「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」
チャーチル首相の一生、もしくは半生が描かれている作品かと思いきや首相になった一ヶ月ほどの姿を描いた作品だ。この作品を見て、第二次世界大戦が勃発した最中、イギリスは瀕死に直面していたということがわかった。それほど、切迫した状況だったし、敗北直前だったのかと。このところ、”ダンケルクの戦い”にまつわる作品を見る機会が多く、このダンケルクから30万人の兵士を無事イギリス本国へ帰還させたことがのちの勝利につながる、いや、負けなかったことになるという出来事がショックである。この時、ドイツはナチスの支配の下、全ヨーロッパを手に入れようと戦線を拡大していた。アーリア人、ゲルマン民族としての知と力の優秀さに満悦し、高圧的に一気に手を広げ過ぎたのがナチス・ドイツの敗因かもしれない。ベルギーを陥落しフランスを手中に収めんと攻勢に出るナチス・ドイツに対し、イギリスはフランスとともに全軍を失おうとしていた。危機的状況。当時の首相は辞任し、野党の認める首相を立てないと信任されないので、チャーチルに白羽の矢がたったが、首相となった彼には問題山積だった。<ネタバレは書かないはずだが、歴史として既知のことであろうから書いてみる>その歴史としてもカレーの4,000人のイギリス将兵をダンケルクの30万人の盾として犠牲にしたことは知らなかった。四面楚歌の状況におかれたカレーの部隊は補給も救出もなく、矢面に立たされ、ドイツ軍の一斉攻撃の的とされ、討ち死にした。ダンケルクの30万人を助け出す船はなく民間ボートや船を徴用したチャーチルの発案は驚くべきことであり、それを成功させた民間人たちも素晴らしい。ただ、そこへ至るまでの熟慮推敲、沈思黙考、そして、時の王の助言により初めて乗ったサブウェイ(地下鉄)で聴きえた巷の庶民の国民の声。徹底抗戦の意気。それは、チャーチルの報告により閣外大臣たちに伝播され、議会での演説(宣言)により、全会一致で快哉を叫び、徹底抗戦を決定した。その後成功させたダンケルクからの救出はイギリス国民を鼓舞し、アメリカの参戦を受けて、勝利へと向かう。ベッドや執務室など室内ばかりで鬱屈した中で鬱屈した戦況を好転させる策を練ったウィンストン・チャ-チル。彼を演じたゲイリー・オールドマンがアカデミー主演男優賞を受賞し、そのメイクがメイクアップ&ヘアスタイリング賞(辻一弘 他2名)を受賞した。後世の人が作り上げたチャーチル像だから、あとの出来事がこのときの出来事として食い込まれているようではあるが、ドキュメンタリーではないので観客をしびれさせる、感動させるためだと解釈して取り立て荒立てることはしない。窮屈な閉塞感がある状況なので作品そのものにも閉塞感がある。しかし、クライマックス、難問に対する解決策を見出した時の快哉は感極まるものであった。ロンドンっ子の意気が感じられる。イギリスが誇るべき一本といえよう。2017年/イギリス/125分/G監督:ジョー・ライト出演:ゲイリー・オールドマン、クリスティン・スコット・トーマス、リリー・ジェームズ、スティーブン・ディレイン、ロナルド・ビックアップ、ベン・メンデルソーン、ニコラス・ジョーンズ、サミュエル・ウェスト、デビッド・バンバー原題:Darkest Hourお薦め度 「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」★★★★(80%)