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名無し人の観察日記

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2007.01.26
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テーマ:戦争反対(1187)
カテゴリ:戦争と平和
 さて、徴兵制問題をもう少し掘り下げて考えてみようと思います。
 軍隊の基本は陸軍です。海軍や空軍の無い国はあっても、陸軍の無い国はありません。彼らには「土地を確保する」という、海空軍には無い機能が備わっています。これは攻める際も守る際も発揮される、陸軍最大の特徴でもあります。
 軍隊には「兵種」「兵科」と呼ばれる、専門ごとに分かれたいくつかのグループがあります。一般的な会社組織に総務、経理、営業、開発と言った様々な部署があるのと同じです。
 陸軍の場合、その中で最大の人数を持っているのが歩兵(自衛隊では普通科)です。軍隊の基本である陸軍の中でも、彼らはさらにその基本中の基本と言うべき存在で、彼らがいなければ戦争は成り立ちません。「歩の無い将棋は負け将棋」という言葉がありますが、まさに将棋の歩兵にあたる存在です。
 その歩兵ですが、彼らが陸軍の中でどれだけの割合を占めていると思いますか? それだけ大事な部隊なら、7割以上? それとも9割くらい?
 正解は、その国の軍隊の編制方針にも拠りますが、概ね5割前後、4割程度と言う場合も珍しくありません。
 え、そんなに少なくて大丈夫なの? と思うかもしれませんが、実は古今東西のほとんどの国で、歩兵をはじめとして、戦車や砲兵なども含めた前線で戦う部隊の軍全体に占める割合は、5割程度と言うのが常識です。
 では残りの5割は何をしている部隊なのか? と言いますと、彼らが担当するのがいわゆる「後方支援」と呼ばれる分野です。後方支援は何かと言うと、前線で戦う部隊のために食料や弾薬を補給したり、故障した兵器を修理したり、あるいは彼らが使用する宿舎や塹壕と言った施設を作る事です。
 かなり大雑把に言ってしまうと、軍隊の半分は武装した運送業者や建設業者、機械工で占められているのです。
 
 ハイテク時代において、最も基礎的な兵科である歩兵にも専門化が求められている、と前回の日記で書きましたが、その遥か以前から、こうした後方部隊の兵士たちには専門家であることが求められていました。
 例えば、補給を担当する輜重科を例にあげてみましょう。彼らにはまず物資の集積所を作り、そこに必要な品々を分類・仕分けしやすい形で管理する能力が要求されます。そんなの簡単じゃないの? と思うあなたは、とりあえず引越ししてみましょう。個人の荷物でさえ、気がついたら何処に仕舞ったか分からない、という経験ができるはずです。
 次に、それらの物資を運搬するためのルート作り。これには輸送トラックや列車を効率よく運行するための綿密なダイヤグラム作りを行い、それを実践する能力が求められます。
 これらのトラックや列車を彼らが自ら運転することも要求されます。補給部隊はしばしば敵の空襲や特殊部隊の攻撃に晒されるため、いざとなったら最低限自分の身を守るための戦闘訓練もしなくてはなりません。出来れば護衛部隊を付けるのがベストですが、それが用意できないと言うこともザラにあります。
 ちょっとあげただけでも、補給部隊の人員にはこれだけのスキルが要求されます。また、建設担当の工兵たちはもっと過酷です。敵が陣地に篭っている時などは、その前面に歩兵や戦車の突撃を阻止する目的で置かれている地雷や有刺鉄線といった障害物を除去する役割を果たさなくてはならないので、ある意味歩兵よりも危険な立場にあります。敵の弾がガンガン飛んでくる中で、神経を使いながら地雷を処理し、障害物破壊のために爆薬を仕掛ける……それがどれだけ熟練を要する仕事かはすぐに理解できると思います。
 もちろん、専門技能の修得に集中する分、彼らの直接的な戦闘力は歩兵などの戦闘兵科よりはずっと下です。しかし、専門職集団である彼ら後方部隊の支援なしには、前線の歩兵部隊や戦車は一日たりとも戦えません。そして、専門職である彼らは、一朝一夕に育成できるものではなく、徴募兵で不足を補えるようなものではないのです。
 つまり、徴兵制によって大量に前線の歩兵は増やせても、後方部隊はすぐには増やせない。そして後方部隊が増強されなければ、前線の部隊は満足に戦えません。仮に戦場が国外ともなれば、後方部隊が担当する区域は飛躍的に広がり、その負担は絶大なものとなります。

