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2010.03.31
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カテゴリ:短編
先生の口から発せられたわたしの苗字に
一瞬わたしは
悪事がバレて追い詰められた罪人のような
ある種の絶望感に襲われる。

でもわたしには、そんな悪事を行った記憶はない。
…むしろ宮元くんに悪いことをされた…。
そ、そうだよ…、落ち着いて。

わたしが今先生に呼ばれて前に出て行くのは
わたし自身の手で宮元くんに罰を与えるためであって
わたし自身が先生から罰を受けるわけじゃないんだよ…。

…なんて、何を馬鹿なことを言ってるんだって話だけど
それくらい、わたしの頭を混乱させるくらい
先生の発する一言一句が、冷徹で、無感情で
それがいつものあの優しい先生と同一人物かと思うと
もの凄く怖くなったりもした。

「…梅田さん?」

呆然と思考を巡らせるわたしの脳に
もう一度先生の冷徹な声が突き刺さる。
二度目にも関わらず、再び鳥肌が立つ。

…い、いけない…、このままじゃわたしまで…!!
そんなはずないけど、わたしの脳が勝手に
そう危険信号を発する。と、とにかく…!

「…は、はいっ!!」

大きな返事をして、その場で立ち上がるわたし。
視聴率100%だったはずの宮元くんのお尻から
徐々にわたしへと、そのレートが流れ始める。

ドキドキがまた急に増し始める。
こんなに注目されるのきっと初めてだから…?
いや、先生にこんなにも見つめられているから…?
いや、これから宮元くんのお尻を
わたしのこの手でたたくから…?

…答えなんて見つけようがない。
だってきっと、その全部が答えだから。

「…それじゃあ、前へ。」
「……!!」
「前へ。」
「…っ!!は、はいっ!!!」

有無を言わせない、先生の拷問のような指示。
この状況下で逆らえる人がもしいたら
わたしは全身全霊で敬意を表したい。

…当然、そんな反逆精神など芽生えるはずもなく
見守るみんなの机と机の間を縫って
依然お尻丸出しの宮元くんの隣り、先生の目の前へと
わたしはゆっくりと歩を進めていく。

本当にすぐ隣りでにクラスメイト全員に
真っ赤なお尻を突き出し続ける宮元くんがいる。
…けど、その姿を横目ですら見ることなんて
恥ずかしくてできない。

それに、この位置からだと、宮元くんのアレも
見えてしまうかもしれない…。

「…もっとこっちに来なさい梅田さん。」

見つめる先生が自分の隣りに来るようにと
顔と手でわたしを誘導してくる。
何故か微笑む先生がとにかく不気味で
わたしはただただそれに従うしかない。

でも…、その位置からは確実に…。
それを分かっていながらも、気がつくと静かに
先生の真横へと到着しているわたしがいた。
だって…、仕方がないから…。

この後どうすればいいのか分かっていながらも
しばし、目の前の黒板に視線を固定させる。

「ほら梅田さん、そっち見てたって仕方ないでしょ。」

真横の先生が、呆れたようにわたしに言う。
…分かってるよ、先生の言いたいことくらい。

わたしに宮元くんのお尻をたたかせる…より先に
わたしに宮元くんの、一番大事な部分を
見せようとしてるんでしょ?
じゃないと、こんな誘導おかしいもん…。

…断ることなんてできない、それに
これ以上このままこうしているワケにもいかない…。
…わ、分かったよ、分かったよ先生。
み、見ればいいんでしょ。
見てやればいいんでしょ…、宮元くんの…!!

蒸発しそうなくらい熱くなった頭を
わたしは思いっきり180°回転させる。
その遠心力に任せて
そのまま宮元くんの方へと、体ごと向けてやる…!!!

目の前に広がる、見なれたみんなの顔。
面白いように、みんながみんなこっちを向いてる。
そうしなければいけないと、先生に言われているように
その暗黙の事実をみんながみんな共有しているように
ただ1点、わたしたちの方を見ている。

その視線の先の大部分を占めている
今回の事件の犯人、宮元くん。

教卓に手をつき、顔を腕に埋め
先生の忠告通り、ただただ恥ずかしいポーズを
キープしている。
…と、そうだった…!
この位置からは、宮元くんの…!!

