過去最大の欧米逆転
「ドル売りの受け皿」がテーマ ~ 過去最大の欧米逆転~ ドルインデックスは 7 月に入ってから▲4%、3 月の年初来ピークからは▲10%も下落。為替市 場のテーマは「ドル売りの受け皿は誰か」を考えることになりつつある。過去 3 か月間、ドル売り の受け皿はユーロが一手に引き受けており、その勢いは足許まで続いている。なぜ、ユーロが 受け皿に選ばれたのかという理由に関しては、その理由 の多くは円とドルの関係にも当て嵌まることも見逃せない。ユーロに出遅れて円が買われること 自体、さほど違和感はないと言える。なお、ユーロ買いについては、さらにシンプルな論点として 「主要国の中で欧州の立ち上がりにも期待できそうだから」という考え方もある。現在の IMF 見通しに基づけば、2021 年に関し、ユーロ圏(6.0%)は米国(4.5%)を 1.5%ポイント上回る。こ れは実は過去大の欧米逆転という構図であり、「長い目で見てドルよりもユーロの方が安心し て買える」という思いが芽生えている可能性もある。円については「貿易黒字なき円高」が焦点。 「米財政赤字の対 GDP 比率上昇に伴ってドル相場が下落」を前提にするのであれば、「ドル 相場の方向感」を議論するよりも「ドル売りの受け皿は誰になるのか」を考える方が賢明である。円の買い持ち高は穏当な水準に押さえられており、カナダドル、豪ドルといったその他主要通 貨に至ってはまだ売り持ちされているものもある。かかる状況下、ユーロ以外の通貨にドル売り が波及してくる展開に構える局面と考えたい。 ドルインデックスを見れば 7 月に入ってからだけで▲4%(3 月の年初来ピークからは▲10%)も 下落しており、明らかに市場のテーマが「ドル売りの受け皿は誰か」を考えることになりつつある。過 去 3 か月間、ドル売りの受け皿はユーロが一手に引き受けており、その勢いは足許まで続いている。 なぜ、ユーロがこれほど大規模かつ継続的なドル売りの受け皿に選ばれたのかという理由に関して は、これまでも論じてきたように、① 欧米金利差の縮小幅が顕著であること、② 既に政策金利の底 打ち感が見られること、③ そもそも世界大の経常黒字でディスインフレ通貨という通貨高のファン ダメンタルズを備えていることなどの論点があった。元々、これら①~③の理由は、概ね円とドルの 関係にも当て嵌まることであり、ユーロに出遅れて円が買われること自体、さほど違和感は覚えない。 IMM 通貨先物取引の状況においても、円買い余力は残されているようにも見え、目先の 105 円割 れを展望すること自体、それほど無理はないように感じられる。 ユーロ買いについては、さ らにシンプルな論点として「主要国 の中で欧州の立ち上がりにも期 待できそうだから」という考え方もあ る。6 月に改 訂された IMF 世界経済見通しでは 2020 年こそユーロ圏の成長率は日 米欧で悪の仕上がりとなりそうだ が、2021 年にかけての戻りで言え ば日米よりも大きなものが予想され ている。ちなみに単一通貨ユーロ が誕生した 1999 年から 2019 年ま での 21 年間について、ユーロ圏の 成長率が米国のそれを上回ったの は 21 回中 7 回だけである。 その際、も両者の成長率が乖離 したのが米国同時多発テロのあっ た 2001 年であり 1.2%ポイントもユ ーロ圏(2.2%)が米国(1.0%)を上 回っていた。しかし、現在の IMF 見 通しに基づけば、2021 年に関し、ユーロ圏(6.0%)は米国(4.5%)を 1.5%上回ることになり、過去最大の欧米逆転という構図になる。新型コロナウイルスの感染防止についても米国が欧州に大きく 劣後していることは既報の通りであり、「長い目で見てドルよりもユーロの方が安心して買える」という 思いが芽生えている可能性はあるだろう。 もちろん、IMF 自身が報告書の副題で「類例のない危機、不確実な回復(A Crisis Like No Other, An Uncertain Recovery)」と認める通り、あらゆる論点は手探りでしかない。例えば、今年の冬を見 通せば、欧州の新型コロナウイルス騒動が終息したかどうかは断言できるものではないだろう。しか し、現時点では「欧州経済に劣後する米国経済」という構図が鮮明化しつつあるのは確かであり、 それがユーロとドルの力関係に表出しているという考え方はあり得る。 現在の為替相場の潮流を真因は恐らく「ドルの過剰感」である。 年間で GDP 比 30%という財政赤字は明確なドル安要因であるため、ユーロの投機的な買い持ち が膨らむことを横目に「ユーロ以外の受け皿」も探す必要がある状況と考えられる。それが円になり つつあるのかどうかが目下の注目点だが、貿易赤字が慢性化している円がユーロほどの連騰を果 たすのは難しいようにも感じられる。ユーロは 4 月初頭から約+7%上昇しているが、円が同時期 (107.50 円付近)から+7%上昇すると 100 円を割り込むことになる。ステリックな円高局面は貿易黒字を背 景としたドルの投売り(・円買い)がドラ イバーとなってきた印象もあるため、実 需の後押しがない中で 90 円台定着を 実現するのは容易ではないようには思 われる。とはいえ、財政赤字の規模か ら推察される「ドルの過剰感」は過去に 例がないものであり「貿易黒字な き円高」が実現する可能性は十分にあ る。