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仕事が楽しくて仕方がない人を一人でも多く増やす

仕事が楽しくて仕方がない人を一人でも多く増やす

あの華僑と知り合う

駐在したのはバンドンという町。人口200万人くらいで、インドネシア本島の山間地に位置する。インドネシアの軽井沢と呼ばれているところで、朝なんかは割りと涼しい。

事務所で日本人はただひとり。他はすべてインドネシア人か中国人。インドネシア語はいやでも覚えた。ほとんど日本語をしゃべることができない環境で、ストレスが溜まり、爆発しそうになることがままあった。

相手は華僑。ユダヤ人と並び称される世界の富豪を生んだ一大ネットワーク。その深遠はとてもわかるものではないが、知り合って様々なことを学んだ。

ほんまにどこまでもたくましいおっさん達だ。裸一貫で大陸から出てきて、一代で何百億円という資産を蓄えた人たちがごろごろいる。
お金に対する執念はそりゃすさまじい。夜中だろうとなんだろうとバンバン家に電話がはいる。仕事もプライベートも関係ない。

ある日家に帰ると嫁さんが、部屋の壁の一点を見つめていた。何をしているのかとと思うと、何匹か居るやもりに名前をつけてかわいいんだと呼んでいた。ちょっと危ないかも、と思った。仕事ばかりで嫁さん相手しないとまずいな、と思った。

家は何坪だったか忘れたが、広かった。家の中にも芝生の庭があった。家庭車、運転手、お手伝いさんつき。お手伝いさんも運ちゃんもとってもいい人たちで、快適だった。本当に情の厚い人たち。

彼ら普通の庶民と華僑との経済格差はすさまじい。たった数パーセントの華僑が95%の富を抑えている世界。華僑はそれこそ凄い力があって、お金があれば、警察でも軍隊でも動かせる。

ある商社がある華僑の詐欺にあってその工場の機械を引き上げようと警察を雇って派遣したら、華僑は軍隊をやとって工場で待ち構えていた、というウソのような本当の話があるくらい。

華僑の御曹司たちは車で移動するので、街中で見ることはない。たまに華僑の結婚式に出席するとどこにこんな人たちが住んでいるのか、と思うくらい、男も女もきれいな人たちが現われる。かれらは徹底して血を混ぜる事を嫌う。
華僑の中でも血筋でランキングがあり、違うランキング同士は結婚しない。
ネットワークの結束はとても強く、契約書は結ばない。その代わり、約束を破れば、二度とその世界で商売することは不可能。
徹底した管理網がしかれており、華僑同士の毎日の行動は細かく、すべて、お互い筒抜けとなっている。絶対にごまかしの効かない世界。
悪い評判がたてば、瞬く間にインドネシア全土の華僑に伝わる。

魅力のある人が多かった。とにかくハチャメチャな初代金持ち、二代目の温厚な御曹司、ほとんと詐欺師に近い人、などいろんなキャラがいたが、いずれにしてもお金をもうける執念は凄まじい。

100円のものでも絶対に100円では買わない。値切れるものはとことん値切る。その代わり一転自分の立場が弱くなると「なんとか助けてくれ」と泣きついてくる。その泣きが結構いやみがなくて、つい許してしまう。とくに義理人情に弱い日本人の上層部はひとたまりもない人が多かった。
もっとも当時そうした華僑と渡り合う諸先輩にはこれまた豪傑と言える人が多かったように思う。年を経るごとにだんだんと少なくなっていってしまうのだが。

中にはとても穏やかな華僑もいた。そういう人は大抵が二代目だった。既に大金持ちのお父さんから巨額の資産を相続しているので、あまりあくせくする必要がない。とにかく、香港やらスイスやらどこやらに何百万ドルか数千万ドルずつの貯金口座が数知れずあるのだから。

そんなにお金ためて何に使うのか?と聞いたことがあったが、ある華僑は儲ければ儲けるほど、面白くなってもっと儲けたくなる。これは、もう中毒と同じだ、といっていた。

彼らの中には豊かさを分かちあう、といった発想の持ち主もいたが、ほとんどが安い労働力を使って、とにかく儲けるタイプが多かったように思う。

しかし、巨大な雇用を創出しているのは事実であり(それもひとりの華僑が何万人単位の雇用を創出している)それはそれで、単純には批判できないものがあると思った。

とにかく日本では考えられない貧富の差であり、華僑は常に命の危険を感じていた。結婚しても籍は入れず、愛人状態にしておく、と言っていた。

日本はなんとも安全で、お気楽な社会なんだと、インドネシアに来て、初めて感じた。

そして、すべての人生の側面を誰にも頼らず、自立して生き抜いている華僑たちの姿を見て、だんだんと自分も独立して何かを始めたい、と思うようになりました。当時28歳のころでした。独立したいとは思うけれど、果たして自分は何がやりたいのか、さっぱり分かりませんでした。


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