いけないと思いながらも
自然とわたしの視線は宮元くんの下半身へと下降していく。
…き、きっとこの辺に…!

…そんな心の叫びも杞憂に過ぎず
そこに宮元くんの大事な大事なそれはなかった。
…理由は簡単。
また、右手で隠してたから。

ふぅ、そりゃそうだよね。
ホッと、胸を撫で下ろし見ないで済んだことに
安堵するわたし。

…でも、ドキドキがまだ全く消えないのはきっと
その事実に自分自身が納得していない証拠。
それに、これで終わるはずがないことを
誰よりもこのわたしが、分かってしまっているから…。

「…宮元くん、さっきの忠告、もう忘れたの?」

…きた。

「………!!」

左腕で顔を隠したまま、ジッと静寂に耐える宮元くん。
でも、この近さからだと
小刻みに体が震えているのが分かってしまう。

「両手は教卓の上…、でしょ?」
「……!!」
「あら、残念ね~。
 ここまで来ておいて、結局オールCコースを選ぶの…。」
「…だ、だって…!!!」

先生の言葉攻めに、我慢しきれなくなった宮元くんが
そのポーズのまま、顔だけ上げてそう反応する。

お尻を披露してから初めて見た、宮元くんの顔。
想像はしていたけど、そんな想像を遥かに超えるほど
真っ赤に染まり上がった顔。

そこにはいつものやんちゃな宮元くんの面影はなくて
命乞いをする崖っぷち剣士のように
弱り切っていて、減衰していて、哀れな姿だった。
気付かなかったけど、目の周りが濡れている。
…ずっと、泣いていたんだ。

「『だって』は、禁止用語よ、宮元くん。」
「…だ、……てさ…。
 そんなの、聞いて…ねぇ…し。」
「聞こえません。
 さ、手を机の上に。5秒以内。」
「…そ、そん…な。」
「5、4、3…」
「…うっ。」

慈愛の念など欠片も失くした先生にはもう
宮元くんからのSOSなど、何1つ届かない。
結局宮元くんは、先生の指令に従うことになって…。

ゆっくりと、ディフェンスを担っていた右手をほどき
両手を教卓に載せ、そこに顔を埋める宮元くん。
…と同時に。

…、…見えた。見…えちゃった。
わたしの位置から、完全にガードするものがなくなったことで
完全に露わになった…宮元くんの…
おちんちん。

…目を疑いたくなるほど、小さくて、可愛くて
まだまだツルツルで…
小刻みに震えているせいで、おちんちんにまでそれが伝わり
ぴょこぴょこと、こちらも小刻みに揺れる。

…なんで揺れてるの…?
なんでわたし見てるの…?
なんでこんなに…、ドキドキしてる…の。

「…どう?梅田さん。」

…再び体が跳ね上がる。
どうって、せ、先生…そんな質問…おかしいよ。
何がですか…?なんて、聞き返せるわけないし…。
可愛い…、なんて言えるわけないし…。
…ど、どうしろって…。

「…梅田さん?」

…分かったよ、答えればいいんでしょ。
…そ、そう。…い、一番簡単に言えば…

「…ま、まだまだ、子供…です。」

何言ってんのわたしって思った。
恥ずかしすぎて、言った後消えてしまいたいって思った。

…でも、そうせざるを得ないオーラが
先生にはあって、逃げられないと分かってた。
…それに、もっとタチが悪いのは
その感想が、わたしの本心から出たものだったってこと。
だって、ホントに、おこちゃまの…おちんちんだったんだ。

「…よく聞こえないわ梅田さん。
 もっと大きな声で。」

…鬼、…先生の鬼っ!!
…も、もう。…知らないっ。

「…まだまだ、こ、子供だと思いますっ!!」

やけくそになって、大声で言うわたし。
もう、泣いてしまいたいくらい、恥ずかしかった。
いつまでも震える宮元くんのおちんちんが
可愛いと思いながらも、憎らしくさえ感じた。

