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フィンとリーフのトラキア博物館

フィンとリーフのトラキア博物館

頂き物の部屋(特別小説編・その4)

リーフ:『天ノ菊嬢』の天菊様から頂いた聖戦後小説『大きな従兄と小さな従妹』もこれが最後!!最終話をアップだよ!!


『大きな従兄と小さな従妹』(最終話)

アレスの語り

塔での事件を境にフィラスは俺、アレスに懐くようになってきた。
俺に対する印象が変わったのか、それともリーンが提案した餌付けが功を奏したのか、はたまたその両方かは分からないが、俺にとってはとても喜ばしいことで、胸に引っ掛かっていた大きなつっかえが取れて気分も楽になった。

リーンにこのことを報告すると『それは良かったわ。さ、それが気休めにならないようにこれからも続けてね』と、さらにお手製のお菓子を渡された。
正直俺はまだフィラスにどのように接したら分からないままだったが、そこはフィラスと仲良くなっているわが息子ヘズルの協力を得て色々工夫した。
その報酬としてヘズルにはリーンのお菓子を渡したんだが、ヘズルのヤツ、恐る恐る受け取ったと思ったら一目散に逃げ出しやがった。
多分、普段こんなことをしない俺を見て気味悪がったんだろうが、失礼なヤツだな。
そんなこんなで迷惑にならない程度にフィラスにお菓子を上げながら距離を縮めること3日。初めは恐々遠くから眺めていただけのフィラスが自分から俺に近づくようになり、俺自身もフィラスと触れ合うことで少し丸くなった・・・様な気がする。
俺とフィラスの関係を心配そうにしていた叔父上たちもどこか安堵した雰囲気だったし、俺がフィラスと仲良くするたびに不機嫌だったアースもリーンのお菓子目当てに俺に近づくようになった。
しかし喜びもつかの間、叔父上たちがレンスターに帰る日がついにやってきてしまった。

フィラス(フィンとラケシスの次女)の語り

『長いようで短い間でした』

『私』たちが国に帰る日、アグスティ城前までわざわざ見送りに来てくださったアレス様が真面目にそう仰いました。
『今は比較的平和ですが、いつ賊が現れるか分かりません。道中は十分にお気をつけください』
がんばって考えてきた言葉を仰りながらパパを見たアレス様の顔はどこか淋しそうです。
『分かっております。また『あのようなこと』が起こっては困りますからね』
パパも真面目にお言葉を返しますが、アレス様とは違っておかしそうな顔をしています。
何がおかしいか分かりきっている『私』は顔があったかくなるのを感じながらハウノさんの後ろに隠れます。
なぜ『私』が隠れたのか不思議そうにしていらっしゃったアレス様でしたが、パパの言った意味が分かったとたんに困った顔をして、すぐに反論されました。

『笑い事ではありませんよ、叔父上!たまには真面目なことを言おうとして俺がどんなに苦労をしたか、容易に想像できるでしょう!』
アレス様はリーン様しか知らないと思っていらっしゃるようですが、『私』は知っています。アレス様が徹夜でお言葉を考えていらっしゃった事。
その姿を思いだしてハウノさんの後ろでくすくす笑っていると、隣にいたお兄様が不思議そうな顔をして『私』に訪ねてきます。

『何がおかしいの?』

このことを知らないお兄様は、なかなか答えない『私』から不機嫌そうにぷくーっと膨らました顔を背けてそこらへんの石を蹴飛ばしました。
その石がアレス様のすねに当たったのは見なかったことにして、『私』もハウノさんの後ろから顔を出してアレス様にお別れの言葉を言います。

『アレス様。私、はじめてあったときにはすごく怖くてビックリしましたけど、本当はいい人だったんですね。怖がってごめんなさい。また今度来た時もお菓子くださいね』
『もちろんだ。大きくなったら、いつでも濃いよ。菓子もほしかったらいくらでもくれてやる』
アレス様たちともお別れはとっても淋しかったけれど、『私』は泣くのを我慢しました。
アグストリアとトラキアはとても遠いけれど、大きくなったら一人でも遊びに行けるようになりますし、アレス様もお仕事でこっちまで来て下さる時があると教えてくださったからです。

それでも泣き出しそうな『私』を心配したハウノさんはパパに出発を促しました。
『フィン様、そろそろ出発の時間です』
ハウノさんの声にパパは『そうか』と頷いて、アレス様にご挨拶してから馬車の方へと向かっていかれます。

『それではアレス様。次に見えるときまでお元気でいてください』
『次に会うときが楽しみだわ』
『叔父上と叔母上も、お元気で』
パパが馬車に乗り込んで、ままもお兄様もその後ろに馬車に乗って、最後にハウノさんと『私』が乗ろうとすると、アレス様は何かを思い出した様子で『私』を呼び止められました。

『ちょっと待て!これを渡すのを忘れていた』
呼び止められて首をかしげながら振り返りますと、アレス様が『私』の手に指輪をのせて説明してくださいました。

『これをもって行け。これを、大事な人に渡すんだ』
『大切な人?』と首をさらに傾げますと、アレス様はゆっくりと説明してくださいます。

『家族とか、親戚とか、そこらへんの人に渡すんじゃないぞ。本当に大切で、特別な人間に渡すんだ。分かったな?』
『ありがとうございます。でもどうしてですか?』
『それはもちろん、フィラスの婿になる人間がすぐに分かるように・・・じゃなくて、約束の印とかお守りみたいなもんだ。なくすなよ』
どこかあわてたアレス様でしたが、『私』は気にせず素直に喜びました。
きっと私からこの指輪を受け取る人も、同じ気持ちになるのでしょう。
そう考えると何だかワクワクしてきました。

早くその人に会いたい、と思ったとき、後ろから『私』を呼ぶ声が聞こえました。
もう出発しなければならないようです馬車の方を見てからアレス様を見ると、アレス様は行くように頷かれました。
『じゃあな、フィラス。また会おう』
『はい、アレス様もお元気で・・・』

泣き出さないうちに『私』は馬車に駆け込んでアレス様とアグストリアの大地にお別れをしました。
長いようで短い間でしたけれど、『私』は優しい人たちと楽しい日々を送れて、嬉しかったです。
ちなみに、アレス様から頂いた指輪はぶかぶかで指に入らなかったのでチェーンに通して大切に首から下げています。
『私』は数年後にその指輪を手放すわけですが、そのお話はまた別のお話。

とっても大変なお話です・・・


『大きな従兄と小さな従妹』END


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