ruberuのブログ

私が今とってもお気に入りの一冊です。
トマトさん

本屋さんでたまたま発見し、
そのダイナミックでインパクトのある表紙に釘付けになりました。
内容ももちろん期待を裏切りません。

ある夏の昼下がり
木から落ちた主人公のトマトさんは
小川に泳ぎに行きたいのに体が重くて動けません。
最初は意地をはっていましたが
ついに悲しくて泣いてしまいます。
それに気づいた野原の虫たちは・・・

という展開です。

最初のページでは、トマト畑全体と、
今まさに木から落ちたばかりのトマトさんが描かれています。
この本の中では最も小さく描かれているであろうトマトさん。
しかしもうすでにかなりの存在感です。

その後は期待通りトマトさんのアップで物語が展開します。
画面いっぱいに生き生きと描かれるトマトさんは
とても可愛いです。

よく熟れて、おいしい中味がいっぱいつまったトマトさんの重量感が
絵で見事に表現されています。

そして暑さにだんだんしなびていくトマトさん。
とても痛々しく可哀想です。
甘い涙をこぼすトマトさんの姿に心が痛みます。

トマトさんだけでなく、虫たちもとても可愛いです。
トマトさんを動かすため、虫たちがトマトさんの周りに集まってきます。
画面中にぞろぞろと登場する虫たち・・・

実際に見たら、あまり気持ちのいいものではないかもしれませんが、
不思議とこの作品の中では、どの虫も可愛らしく見えます。
作者、田中清代さんの虫たちに対する愛情のなせる業でしょうか。
ミミズさえ可愛いです。

転がされかけているトマトさんの表情にも注目です。
ありえないくらい超リアル？です。
ほっぺの持ち上がり具合が素晴らしいです。

そしてついに小川へ向かってごろんごろんと転がっていくトマトさん。
画面いっぱいに、表情豊かに転がります。
見所満載のこの作品の中でも、
かなり躍動感に溢れたダイナミックなシーンです。
ぜひ本を回して色んな角度から鑑賞するのをお勧めします。

そして水にとびこんだ瞬間のトマトさんの嬉しそうな表情に
思わずこちらも笑みがこぼれます。

そして次のページで、
トマトさんは画面いっぱいに水の冷たさを満喫します。
しなびていたほっぺもうるおってつやつやです。
爽快感溢れるシーンです。

ラストシーンはとてもさわやかで、季節の風を感じます。
幸せな読後感です。

しかし絵もさることながら、田中清代さんの文章表現も素晴らしいです。
特に、トマトさんの描写には温かい愛情が感じられます。
個人的には、
トマトさんが太陽に照らされ熱くなっていき、
ついに涙をこぼすまでの描写が大好きです。
トマトさんを表現するにあたり、とても秀逸だと思います。


余談ですが、トマトさんは田中清代さんの別の作品
「みつこととかげ」にエキストラ出演したところ
人気が出たため、今回主人公として再登場したそうです。
トマトさん初登場の「みつこととかげ」も、かなりクオリティの高い作品だと思います。
いつかこちらの作品の感想文も書いてみたいと思います。