昨年10月に続いてまたしても、国連安保理のシリア、アサド政権制裁決議が葬ら
れた。4日、抵抗するロシアの前に欧米側が譲歩に譲歩を重ねた末、ほとんど骨抜き
同然に堕した「アサド政権に反体制派弾圧の停止」を求める決議案が、「それでも」
13対2の圧倒的多数「にもかかわらず」否決された(
写真上)。
◎常任理事国のロシアと中国のみが反対
「それでも」と「にもかかわらず」と記したように、これこそ安保理の国連創設以
来の矛盾である。この反対国の「2」が、あらゆる決議に拒否権を持つ常任理事国で
あるロシアと中国だからだ(
写真下=決議案反対に挙手する中国の国連大使、李保東
)。独裁的・強権的大国2カ国の横車で、当のアラブ諸国の声も封殺する形で残虐な
殺戮を続ける独裁政権の延命が許容されてしまった。さながら冷戦時代に戻ってしま
ったようである。ちなみに昨年10月と異なり、インド、南アフリカなどが中ロの両
独裁国・強権国と一線を画して、欧米とアラブ2カ国の提出した決議案に賛成票を投
じた。
先週末のシリア西部ホムスなどで反体制派のデモに、またしてもアサド政権軍が襲
いかかり約300人の死者が出た。これでアサド政権軍による弾圧でシリア市民の死
者は累計6000人に近づきつつある。
◎ロシアの権益は旧ソ連圏以外で唯一の軍港
この暴虐に抗議し、アサド政権軍の一部将官を含めて多数の兵士が離反しており、
彼らは「自由シリア軍」を編成して、政権軍に対して逆襲に転じている。自由シリア
軍による反撃で、政権軍にもかなりの死者が出ている模様だが、NATOによる空爆
の支援を受けたリビア反体制派と異なり、自由シリア軍は苦戦している。
ロシアが一貫してアサド政権に同情的なのは、旧ソ連圏以外、唯一、シリアに海軍
基地を設けているからだ。シリアの港湾都市タルトスに、ロシアは空母艦隊も配備し
ている。このロシア海軍基地は、地中海を睨むロシアの中東の橋頭堡であり、地政学
的重要性があるからだ。
またアサド政権には、昨年までに40億ドルもの武器を売却してきており、さらに
20億ドルの武器を追加売却するプランがある。アサド政権は、「死の商人」ロシア
にとって上得意様なのである。
スターリニスト中国は、独裁国が民衆革命で倒されることを恐怖しているから、2
回目の今回も決議に反対した。
◎アサドの頼みは、中ロとイランだけ
しかし、これでロシアはアラブ諸国から敵視されるというリスクも犯した。アラブ
連盟の総意は、1日も早いアサド政権の退陣と反体制派への政権交代である。今後、
アラブ諸国は、国連恃みに足りずと、独自のルートで反体制派への軍事的、経済的支
援を進めるだろう。その第一手として、昨年、独裁政権を倒したばかりのチュニジア
が、シリアの大使を追放する挙に出た。
現状のシリアはもはや内戦だと考えるが、内戦はこれからさらに激化する。民衆に
しても、アサド政権に虐殺されどおしではない。
対してアサド政権にすれば、プーチン強権国家ロシアと(シリア国内で存在感は乏
しいが)スターリニスト中国、そして隣国のイスラム原理主義国家イランだけが頼み
の綱だ。
◎イスラエルのイラン核施設への空爆も間近か
アサド政権は、ロシアからは武器を、イランからは原油や武器の支援を受けるが、
問題は後者のイランで、こちらもEUとアメリカの経済制裁で金づるの原油輸出の道
が断たれつつある。しかも核開発を進めるイランには、やはり中ロ両国が障害となっ
て国連が効果的な手を打てないことにいらだつイスラエルが、核関連施設への空爆を
ちらつかせている。アメリカのパネッタ国防長官も、先日、イスラエルが早ければ今
年4月にイランの核施設を攻撃する可能性が高いと述べている。
EUのイラン産原油の禁輸に対抗して、声高にホルムズ海峡閉鎖を恫喝したイラン
のイスラム原理主義者どもだが、結局は空威張りで、海峡閉鎖に踏み切れなかった。
ハメネイを長とするイラン・イスラム原理主義者どもは、自国の軍事力が、圧倒的
海軍・空軍力を持つアメリカに対抗できないことを知っているからだ。閉鎖の挙に出
れば、アメリカのミサイルと無人機の猛攻撃を受けてイラン全港湾が破壊され、とた
んに命脈が断たれるだけだ。
◎アサドは「もって半年」か
上記のようにイスラエルの空爆も時間の問題となりつつある時、イラン・イスラム
原理主義者どもはとうていアサド政権に肩入れする余裕は失っている。
すると、アサド政権はもはや先細りを免れない。リビアのカダフィ政権と異なるの
は、反体制派への空爆の援護がないだけ。しかしカダフィ政権より充実していないカ
ダフィ政権軍の装備は、反体制派の「自由シリア軍」がこれから欧米とアラブ諸国か
らの援助で増強されていく装備にいずれ追いつかれる。
つまりアサドの命も、もって半年、というところに追い詰められつつある、と言え
るだろう。
◎ヒズボラも窮地に
自由シリア軍のスポークスマンが、安保理決議に対して中ロが拒否権を行使したこ
とを強く非難したように、もしアサド政権が倒れると、中東の力のバランスは大きく
変化する。ロシアとスターリニスト中国は、アラブ諸国で決定的な影響力減退に追い
込まれる。
そしてイスラエルを北のレバノンから脅かすイスラム原理主義テロリストの「ヒズ
ボラ」と南のガザを支配する同じイスラム原理主義テロリストの「ハマス」は、補給
路を断たれる。両テロリスト集団に対して、イランがカネと武器を、シリアが補給路
と武器を提供していた。両テロリスト集団にとっては、アサド政権こそ最も頼りがい
のある後見国家だから、少なくともヒズボラは、戦闘員をアサド政権軍に送っている
ことが確認されている。アサド政権が倒れれば、ヒズボラも窮地に立つ。
◎「宗派・宗教対立」の禍根を生んだロシアと中国のエゴ
ただ、シリア内戦でもう1つ問題を複雑にしているのが、「宗派・宗教対立」の側
面もあることだ。アサド政権はシリア国内で1割ほどしかいない少数派のイスラム教
アラウィ派であり、これにやはり少数派として約1割のキリスト教徒が味方している
。
対する自由シリア軍は、多数派のイスラム教スンニ派で構成されている。スンニ派
市民がこれだけ虐殺され続けていると、スンニ派市民の怒りは納まらないだろう。自
由シリア軍がシリアを制圧すると、アラウィ派市民とキリスト教徒市民が大規模な難
民となる懸念がある。
つまりここまで憎悪が広がる前に、国連はアサド退陣で収拾すべきだったのだ。
しかし4日の安保理決議が否決されたことで、国連は打つ手を失った。後は暴力で
解決されるしかないことになった。
フランスのアロー国連大使が、安保理決議否決の後に、ロシアと中国を指して「拒
否権を発動した国に対して歴史は厳しい評価を下すだろう」と述べたが、両強権・独
裁国の責任は歴史によって追及されるだろう。
昨年の今日の日記:「連合赤軍女性トップの永田洋子が病死、スターリンを否定した
ミニ・スターリン主義者」
Last updated
2012.02.07 06:26:40