 かつての日本軍は、それで大失敗をしています。もともと日本軍は国内かその近辺で戦うことを目的としていたため、後方部隊もそれを前提にして育成されていました。
 ところが、二次大戦では戦場が国外となったため、数少ない後方部隊はあまりに拡大した戦域の前に、たちまち限界を超えた業務を強いられてパンク状態になります。徴兵により、前線の兵士は十分とは言えなくともある程度までは補えましたが、後方部隊はそう簡単に増強できないため、負担は増えることはあっても減りはしませんでした。
 結果、多くの兵がいても十分に食料や弾薬が行き渡らず、いざ米軍との戦闘が始まると、火力の不足であっという間に押し切られたり、あるいは栄養不足で戦う前から戦闘力を失ったりと、非常に悲惨な状況が前線の兵たちを待ち受けていました。一説によると、日本軍戦死者の半分以上が戦死ではなく、こうした後方支援の不足による餓死・戦病死だったとされています。

 現在唱えられている徴兵制到来危惧論には、まずこうした視点は見られません。前線部隊さえ揃えれば戦えると思っているのか、それとも後方部隊の存在に気付いていないのか。あるいは両方なのか。いずれにしても、彼らの言っていることはまったく非現実的な、軍隊の実情を見ていない虚構の論に過ぎません。
 旧日本軍は補給を軽視していたと批判されますが、重視したくとも元手が無い、というのが実情に近かったようです。実際陸軍では「補給を充実させるのが第一の仕事」と教えており、補給軽視のツケで悲惨な結果を招いたインパール作戦の指揮官で、無能の代名詞のように扱われる牟田口廉也中将も、当初作戦実施を命じられたときは「補給が続く見込みが無いから、この作戦には賛同できない」と答えているのです。
 
 現在、自衛隊は海外派遣を本来任務に入れて組織を改編しようとしていますが、人員は減勢される見通しです。同様に海外派遣に力を入れようとしているドイツも、やはり軍の人員整理を計画しています。この二国は、どちらも従来は国内戦のみを想定しており、後方部隊もそれに適した規模です。
 海外派遣を行う場合、後方部隊はその対応にかなりの力を注ぐ必要が出てきますから、必然的に国内の支援体制は薄くなります。そこで破綻を避けるためには、前線の人員(戦闘兵科)を減らすしかありません。ですが、支援の不十分な戦闘力の低い部隊を数だけ揃えて置いておくよりは、遥かに現実的な判断です。
 そして、減勢される分の戦力低下は、ハイテク兵器の導入によって補うしかなく、そのために必要な予算を捻出するには、できるだけ多くの人間に働いてもらうことで、国の収入を増やすしかありません。こうしてますます徴兵制の必要は薄れていくことになります。これが日本の現状です。
 
 では海外派遣任務をやめればどうなるか? 確かに人員整理は回避できるでしょう。しかし、海外派遣任務を行うことで「日本は世界平和のために努力する国である」という姿勢を見せられれば、万が一日本が侵略の危機にさらされた場合でも、日本に味方する国を増やすことが期待できます。計数的に見るのは困難ですが、これも立派に国防への貢献だと思います。

 こういった現状を無視して、国外派遣=人員減=国防力低下⇒徴兵制とか、後方部隊の存在意義が理解できず、彼らに戦闘力が無いことを持って無用の存在だと断じる意見もあるようですが……
 それを聞いたら、たぶん牟田口将軍でさえ、鼻で笑うか、あるいはその論者(?)を殴り倒すでしょうね。





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Last updated  2007.01.27 00:00:35
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