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カテゴリ:イスタンブールで人と会う
【5月19日・火曜日】 コンヤから戻った翌日、午前11時過ぎ、私はフュセイン・カプタンの車でドルマバフチェ宮殿の後方にあるスイス・ホテルに向かった。 イズミールに住むブログ友達yukacanさんが高校時代、ブラスバンドの先輩として教えを仰いだ小池英二氏が、奥さんとトルコ旅行に来られたので、私が2日間ご案内を担当させていただくことになったのである。 第1日目は車を使うので、行動範囲がかなり広い。まず、ボスポラス海峡沿いのクルチェシュメにある、海泡石彫刻職人シナンさんのアトリエに寄った。 アトリエのシナンさん。(前の週の5月14日撮影) シナンさんは、私が1992年に初めてトルコに来たとき、ゲストで行った日本語教室で知り合った人。その後、93年には東京に3ヵ月語学留学。このとき新宿で出会い、マクドナルドでお昼を食べたことがある。その後日本語ガイドになったが、一方では海泡石の魅力に惹かれて修業を積んだベテランのウスタ(師匠)でもある。 トルコ語でリュレタシュ(パイプの石)と呼ばれる、この白く柔らかな石灰岩の一種海泡石は、日本では産出せず、トルコでもエスキシェヒール県の特産物とされている。 シルクの手織り絨毯やキリムと同様、手間のかかる海泡石の彫刻も次第に後継者がなくなって、やがては絶えてしまう恐れのある斜陽の伝統工芸である。 アトリエで、丁寧に彫り上げられた見事な作品を目にした奥さんは「きれいですね!」と感嘆の声を上げた。そして茶の湯の道具に使いたいと幾つかを買い上げてくれた。 責任者のシナンさんはあいにく留守だったが、2人の職人さんの仕事をご主人もカメラに収める。 丁寧に小さな花模様や籠目模様を彫り付けていく2人の職人。 根気のいるたいへんな作業、朝からみっちりやっても1個がやっと。 左、ドゥルスンさん、右、エルカンさん(5月14日撮影) シナンさん達3人のアトリエからは、本当に細かく美しく彫刻された品が送り出されている。グランド・バザールなどで一般に売られている品は、海泡石を粉末にして練り固めた材料に、バスク(型押し)で模様をつけたものが大部分である。 上はシナンさんのアトリエで作られたもの 下はグランド・バザールの店で見かけた型押しのもの 海泡石の原石は地中深く埋もれているが、あまり大きな塊として採掘出来ないので、原石(ブロック)をそのまま使った作品は数が限られてしまう。 そこで、不揃いな原石を一旦粉末にして圧縮し、日本でも印判の材料で「練り物」というのがあるが、そういう状態にして型を取り彫刻をほどこすのが一般的なのだそうだ。 原石からの小箱も1つ含め、お気に召した幾つかの小物入れを手にした奥さんが、 「朝、ホテルのプロムナードの店で、象牙のような白いパイプなどを見かけたんですよ。ちょうど、あれは何かしら、と思っていたので、こうしてきれいな品が買えてとても嬉しいです」とにっこり微笑んでくれた。 ところどころにちぎれ雲が飛ぶ青い空の下、アトリエを出て、ボスポラス大橋を通って海峡を渡り、アジア側のチャムルジャの丘に行った。 本日5月19日は「オンドクズ・マユス(19日・5月)」と呼ばれ、トルコでは特別な国民の祝祭日である。 1919年5月19日、6つに分割され西欧諸国に占領されるはずだった国を救おうと、決意を固めたムスタファ・ケマル将軍(後のアタテュルク初代大統領)が、胸に一物、黒海沿岸のサムスンに上陸し、救国戦争の開始宣言をした日なのである。 チャムルジャの丘にも、好天に誘われて市民が家族連れで繰り出していた。イスタンブールで最も標高の高い丘の頂上から見渡すヨーロッパ側のパノラマにも満足した小池夫妻と、カプタンと4人でベンチに腰掛けて、ドネル・ケバブとアイラン(飲むヨーグルト)のお昼をいただき、程なく丘を下った。 ハーレムの港からフェリーボートでヨーロッパ側のシルケジへ。短い時間だが船路を楽しみ、そのあとは海岸通りを一路イエディクレ、ゼイティンブルヌまで走り、じっくりとテオドシウスの城壁を見ていただく。 城壁の切れるアイワン・サラユで環状道路を下りて、金角湾沿いに北上、今度はピエール・ロティの丘に。ほんとうはゆっくりとそこでお茶を飲むつもりだったのだが、市民でごった返していて、座る席も見つからない有様。 しかしその分、昔の火力発電所だったエネルジー(エネルギー)博物館に行くことができた。ここはやっぱり機械や建築を業とするご主人の興味をそそる。 ごついドイツ製の発電機やタービンなどを見たあと、「いままでどこにも日本人がいませんでしたね」と夫妻は声を揃えて言った。 「せっかく外国旅行にいらしたのに、日本人の集まるところばかりにお連れするのもなんですから・・・」と私。 発電所のあとはスルタンアフメットに向かい、イエレ・バタン・サルヌチ(地下貯水池=間違って地下宮殿と邦訳されている)を最初に見学した。 知り合いの警備長さんが3人にお茶を振舞ってくれたので、地下で冷えた身体を温める。表に出るとエザーンが聞こえた。お祈りが始まるとブルーモスクにはしばらく入れないので、ランプで有名なキベレ・ホテルを訪問した。 4000個を越すと言うランプが、天井に所狭しと吊られているのを楽しく見物しながら、社長のアルパッサンさんや弟のハサンさんとも語り合い、1時間ほど後そこを辞して、いよいよブルーモスクに入った。荘厳な雰囲気の中、夫妻はしみじみと巨大なドームや柱を見上げている。 誰もがため息混じりに同じ思いを抱く。クレーンもなかった時代に、どうやってこの大理石を積み上げたか。 「奈良の東大寺とか日本の神社仏閣は木造ですが、これは石ですからねえ・・・」と小池氏は感じ入った風につぶやいた。 8時頃、魚料理レストランが何十軒も並ぶクムカプのカラマル・レストランに落ち着いた。 4月に日本で放送された番組でも、女優の原沙知絵さんと高野あゆ美さんがこの店で食事をする場面があるという。 賑やかな楽隊の響きに合わせて店の専属のダンサーがベリーダンスを踊り始め、店内が非常に盛り上がってきた。 小池英二氏と奥さんの美幸さん。 (ご承諾をいただいて掲載しています) 母校のブラスバンドを指導し、コンダクターとして活躍された、紳士的で温厚なご主人と、とても上品で笑顔の可愛い美人の奥さん。素敵なカップル、小池夫妻とのイスタンブール第1日目は、こうしてめまぐるしく過ぎていった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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