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カテゴリ:読書(ノンフィクション12~)
「幕末下級武士の絵日記」大岡敏昭 相模書房 忍藩(埼玉県行田市)の尾崎隼之介(字は石城)十人扶持。元は御馬廻役百石。29歳の時に藩政を論じたために蟄居。33歳独身。養子先の尾崎家を追い出され、妹夫婦の家に同居中。時々絵と文を書き、読み書きの手習いで生計を立てている。文久元年(1861年)より2年までの187日間の記録。 本屋で半額セールになっていたので衝動買いしたのであるが、掘り出しモンだった。 下級武士の日記史料ならば、元禄期名古屋藩の「鸚鵡籠中記」があるが、これはこれでなかり面白い。日記は時系列になっていなくて交友関係や住まい、食事、世相などを解説する中に史料的に扱われているにすぎない。それでも面白いのは、隼之介の描いたポンチ絵がふんだんに採録されているからである。 隼之介の教養はなかなかのものだったようだ。一年で売り払った(更に買い戻した)書物の一覧(408冊もあったらしい)を見ると、四書五経、文選、史記等々の中国主要古典、万葉・古今・平家・徒然などの日本古典などを修めている。買い戻してはないが、切腹の書、天草軍記などの軍記もの、松陰日記等々おそらく当時のベストセラーも読んでいるみたいだ。それらを夜着を着てコタツに入ってさらに衝立で隙間風をよけて読んでいる。 友人は中級・下級武士、僧侶、果ては近所の女子どもと、常に仲良く付き合っている。家は常に道に向かって開かれていて、友人はいつも庭からふらっとやって来て、縁側でお茶や酒を飲む。玄関や鍵という概念がないかの如くである。お金はないが、付き合いはある。やっても来るが、寄っても行く。肴を持って行くことも多いが、それでも互いに飲む時にはわりと豪勢な宴になる。普段の食事は、朝食はかゆと菜汁が多く、昼食は豆腐、里芋、いわしなど(何れも一品のみ)。夕食はしじみ汁、松魚汁、湯豆腐、鴨の汁、豆飯、茶漬けなど(何れも一品)。これが酒宴になれば、刺身、焼き魚、玉子、鶏肉、茶碗蒸し、松茸、田楽、寿司などと突然多くなる。なんとも楽しそうだ。 近世の歴史家には、常識的なことが多いかもしれないが、絵がついていてかなり新鮮だった。私の関心領域は弥生時代なので読み飛ばすが、時代小説家やテレビプロデューサーならば、参考にするべきところがかなりあると思う。 隼之介は尊皇攘夷思想にかぶれてはいたが、結局「英雄」たちの仲間に入る機会はなく、維新後は藩校の教頭、宮城県で役人として出世し、次の任地の石巻で47歳の当時としては一般的な歳で亡くなったらしい。1876年の頃。ちょっと酒を飲みすぎたのかもしれない。 2016年7月24日読了 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016年07月27日 18時26分59秒
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