうか」
 遠山影元には信じられない光景が広がっていた。
「正月には雑煮を振る舞うからな、生きてたら、またおいで」
 熊五郎が子供の頭を撫でていた。師走なのに境内の中には暖かい風が吹いているようだった。遠山影元は金三郎の女房、お梅の様子を探りにきたのだが、江戸の町の底辺を垣間見ることができた。

 一方、金三郎はいつまでも遠山影元が戻ってこないので、いらいらしていた。奥座敷の座布団に腰を降ろし、庭に散る枯葉が風に舞うのを眺めながら、遠山影元が尻を掻く仕草を真似てみたりしていた。
「殿さま、お茶をお持ちいたしました」
 遠山影元の奥方、菊枝が盆に茶とかりんとうを載せてきた。菊枝はふくよかな体をした美人であった。花柄の絹の着物を着て、化粧をしていた。いい匂いもしてくる。その菊枝の鼻の孔が膨らんでいた。
「あなた、ご飯にいたしますか?湯を浴びますか?それともあれにいたしますか?」
 金三郎はドキッとした。お梅と暮らした長屋でも、よく、お梅が言っていたことだ。
「さあ、では寝間にまいりましょう、きょうの殿様は少しおかしいですわ」
 ここは影武者だと悟られてはまずい、金三郎は奥方に手を取られて、寝屋に入った。三月もの間、禁欲生活をしていた金三郎にはたっぷりとたまっていた。
 菊枝がはらりと着物をぬぐと、金三郎の背中の桜吹雪が厚く燃えだした。まるで月に光る夜桜のように艶やかであった。菊枝と金三郎は三度まぐわった。
「この桜吹雪素敵でございますわ、いつ彫ったのでございますか?ほっほっほっ」
「うむっ、この刺青はの、わしの知らぬうちに勝手に出てきたようなものでの、、、」
「ほっほっほっ、金三郎殿、もう、あなたが夫の遠山影元ではなく、影武者の金三郎であることぐらい、とっくに承知しているのですよ」
「えっ、それでは承知していてまぐわったのですか」
「いいえ、その時は影元様だと思っておりましたのよ、ですから、不義密通にはなりませんわ、ほっほっほっあなたも間男にはなりませんわよ、ほっほっほっ、それにしても、あなた、きょうはとても素敵でございました」
 といって顔を赤らめた。奥方にも表と裏の顔があったのだ。
「金三郎殿、、奉行所の中では誰もが、そなたが影武者であることぐらいみな知っていますよ、知っていながら気づかぬふりをしているのです。影武者で周りの者を騙しているつもりでしょうが、周りの者は騙された振りをしているのです。将軍様もそうかもしれませんよ、殿も金三郎も騙したつもりが騙されていたのですよ」

 深夜、遠山影元は帰宅した。
「金三郎、お梅は元気で暮らしていたぞ、男はいなかったが、餓鬼どもを五人も抱えていたぞ、熊五郎が拾った子供だそうだ、」
「そうですかい、それで安心いたしやした、お梅は子供の面倒を見るのが好きでしたから、よかった」
「おおっそれとな、大徳院で、熊五郎親分にもあってきたぞ、お救い米をしていた。なかなかできることではない、大した男だな熊五郎は、それとな、正月には大きな賭場が開帳されるようだ。壺振り金三郎に壺を振ってくれと頼まれた。桜吹雪が咲かなきゃ、見栄えがしねえとさ」
「ああ、懐かしいですな、帰りてえな、熊五郎親分のところ、また薄明りの中で、桜吹雪を見せながら壺を振りてえ、だが、そいつは無理でござんすね、あっしはお尋ね者でござんすもね」
「うむっ、そこが思案のしどころよな、だが、いつまでも影武者でいることも難しくなってきたような気もする。どうも、この頃、与力同心の態度がおかしいのじゃ、、」
「あっしも、どうもこの頃、影武者が皆にばれているような気がいたしてまして、、」
「そうか、おぬしもそう感じていたか、儂も周りの者も変に気を使っているのようでな、このあたりが潮時かもしれぬな、表は表、裏は裏、元の鞘に収まるのがいいようだだな。影武者などいなかったことにするか、このところ痔の調子もよくなった。よし、、影武者はやめにしよう。金三郎が無事にお梅のところへ帰れるようになんとか算段しよう。お梅がかわいそうだからな、
あんないい女はめったにいるものではないぞ、ふっふっふっ、、」
「まさか、殿様、お梅となにしたわけじゃありませんよね、、」
「なにをいいやがる、金三郎おめえこそ、菊の花と梅の花、間違えちゃいねええかい?まあ、男に裏表があるように、女にも裏表があったということで許しあおうじゃねえか」
 遠山影元の笑みには苦いものが混ざっていた。


(つづく)

作:朽木一空


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最終更新日  2016.10.24 13:59:58
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