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カテゴリ:SF
「エウロパ」 Europa Report 2014年 アメリカ映画 監督 セバスチャン・コルデロ “エウロパ”は、太陽系最大惑星である木星の第2衛星で、16世紀の天文学者ガリレオ・ガリレイが自作の望遠鏡で発見した4つの衛星、いわゆる“ガリレオ衛星”のひとつです。(ちなみに後の3つはイオ・ガニメデ・カリストです。4つのうち内側から2番目ということです。大きさ的には4番目です。)大きさ的には月と同じくらいで、表面は厚い氷で覆われており、その内部には、軌道共鳴(木星を回る公転周期がシンクロしていて、年に何回か位置が重なることがあること。)する隣の惑星イオ・ガニメデからの引力による強い潮汐力で氷が解けた液体の水による海の存在が確認されていました。 太陽から遠い木星より外側の惑星・衛星は、その表面温度は非常に低いものになり、厚い氷で覆われているので昼間でも太陽光が届きにくいため、エウロパに海があるとはいえ、当初は生命体の存在は否定されていました。 しかし、近年、地球の深海で、ホットスポットなどの熱水噴出孔において、太陽光から光合成により養分を作り出す植物の存在を必要としない、有機合成をするバクテリアを食物連鎖の底辺に据えた生態系が発見されたことから、同じような熱水噴出孔が存在するエウロパの海に、地球外生命体の存在が最有力視されてきたのです。 そんな中、いつもの“夢○書店”のSFコーナーで、無名だが面白そうな(ツッコミがいのありそうな?)作品を探していたところ、宇宙大好き理系おじさんの僕の目に留まったのが、この作品でした。パッケージの解説を読むと、エウロパの海に生命体探索に行くお話です。「これはきっとツッコミどころ満載だぞ。」(無名のSF映画はほぼそういう傾向にあります。)と、即座に手に取り、レンタルカウンターに走りました。 木星の第2衛星エウロパの凍結した地表の下に海が存在することが判明し、単細胞生命体が存在する可能性が浮かび上がります。データを確認した宇宙探索会社エウロパ・ベンチャーズは、世界各地から6人の精鋭宇宙飛行士を集め、生命体探索のためエウロパへ向かわせます。 しかし、その途中で機器に致命的な故障が発生し、地球との交信が途絶えてしまいます。最悪の状況下、探索を続ける宇宙飛行士たちを待ち受けるものとは……? 回転部分の先端、つまり疑似重力が働く部分に居住区を設けた宇宙船、居住区を離れ回転部の中心に向かうと無重力状態になること、無重力部にあるコックピットでは様々な方向を向いたまま座って作業していること、骨や筋肉に支障をきたすからできるだけ居住区にいるようにしているというセリフ、やたらと放射線を気にしているところ、太陽嵐の影響で通信システムが故障すること、ヒドラジン(ロケット燃料、人体には猛毒)に関する描写、船外で人を突き飛ばすと突き飛ばした人も後方に飛んで行ってしまうこと、昼間のエウロパから見える木星が半月状態なこと、などなど、非常に科学的な描写の数々でびっくりしました。 そして、リアルタイム(もちろん距離的タイムラグはあるはずですが)で地球のスタッフに送られていた船内外の記録用カメラの映像(時々ノイズが入って画像が乱れるというこだわりよう)と、インタビュー映像やニュース映像を交えた、ドキュメンタリータッチで、淡々と物語は進んでいきます。(ただし、時々時間が戻ったりしますので、時間の経過を示す表示をしっかりチェックしてね。) 通信システムが故障(出発後7か月のことらしい、エウロパ到着は22か月後です。)以降の映像がなぜあるのか、彼らは帰還することができたのか、通信システムは復旧できたのか、という疑問を常に抱きますが、それは衝撃にラスト(もちろんそれは秘密です。)とともに明らかになるので、お楽しみに。 ネットで感想をチェックしてみると、「同じような映像ばかりで退屈でした。」とか、「○○(衝撃のラストで出て来るもののことですので伏字にしておきます。)がなかなか出て来なくて期待と違った。」「○○が△△みたいでがっかりした。」などなど、主にがっかり系の感想が多かったですが、宇宙大好き理系おじさんは、その徹底したリアリティさに感動し、低予算無名映画でもこんなすごい作品ができるんだ、と非常に満足した次第でした。 しかし、実は、非常に気になる部分があるのです。 それは、これが現代のお話で、この事業を行っているのがNASAでもロシア連邦宇宙局でもなく、民間企業だということです。そのため、宇宙ステーションからではなく地球上からの打ち上げで、宇宙船はできるだけ小さく作らなければならず、22か月(片道)という長旅にもかかわらず、非常に居住空間が小さいもので、途中のサポート体制(月面基地とか火星基地とか、小惑星帯の通信中継地とか)も全くできていない中での無謀な計画だということです。 NASAは、現在2020年代にエウロパに向け探査機を飛ばす計画が進行中だそうです。もちろんそれは、有人ではなく無人探査機になる予定で、今だ火星にすら人類が行けていない段階で、全く右も左もわからない未知の空間に人類を送り込むなどという無謀な事業を行うつもりはないようです。 考えてみれば当たり前ですよね。この企業の方々は人間の命をどう考えているのでしょうか。きっとこの後、このエウロパ・ベンチャーズという会社、犠牲になった宇宙飛行士の遺族たちから訴えられて大変でしょうね。どう考えても計画自体自殺に等しい無謀なものですからね。 ということで、スタンリー・キューブリック監督を信奉する宇宙大好き理系おじさんとしては、「ゼロ・グラビティ」に続いて、非常に気を配ったリアリズムあふれるSF映画を見つけて、非常にうれしかったというお話でした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2015.07.07 21:34:35
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