カテゴリ:FFXIのへたれな小説
両手で抱える麻袋の重さに、思わず笑みがこぼれそうになる。
まぁ、自分の身長程はある戦利品を持っているのだから、街行く人に表情がばれる事など無いのだが。 元々、バストゥークにはタルタルが少ないのだから、誰かと視線が合うなんてことも無いのだし。 今回の鉱山巡りは、大収穫だったといっていいだろう。 つるはし片手に鉱脈を回り、貴重な鉱石を掘り当てる。仲間内からは冒険者らしくない鉱山夫だとか言われているけど、まだ多くの鉱脈の残る鉱山にはモンスターが徘徊しているため、一般の人は立ち入る事すらできない。 つまり、これも立派な冒険者の仕事なのだと、僕はそう思っている。 鉄鉱石などの安価な鉱石をギルドに売り払うと、幾分か身軽になった。残るは黒鉄鉱とかの貴重な鉱石だ。ギルドだと足元を見られて安く買い叩かれてしまうため、競売所へ持ち込むことにする。 噴水を中心とした広間の先に、商業区の競売所はある。 木製のカウンターの先にいるお姉さんに簡単な鑑定をしてもらい、希望落札金額とかを書類に書き込む。あとは、誰かが落札してくれるのを待つだけだ。 競売所は、冒険者の流通の中心だ。世界中を飛び回る僕らは、旅先で貴重なアイテムを入手することも少なくないが、僕を含め、商才に関してはてんで駄目な人が多い。そこで四国の政府が導入したのが、この競売所というシステムだった。 このシステムは結構単純で、出品者があらかじめ希望落札金額を提出しておく。落札希望者がその金額を上回る額を提示すれば、すぐにその品物を手に入れることができる。商人達が一般的に行っている競売と最も違う点は、競合するのが落札者ではなく、出品者側だという点だ。 何故なら、同じ品物を出品していても、希望落札額が低い商品から売れる事になるのだから。物価の高沸を防ぐのが目的だというが、鉱石の目利きにはちょっと自信があるし、一緒くたにされるのはちょっと納得がいかないなと、常々思っている。 と、そんな事をいつものように競売のお姉さんに愚痴っていると、早速売れた商品があるそうだ。 落札者の名前を見ると、この辺じゃ有名な職人さんの一人だった。 この調子で出品している鉱石が全部売れれば、念願だった古代の魔法書を買う事もできるだろう。 思わず口元が緩むのを我慢して、代金を受け取りに冒険者用の宿舎――モグハウスへと向かう。すぐに輸送業者の人が、落札額を届けてくれるはずだ。 露天商よりも元気な声を張り上げ、バザーを開く冒険者達の間を抜ける。二大陸の中心に位置するジュノほどではないが、商業区はいつも人で溢れている。 モグハウスへと向かう通りも、その例外ではない。視界を埋めるのは、ヒュームや巨躯を誇るガルカの群集。足元に頓着しない彼らは、小柄な種族の僕らタルタルに気がつかない事も多く、蹴っ飛ばされる事も少なくない。 その背中の群れに、僕はため息をつくと、裏道を行くことにした。少し遠回りだけど、石の道を転がるには、まだちょっと寒すぎる。 バストゥークの街並みは、成長著しい近代国家といううたい文句通り、ごつごつとした風景に満ちている。家も道も石で固められているし、ちょっと表通りを外れると、鉱石の黒い山が無造作に積んであったりもする。 自然を愛し、共に生きる僕の故郷、ウィンダスとは大きな違いだ。モグハウスもどこか無機質な感じがするし、この国に来た当事はなかなか寝付けなかった事を思い出す。 だから、ここは傲慢に満ちた国だ。それはエルヴァーンの特権だと思っていたけれど、僕らタルタルに言わせれば、ヒュームの無知さが作り出したこんな街並みのほうが、よっぽど。 だけど、お金を稼ぐにはいい街なんだよなあ。 ぶつぶつと、そんな事を呟きながら、タイル状の道を歩いている時だった。目の前を進む自分の影が、何か別の大きな影によって、覆われた。 自分の何倍もあるシルエットの頭には、特徴的な耳がついている。それは、故郷ではよく見かけたもの。 おそるおそる振り返ったそこには、東方風の衣装に身を包んだミスラ族の少女が、じっとこちらを見下ろしていた。 「アンタ・・・・・・クレオ、だね?」 感情を押し殺したような、冷たい瞳と抑揚の無い声。いくらバストゥークの風に当てられたからといって、あの陽気なミスラ族が、こんな態度を取るとは、考えにくい。 つまりこれは、敵意。 自分の名前を呼ばれたからといって、思わず頷いてしまった事に後悔しながら。 「えっと・・・・・・どなた様?」 とりあえず、そんな間抜けな声が、口から漏れていた。 「・・・・・・」 答える気が無いのか、それとも、そんな事はどうでもいいのか、こちらの質問は黙殺された。二本の刃を引き抜きながら、彼女は口元に薄笑みを浮かべていた。 「え、えーっと・・・・・・」 状況が飲み込めない。けれど、そんなことはお構いなしに、視界に二つの銀光が走る。 「う、うわわっ!」 慌てて横へ身を投げ出すと、着地する音と同時に、石畳を叩く金属音が響いた。全身に緊張感が走る。すばやく体勢を整えると、彼女が舌打ちする姿が見えた。 「ちょっと、避けるな!」 「そんな無茶な!?」 理不尽だ。 こんな理由も分からずに、真っ二つにされる趣味なんて無い。 とりあえず抗議してみよう。 「ま、待って! 意味が分からない!」 「とりあえずアンタは斬られとけばいいの!」 やっぱり理不尽だ。 それじゃ、もう逃げるしかないじゃないか。 じりじりと、彼女は距離を縮めてくる。 僕の方はというと、気づかれないように、小声で詠唱を始めていた。 体内を流れる魔力を編みこみ、イメージする。万物を司る八大要素の一つ、風を。 「覚悟ォ!」 掛け声と、跳躍。迫ってくる彼女の姿。すんでの所で完成した呪文を、その名と共に、解き放つ。 「風よ――!」 一瞬、全身から力が抜けていくような浮遊感と共に、突き出した両の手の平から爆風が生じる。眼前にまで迫った刃が、中空へと押し戻される。 「あ"ー!?」 遠ざかっていく、なんだかよくわからない悲鳴を背に。 僕はその場を駆け出していた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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