「楊令伝 9」春一番楊令始めた国造り
今日、春一番が吹いた。気がついたのは窓をひとしきり鳴らして通り過ぎたあとだった。「ああ、もしかしたら春一番かもしれない」夕方のネットニュースでそうだったことを確認する。まあ、そういうものだ。それでも今朝はいつもよりは楽に起きることが出来た。春一番 楊令始めた国造り「楊令伝 9」北方謙三 集英社文庫 楊令の正面に岳飛が出てくるのが見えた。一度だけ剣が交差した。岳飛の剣が、宙を飛ぶのが見えた。 それだけだった。楊令は岳飛軍を突き抜け、長平もそれに続いた。『幻』の旗は、揺らいでいない。『蒼』の旗もだ。 右手。童貫だった。楊令を、押し包もうとしてくる。息を呑むような、鮮やかな動きだった。しかし楊令は、それより速く反転した。(79p)遂に楊令と童貫との決着がつく。どのように剣を交わしたのか、描写されない。我々の想像に任せる、ということなのだろう。戦の終息。それはつまり、宋江が魯智深が思い描いていた、そして楊令が梁山泊の頭領になるに当って死ぬほど苦しんだ「国造り」の構想が明かされるということだ。「俺は北で幻王と呼ばれ闘ってきた。その闘いには、正しいものも間違いもあった。いま思い返すと、そうだ。一つの城郭で反抗してくる者を皆殺しにしたこともある。それでも俺が見つけようとしていたものは、光だ。なんとかして、光を見つけようとした」「わかりません、光などといわれても」「俺も、わからなかった。闘いながら、考え、捜した。宋江様が、最後に俺に言われたのが、光、という言葉だった。『替天行道』の旗が、俺の心に光を当てるとな」楊令が言葉を切った。杜興は、まだ眼を閉じていた。「民のための国。『替天行道』の旗を見つめながら、俺が見つけたのは、民のための国、という光だった。多くの男たちが、なんのために闘ってきたのかを考えても、やはり出てくるのは、民のための国だった。帝など、国には要らないのだ。苦しみや悲しみがあっても、民のための国があれば、民は救われる。それこそが光だ。俺が、宋江様に対して言える、唯一の答だ」(211p)帝政は取らない。税金は10%、あとは交易から収益を取るのだという。徴兵制を取る。常時軍隊6万、いざというときに20万、30万人を集める力を蓄えるのだという。12世紀の中国で、いや世界でそれはやはり「革命的」な考え方だっただろう。この小説はキューバ革命の中国小説版なのだから、それは当然なのである。しかし、もしこれが総べてなどだとしたら、やはり国造りは失敗に終らざるを得ない。「of the peaple ,by the peaple ,for the peaple」に即していえば、ここで述べられているのはfor the peapleのみだ。特にby the peapleが完成しないと、国造りは失敗になると思う。それは呉用に掛かっている。