テーマ:ミステリはお好き?(1430)
カテゴリ:本の話(日本の作家・は行)
ガリレオの苦悩
ガリレオ・シリーズ久々の短篇集、長篇と同時刊行。「悪魔の手」と名乗る者から、警察と湯川に挑戦状が届く。事故に見せかけ殺人を犯しているという彼に、天才科学者・湯川が立ち向かう。 湯川の頭脳に挑戦してくる犯人たち。科学を殺人の道具に使う人間は許さない―絶対に。 【目次】 落下る/操縦る/密室る/指標す/撹乱す (「BOOK」データベースより) 評判の新作短編集を読了しました。 東野圭吾氏が、ガリレオシリーズを書き始めたときには、主人公に別な俳優をイメージしていたそうですが、昨年のドラマ化以来、私の中ではすっかり福山雅治になってしまっています。 そういうひと、多いんじゃないでしょうか。 この1冊を読んでいても、セリフ部分はすべて、あの声で聞こえてきます。 小説版では、『容疑者Xの献身』まで、ガリレオこと湯川准教授に事件の相談をもちこむ刑事は、大学時代の親友・草薙です。 ドラマでは、女性刑事・内海薫が、草薙に紹介されて湯川を訪ねるという設定になっていました。 この女性刑事の登場は、ドラマ化にあたって、製作サイドから提案されたことだったそうですが、東野氏はその改変を快諾したばかりか、つづく小説シリーズでも「その方が面白いのなら」と彼女を登場させることにした由。 そのあたりの柔軟なところも、ヒットを生み続ける理由であろうと、先日の読売新聞に書かれていました。 本作では、全編、内海刑事が大活躍です。 内海刑事をドラマで演じているのは、柴崎コウ。 気が強く、一本気で、純情だけれどちょっと嘘もうまくて(ドラマ第1話の、刑事になった理由を打ち明けるエピソードは秀逸でしたよね)、粘り強いひたむきな刑事です。 映画の『容疑者Xの献身』では、捜査の打ち合わせ中に、上司に「姉ちゃん、お茶!」なんて言われるシーンもありました。悔しいのを堪える表情がとても印象的でした。 そんなわけで、内海刑事のセリフもまた、柴崎コウちゃんの声で聞こえてくるのでした。 「さすがだね。草薙が頼りにするのもわかる」 「草薙さんが?私をですか」 「君には彼にないものがたくさんあるからね」 「えっ、そうでしょうか」薫は思わず口元が緩みそうになった。「たとえば何ですか」 「たとえば女性特有の直観力、女性特有の観察力、女性特有の頑固さ、女性特有の執念深さ、女性特有の冷淡さ……もう少し続けようか」 「結構です」 ――『撹乱す』より こんなやりとり、2人の表情までありあり思い浮かべられて、読んでいてこちらの口元が緩んでしまいます。 『落下る』と『操縦る』は、この秋に放映された特別ドラマ『ガリレオ第0章』の原作ですが、こちらも楽しめました。結末がわかっているのに、読んで面白いのです。 『密室る』はアリバイトリックもの。人里離れた山あいの洋館もの、とも言えます。 トリックが全く想像できない仕掛けだったのですが、人物設定が悲しくて切なくて、深い味わいがありました。 『指標す』は表紙イラストのモチーフになっている作品。 『容疑者Xの献身』がまだの方は、必ずそちらを読んでから、こちらを開いてくださいね。絶対そのほうが楽しめます。 この事件では、科学トリックではなく、交わした会話の言葉の中に推理のヒントが潜むという、本格推理を堪能できます。 うっかり読み流して、大変悔しい思いをしました。 一番面白いのは『指標す』では?と思いながら読み進んだ『撹乱す』でしたが、これが圧巻でした。 科学を犯罪に使う者は許せない――湯川の信条が、彼を解決へと駆り立てます。 研究室を出て大活躍。たまらない一篇でした。 犯人の心情には同情の余地がなく、一昔前なら「ンなコトありえないでしょ」とさえ思ったかも。 でも、殺人の理由を、幼い日に失った犬の仇打ちだと言ってはばからない人間が、今の社会には現実にいるのを、私たちは知っています。 小説の中の絵空事とは片付けられない、薄ら寒さや恐ろしさが迫ってくるのでした。 この本は、長編『聖女の救済』と同時に刊行されました。 どちらを先に読まなければということもないようですし、各紙誌の書評でも、好み分かれるところのようです。 『ガリレオの苦悩』は、単行本で購入しても、値段分存分に楽しめる1冊でしたが、『聖女の救済』の方は… 先に読了したガンによると 「『容疑者Xの献身』よりすごいよ。早く読みな」 だ、そうですよ! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[本の話(日本の作家・は行)] カテゴリの最新記事
|
|