熱帯雨林は未発見の生物の宝庫、と言われている。1本の大木を隅から隅まで探す
と、たいてい新種の昆虫が大量に見つかる。どれだけ生物種がいるのか、誰にも分か
らない。
◎体長わずか7.7ミリ、10セント硬貨に楽に載る小ささ
そのため地球上の生物の種数も、はっきりしない。数百万種と言われているのは、
名前を付けられたものだけで、最大限に見積もる人は1億種とも指摘する。
熱帯雨林の農地化と工業化で多数の生物が絶滅しているが、地球上はまだまだ多様
性に満ちている。今回、その中に加わった両生類新種は、「世界最小の脊椎動物」の
栄冠を受けた。
その世界最小のカエルは、今年1月11日付のオンライン科学誌『PLoS ONE』誌に
、アメリカ、ルイジアナ州立大学などの研究チームが発表した。発見地は、パプアニ
ューギニア南部の熱帯雨林の中である。
その新種カエル(
Paedophryne amauensis、ペドフリネ・アマエンシス)は、実際
、驚くほど小さい。体長わずか7.7ミリ(
写真上=小さな10セント硬貨の上に載
る新種)だ。
◎「最小脊椎動物は水棲」説を覆す発見
報告者の1人の同大のクリストファー・オースティン准教授によると、ハエのよう
に小さいそのカエルは、皮膚の模様も土のような色をしているため、肉眼でとらえる
ことも難しかったという。現地スタッフとともに、堆く積もった雨林内の木の葉に顔
をくっつけるようにして探し、ようやく見つけた個体は素手で採取した。
カエルを撮影するのも難しく、同准教授が撮影しようとカメラを目の前に構えた時
、被写体がすでに逃げてしまった後ということも再三だった。小さくて軽いからなの
か、ジャンプ力は驚くべきもので、自分の体長の30倍の距離を跳べる。となると、
接写しようと近づけばあっという間に視界から外れてしまうということになる。よく
ぞ対照物の10セントコインの上に載せられたものだ。
ちなみにこれまでに確認されていた最小の脊椎生物は、成体メスの体長が7.9ミ
リの東南アジアに生息する魚類(
Paedocypris progenetica、ペドシプリス・プロゲ
ネティカ)だった。以前から、脊椎生物の最小種は、世界最大種(シロナガスクジラ
)ととも水棲だとの説が示唆されていたが、今回の発見でその説は覆されたわけだ。
最小種が水棲だと信じられていた理由は、後述する。
◎熱帯雨林にはミニ脊椎動物のニッチェあり
こんなハエのように小さいカエルがなぜ熱帯雨林に生息していたのだろうか?
いや、むしろ熱帯雨林だから生息できたと考えるべきだろう。小さいので、雨林に
堆積した湿った木の葉の下という絶好の隠れ場がある。これがサバンナだったら、あ
っという間に干物になり、また捕食者に喰われてしまう。自然淘汰の前に、1世代で
種の寿命は終わりだろう。
しかも食物にも事欠かない。大型の捕食者に見過ごされるダニなどの小型の無脊椎
動物は熱帯雨林に豊富だからだ。
熱帯雨林の木の葉の中というニッチェがあるので、小型化への淘汰圧が働き、限度
いっぱい小型化したことになる。そのためか単純な骨格を持ち、孵化した時からオタ
マジャクシではなくカエルの姿をしているという。湿気はあっても水がないから、オ
タマジャクシ段階を失うように進化したわけだ。
◎超小型種が続々と発見
そうした生息地が特殊な環境でないことは、パプアニューギニアの熱帯雨林内で、
相次いで超小型カエルが見つかっていることからも明らかである。例えば同チームは
ペドフリネ・アマエンシスの他に、もう1種の極小カエルの新種、ペドシプリス・ス
ウィフトルム(
Paedophryne swiftorum)も発見しているからだ。こちらも体長約8
.6ミリと、やはり10セント硬貨に載る。
今回の発見で推定されるのは、地球上には他にも、まだ見つかっていない小型カエ
ルが存在し、落ち葉の上を跳びはねているのだろうという可能性だ。
