カテゴリ:FFXIのへたれな小説
本日、四度目の、青い空。
天井にぽっかりと開いた穴は、落ちてきたときに開いたものだ。 「うーん・・・・・・」 背中に固い床の感触を感じながら、唸る。 一度目は、黒い石の山に頭から突っ込んだ。引っ張り出してくれたガルカが、呆れたような顔を見せていた。 二度目は、堀の中に落ちた。お腹がすいていたから、近くを泳ぐ魚にかぶりついたら、その魚ごと釣り上げられた。思わぬ大物を釣り上げたおじさんには、結構、怒られた。 あと、魚はくれなかった。 三度目は、民家に落ちた。お腹がすいているといったら、初めて会ったそのおばさんは、困ったような顔をしながらも昼食をご馳走してくれた。欲を言えば、オニオン料理より魚料理のほうが良かったのだけれど。 そして、四度目。今度は、宿屋の一室に落ちたらしい。 内装と飛んできた方向から推測するに、鉱山区にある安価な宿泊施設のようだ。だとすると、かなり飛ばされたことになる。板張りの床が抜けなかったのは、不幸中の幸いか。 ふと反転したままの視界を探ると、ローブをすっぽりとかぶった僧侶が唖然とこちらを見ていた。いきなり天井を突き破って落ちてきたんだ。驚くのも無理は無い。 「あー、大丈夫ですから。どうぞ、お構いなく・・・・・・」 後ろ手で床を思いっきり押して、その反動で立ち上がる。手を握ったり開いたりして、ダメージを確かめてみた。 うん、今回は着地だけはうまくいったおかげか、痛むところは無い。 それにしても、だ。 あのタルタル――クレオは、予想以上に手強い相手だ。小柄で愛くるしい外見に油断していたら、強力な魔法で吹っ飛ばされてしまう。おまけにやたらと勘がいいらしく、奇襲は何度も失敗した。 でも、そんな事じゃ諦めるわけにはいかない。ようやく探し当てたのだから。 「おのれっ! ゆるすまじクレオ!」 もう一度、自分に気合を入れるようにそう叫び、拳を握る。 「なんだか、穏やかじゃありませんね」 部屋の隅から、こちらの気を削ぐような、のん気な声が聞こえた。この部屋の主の僧侶だ。そう言えば・・・・・・いた事なんてすっかり忘れていた。存在感の薄い奴だ。 ローブのフードを目深にかぶり、表情はよく見えない。だが、声質からして中年の男のようだ。わずかに見える顔の下半分から、30代前半といったところだろうか。 紺と茶の質素なローブから見て取れる体系は、中肉中背。これといって、特徴も無い。 「争い事はいけませんよ。人と人は、話し合い、分かり合う事こそが重要なのです」 「ちょっと、説法なら今度にしてくれない? アタシは、あいつを殺さなきゃいけないの」 そう言い、立ち去ろうとしたのだが、唯一の出口はそいつによって塞がれていた。 「失礼ですが、貴方、お名前は?」 「……ミナーシャ・ラーゴ」 「ふむ。それで、ミナーシャさん」 考え込むような仕草の後、僧侶は演説でもするかのように、仰々しく両手を広げた。 「どういう理由がおありなのか存じませんが、それが復讐だとかいうのならお止めなさい。誰も何かを得る事は無い」 月並みな言葉に、アタシは思わず頭を抱える。そんな理屈が通じるのなら、世の中善人だらけだ。たとえば獣人に襲われた時にだって、こいつはそんな説法を説くつもりなんだろうか。 と、こちらの視線に気がついたのか、僧侶はごほんと大きく咳払いをした。 「ミナーシャさん、あなたは本気でその人を殺そうとは思っていないはずです」 「そんなことないわよ」 「いえ、その方がまだ生きていることが確かな証拠です」 そう言いながら、こちらを値踏みするような視線を感じる。彼の目は見えないけど。ローブの奥に見える口元は、確かに笑っていた。 「貴方、その格好から察するに忍者をされているようですね。本気で相手を殺そうとする暗殺のプロに命を狙われて、生き延びれる人がいるはずが無い」 「暗殺・・・・・・?」 「そう。だから、あなたは心のどこかでその方を――」 男の言葉は、最後までは頭に入ってこなかった。 暗殺。そうだ、何故今まで思いつかなかったのだろう。 「ありがと! オッサン!」 「オッ――!? あ、いや、わかっていただけたのなら・・・・・・」 「今度はこっそり後ろから刺してみるよ!」 「え? い、いや、そう言う事ではなくてですね――」 何かまだ言っている僧侶の横を駆け抜け、外へ出る。 そう、何も正面切って戦う必要はない。奇麗事なんて気にする必要は無い。 だって。 あいつは、母を殺した仇なのだから。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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