|
カテゴリ:言葉
今年のセンター試験「国語」の大問1に小林秀雄『鐔』が出典として使われました。
センター試験の問題は、各新聞社や予備校のwebに公開されています。また、間もなく大学入試センターからも公開されます。 (参考)YOMIURI ONLINE→2013年センター試験問題 国語の平均点が話題となっています。 (1月24日大学入試センター発表) 国語の平均点が(200点中)100点を割り込んでいます(例年115点前後)。 その国語平均点が低下した原因として、小林秀雄の文章が「難解」で現代の高校生には読みにくかったためか、との指摘があります。 そこで、次の記事に注目してみました。 【朝日新聞受験NEWS】(1月24日)より抜粋 ●いきなり難解、受験生苦しむ 同センターによると、過去の国語の平均点が最も低かったのは、2003年の101・08点(200点満点)。 中間集計は1~2点の誤差があるが、現段階の数値が変わらなければ、過去最低となる。 今年の国語の問題は例年通り、評論、小説、古文、漢文から1問ずつ。大手予備校の自主集計によると、1問目の正答率が軒並み、例年に比べて低かった。出題されたのは小林秀雄の「鐔(つば)」。刀の鐔の歴史に始まり、その美しさについて思いを巡らせた随想で、脚注だけで21個、鐔を示すイラストまで添えられた。 小林秀雄(1902~83)は戦前から活躍した批評家で、「近代批評の神様」とも言われた。代表作「無常といふ事」のなかの一文「美しい『花』がある 『花』の美しさという様なものはない」のように、意表をつく言い回しが多いために文意をとりにくく、昔から受験生を苦しめてきた。 ●以前から批判、成功かは微妙 代々木ゼミナールによると、小林作品は今世紀に入ってからも年に10大学前後の入試に出ていたが、この3年は激減。土生昌彦・教材研究センター本部長は「小林を入試に出すことについては以前から批判があり、成功したかどうかは微妙なところだ」と話す。 駿台予備校によると、受験生からは「じっくり読まねばならず、配分がうまくいかなかった」「過去問の傾向と違い、読み慣れていない文章で戸惑った」などの声があったという。 センター試験問題を分析したベネッセの内山公宏さんは「小林の文章は評論でありながら、随筆風に展開されている。高校生にとっては難解だった」と話す。 基礎的な学習の達成度を判定するセンター試験の国語の問題に小林秀雄の文章が出たのは、79年に始まった前身の共通1次試験を含めても初めてだ。 問題は平均点が6割になるのを目指して作っており「問題が難しかったということは、点数的には言えるだろう」と同センターは話す。ただ「それが小林秀雄だからか、というのはわからない。四つの大問の一つに過ぎず、難度は設問との関係もある」としている。 (引用以上) 小林秀雄は、かつて高校教科書の定番でしたが、今やほとんどの教科書から姿を消してしまった「惜しむべき名筆家」の一人です。 これも、かの「ゆとり教育」の副産物でしょうか。何でも「わかりやすく」「内容削減」を目指した結果でもあるのでしょう。 確かに、「センター試験」は全国共通試験であり、公平性や標準を目指すことが求められるのは性格上しかたのない宿命です。 しかし、一方で「この程度の文章を読解する力をつけてほしい」「小林秀雄レベルを復活したい」という出題者のメッセージも感じます。 『鐔』は昭和37(1962)年に書かれた随筆です。小林60歳の作品、さほど古い文章ではありません。 実際にどんな文章なのか味わってみましょう。 「名文」たる部分を三箇所だけ個人的な好みで引用してみます。 「人間はどう在ろうとも、どんな処にでも、どんな形ででも、平常心を、秩序を、文化を捜さなければ生きて行けぬ。」 応仁の大乱という乱世にあっても、乱心を以て処することのできない刀工の「止むに止まれぬ人心の動き」を「平常心」「秩序」そして人間の「文化」にまで広げて語る表現のおおらかさが実感できます。 「魅力に共感する私達の沈黙とは、発言の期を待っている伝説に外なるまい。」 本物の魅力は自然と伝説を生み出すもので、それが事実かどうかはあまり面白くない問題だという主張を「私達の沈黙」と伝説の「発言」という表現で簡潔に言い表しています。 「鐔の面白さは、鐔という生地の顔が化粧し始め、やがて、見事に生地を生かして見せるごく僅かの期間にある。その間の経過はいかにも自然だが、化粧から鐔へ行く道はない。」 「下克上」の産物たる鉄鐔が、平和の世となり刀の飾りとなる。そうなってしまったら、もう面白くないという感想を小林流に表現しています。 表現の広がりがあると思えば、妹陽を凝縮した簡潔さがある。うっかりすると比喩的でない誇張表現に惑わされてしまう、そんな危うさ、作家と読者との緊張感が小林秀雄の文章には随所にちりばめられています。 小林秀雄の「鐔」に対する強い思い入れと教養の深さが表現の下敷きにあるため、さらに力の入った文章となっています。 小林秀雄成熟期の、小林らしい味のある文章で、高校生にも読んでほしい作品であったと評価して良いと思っています。 「名文」とは、個人の主観に拠るところもあるので、判断が難しい面があることは確かです。 賛否両論あるようですが、今年の「センター試験問題」をもとに「国語で読む文章」が話題となるかも知れません。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[言葉] カテゴリの最新記事
|