実際、ハワイ、ビショップ博物館に所属する脊椎動物学者のフレッド・クラウス博
士らのグループも、2011年、パプアニューギニア南東部の別の熱帯雨林で、体長
10ミリに満たない超小型カエル2種を見つけている。
学名をペドシプリス・デコト(
Paedophryne dekot=
写真下)、ペドシプリス・ヴ
ェルルコサ(
Paedophryne verrucosa)とそれぞれ命名されたカエルだが、前者の体
長はおよそ8.5~9ミリ、後者の体長は平均で8.8~9.3ミリと、やはり超小
型だ。ちなみに「デコト」という種小名は、現地語で「とても小さい」という意味だ
そうだが、ペドシプリス・アマエンシスの発見で、お株を奪われてしまった。
◎脊椎動物のサイズの下限と上限
さて、それではなぜこんな超小型カエルがパプアニューギニアの熱帯雨林にかくも
多数種、生息しているのだろうか。超小型の方が居心地がよいから適応放散した、と
しか考えられない。
さらに考察を進める前に、脊椎動物サイズの上限と下限を考えてみよう。
脊椎動物には、体重を脊椎や脚骨で支えるためにサイズに上限がある(ないのは、
重力の影響を受けない海棲のクジラくらいのものだ)。陸上でゴジラのような超大型
動物は、支える脚の骨の素材がリン酸カルシウムである限り、どのように強度を高め
、また太くしても、支えきれる限界がある。逆に骨を強化しすぎると、その分、関節
に負担がかかって、つまりは自重で崩れ落ちてしまうのだ。
◎小型化にも限度があったはずだが
しかし同時に下限もある。複雑な体制を支える代謝に活発な熱エネルギー産生が必
要だが、それには大量の食物が必要だ。
ただ代謝を抑えて節約するという戦略を採っているのが、両生類や爬虫類などの変
温動物だ。それで、周囲の気温が低くなると、休眠したり、ほとんど動かなくなる。
夜間の低温時には極端に代謝を落とせる爬虫類などは、同一サイズなら恒温動物であ
る哺乳類の10分の1しか代謝エネルギーを消費しないといわれる。見つかったのが
、超小型カエルだったのも、カエルが変温動物だからだ。
また変温動物、恒温動物にも共通するが、食物の少ない環境では小型化する(ネズ
ミ以上の脊椎動物は逆に大型化することもある)。それも、代謝エネルギーの節約の
ためだ。
ただし小型化にも、大型化同様に限度がある。あまり小さくすると、体重に比べて
体表面積が極端に大きくなって熱を失いやすいのだ。だから寒い土地には、小型脊椎
動物はいない。同一種でも、寒冷地に行けば行くほど、サイズを大型化して、相対的
体表面積を小さくしようとしている。生物学で言う「ベルクマンの法則」である。そ
れに反する動物は、淘汰されて生き残れない。
◎さらに未知の超小型カエルの可能性も
カエルは前記のように変温動物だが、それでも小型化には限度がある。小さくなる
と、熱を失いやすいから、小型化に歯止めがかかる。温帯にあまり小さなカエルがい
ないのは、それが理由だ。
しかし今回のパプアニューギニアのような熱帯雨林の中では、その歯止めは緩和さ
れる。
暑いので、熱を失いにくい。むしろ活動時に過熱し過ぎるのを防ぐには、相対的体
表面積はできるだけ大きく、すなわち小型化した方が適応的だ。
また水棲か準水棲だと、周囲の温度変化がマイルドなので、小型化しても熱を失い
にくい。前記のように脊椎動物の世界最小種が水棲だと考えられたのは、そうした理
由がある。
超小型カエルのペドシプリス属がいずれも高湿度の熱帯雨林に暮らしていたのも、
うなずけるし、逆に研究者らが予測するように、まだまだ未知の超小型カエルが隠れ
ていると考えられるのである。
研究者たちによる熱帯雨林の落ち葉の探索は、これからも続く。
昨年の今日の日記:「出版物も超氷河期を裏付けた販売金額・点数減、ローカル言語
の日本語を扱う悲劇」
Last updated
2012.02.09 05:42:33