一瞬シーン…とする教室に、先生から1つコメント。

「…先生も、そう思います。」

そっと横を見上げると、そこにある先生の顔には
満面の笑みが広がっていて
改めて、鬼だと、わたしは確信した。

-くく。
-マジかよ…。
-やだぁ。

わたしと先生の掛け合いの後、少しざわつく教室。
…何でわたしまでこんな恥ずかしい目に遭うのよ。
もう、…やだよ。

その代償として先生が用意したのが
きっとこの、宮元くんのおちんちん鑑賞券なんだろうけど
そんなの…、そりゃ
可愛いとは思うし、あの宮元くんがこんなおちんちんだなんて…
なんて思うと、それはそれで…
…もう、わたしこれからどうすれば…。

「…さ、梅田さん。最後に宮元くんのお尻。
 たたいて終わらせちゃって。」

…そ、うだよね。忘れてたけど。
それが本当の目的だもんね。
…当初は躊躇っていたけど、今は今すぐにでも
この場を立ち去りたい。

目にしっかり、宮元くんのおちんちんを焼き付けて…
…て何やってんのわたしもうっ!!

急ぎ足で宮元くんの隣りへと移動し
適当にペチンとたたいて
急いで席に戻ろうと思ってた。
…のに。

「…この、エロ女。」

わたしが近づいてきたのを感知した宮元くんが
最後の悪あがきとばかりに
顔を埋めたまま、絞り出すような声で、わたしに罵声をかます。
先生に聞こえないような絶妙なボリュームで
完全にわたしにしか聞こえないような声で…。

-限界を超える、わたしの羞恥ボルテージ。
…な、なによエロ女って…!!
そんなこと言われる筋合い…
…有りすぎてどうすればいいのか分かんないじゃん…!!

おちんちん見て、「まだまだ子供だと思う。」なんて
ただの…、変態女じゃん…!!

先生の馬鹿…、宮元くんの馬鹿…、みんなの馬鹿…
馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿…!!!!

「…ば、馬鹿野郎ーーーーーーーーー!!!!!」

自分でも出したことないような声を発し
一心不乱になって、右手を天高くにかざすわたし。
視線を完璧に、赤く腫れあがった宮元くんのお尻に合わせ
ロックオンする。

この上からたたいたら、絶対に痛い。
少し時間が空いているのもまた、痛さに拍車をかけるはず。

…でも、もうそんなこと、知らない。
可哀そう…なんて気持ち、1つもない。
もっと、もっともっと、腫れ上がればいいんだ…!!

グチャグチャになった感情を右手の先端に集め
絶対に自分でも出したことのないような力を込めて
思いっきり、ターゲットのお尻を目がけて
それを振り下ろした。



-…ヴゥゥゥァァァアアチーーーーーーーンッッッッ!!!!!!

この世の終わりのような爆発音が、教室全体を覆う。
息が苦しい。目の前がぼやけてよく分からない。

ただ、右手に来るもの凄い衝撃と痛みが
15回目のお尻たたきが終わったことだけを教えてくれる。
良く神経を尖らすと、生温かい人肌が
右手から脳へと伝達される。

…お…、しり……?

わたしは瞬時に手を振りほどき
一目散に自分の席へと急ぐ。
みんなの視線が痛い、なんだかザワザワしてる…。
…あ、…たり前だよ…!!!

席に着き、教卓上の宮元くんのように
両手で顔を隠し、現実逃避に入るわたし。

…穴があったら、入りたい。
みんなの騒ぎ声が耳の奥で反響して、意識が飛びそうになる。
…いっそ意識を失ってしまいたい。

…でも、そうなってくれない、…のは
先生の呪いなのかな。

今、どうなっているんだろう。
ただ1つ分かるのは、先生が嬉しそうに
笑っているってこと。

…鬼。



-おしまい-




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