カテゴリ:小説
「なあ、大倉。お前どこの高校行くんだ?」
「まだ決まってない。」 「やっぱ聖海高校?あそこ野球部強いもんな。」 「聖海か・・・それもいいな。」 「なんか冷めてるな・・・。野球の名門校行きたいんじゃないのか?」 「なんて言うか、まだ決めるって気にならなくてな。 野球の名門だから聖海に行くって感じの簡単な考え方が出来ないんだよ俺。 少なくても1回は見てから決めたいんだ。」 「そんなもんかねえ・・・。」 大倉裕也。中学3年生。 小・中と野球部に所属。中3のときはキャプテンを務め、 静岡県大会ベスト4。 捕手としてチームをまとめてきた。 そんな野球部も引退して、進路をどうするか決めかねている。 野球を真剣にやりたい気持ちは間違いなくあるが、 どう学校を選べば良いかわからないでいるのだ。 昼にそんな会話をしたために、今日は近くにある高校の野球部の練習を見に行くことにした。 20人ほどいるグラウンドで、元気のいい声とともに練習をしている。 レベルも低くない。 しかし大倉に感じてくるものがない。 昔から何度も見てきた高校だからなのだろうか? 「ただいま。」 「お帰り、裕也。」 「母さん、姉貴帰ってる?」 「帰ってるわよ。部屋にいるはず。もうすぐごはんだからね。」 「あそ。」 コンコンと部屋をノックする。 「姉貴・・・いる?」 「いるよ~、開いてるから。」 部屋に入ると高校3年の姉が勉強をしていた。 姉は大学受験を控えている。裕也にとって一番の理解者だ。 「あ、勉強してたのか。」 「ん?何かあった?」 「いや、相談にのってもらおうかなって思ってたんだけど。」 「ん?相談?いいよ、大丈夫。」 裕也は姉に今の心境をありのまま伝えた。 「見てから決めたい・・・ねえ。裕也はどんな野球部に入りたいの?」 「わからない・・・。」 「たとえばさ、すっごく強い高校入ってレギュラーを争奪戦をするとか あんまり強くないところに行って、みんなを引っ張っていくとか。 難しく考えないでみてよ。」 「・・・。」 「今の中学校でさ。ベスト16にいければいいってチームをベスト4にまでしたって実績あるからその辺どうなの?」 「じゃあそれくらいのところなのかな?」 「ううん、そんな風に数字をみて決めちゃ駄目だよ。 今私が言いたかったのは、裕也にはみんなを引っ張っていく力があるってこと。 でも裕也はまだ自分を100%知ってないのよ。 どの高校を選んだとしても、まだ自分でも知らない一面が出てくるものよ。 だからね、自分で見て自分をひきつける何かがある、 そんな高校の選び方があっても良いんじゃないかな?」 「・・・。」 「ちょっと難しい?」 「いや、そんなことないけど・・・。 姉貴はどうやって第一志望の大学決めたの?」 「私?私は教師になりたいからしっかり調べて決めたよ。」 「そっか。・・・・・・。うん、ありがと。」 「裕也、変な言い方かもしれないけどさ、ピンと来るってことあるかもよ? いろいろ見て回ったら?」 「うん、そうするよ。」 「裕也~。真紀~。ごはんよ~。」 「ごはんだって。行こ。」 「うん。」 裕也にとって姉の言葉は大きかった。 翌日から、裕也は近い場所から様々な高校の野球部を見学して回ることにしたのだ。 もうすぐ夏休み。ちょうどいい。 受験勉強は以前からこつこつとやっているため、さほど心配していない。 高校を巡って何か決め手となるものが見つかるという保証はないが、 何かを得ることにはなるだろうと感じ、 裕也は放課後、夏休みに入ってからも毎日各校を見て回ることにした。 第2話 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2006年02月14日 15時50分37秒
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