|
カテゴリ:イスタンブールで人と会う
【3月24日・水曜日】 アジア側のジャッデボスタン文化センターで2日間上演された「竹取物語」の初日は19日の金曜日だった。 人を迎えに行く約束があったので、5時半出航寸前の連絡船に乗ろうとカラキョイ埠頭で走り、船着場の入り口近くで思い切り転びそうになって、前の人のリュックサックにしがみついてしまった私。 その2日前には裏庭の階段に捨てられていた断熱材が雨に濡れていたため滑って、猛烈な勢いで仰向けに転倒したばかりだったので、すっかり転倒恐怖症になり、幸い連絡船には乗せて貰えたが、太ももがわなわなと震えて柄にもなくヨチヨチ歩き。 カドゥキョイの坂を登って、日本トルコ友好協会の名誉会長ドアン・ソフラジュオールさんの会社まで迎えに行ったら、去年の9月以来だったので 「やあやあ、まあおかけなさい」と、近況やらもろもろのお話やらが始まった。 ついつい壁の時計が目に付いて気もそぞろに・・・ 「ドアンさん、そろそろ、あのー、劇場の方へ出かけたいと思いますので、あちらに着いてからお話し聞いてもいいですか?」 「ああ、もちろんですとも。ただし、私は先日来、具合が悪くて咳が続けて出たりするので、ほかの皆さんに迷惑になるといけない、今日は失礼して行かないことにしますよ」 ええーっ、名誉会長さん、ケシケ、それならそうと電話でもしてくれたらよかったのに。何のために船に遅れまいと慌てて走って転び損なったの、私ぃぃぃ。 かくてタクシーをつかまえ夕方の渋滞が始まったカドゥキョイの街の裏道、裏道をゲームのように通り抜けてタクシーは会場へ。 日がとっぷりと暮れる頃到着したがそれでもまだ7時5分前。場内は600人分の席があり、堂々たる劇場だった。予想された混雑はなく、7時半に入場が開始された。 2002年の秋だったか、加藤登紀子さんのコンサートだというのに、ハルビエの劇場ではまばらにしか客が入らず、開演ベルの直前、観客を前の方に集めたことを思い出した。 あんなふうにならないで欲しい、とひそかに念じていると、摩訶不思議、開演間近になると急に観客の数が膨れ上がってほぼ満席に近い状態になった。 私は知り合いのミュジダット・ゲゼン芸能学院の教授であるクヴァンチ先生と並んで中ほどの席に腰を下ろし、幕の上がる前にかぐや姫のあらすじを先生に説明しておいた。 初めに日本のイスタンブール総領事林氏とカドゥキョイ区長の挨拶があり、いよいよ幕が上がった。影絵用に大きな白いスクリーンが吊るされており、そこに現代の東京の夜景が大きく映し出されて影絵芝居が始まったのである。 スクリーンは3枚に別れており、物語が始まると場面に応じて真ん中だけになったり左右2枚になったりと、舞台装置のスケールが非常に大きいのにまず感動した。 ずっと見とれてしまい、舞台の写真は撮れなかったが、最初にトルコの影絵芝居カラギョズを腹話術人形に仕立てて右手に持った、裃姿のトルコ紳士(俳優・アティッラ氏)が登場。 まずは達者な日本語で「口上」を述べ、最後に「隅から隅までず、ず、ずい~っとお願い申し上げ奉りまする~」と頭を下げると、客席からやんやの大喝采が起こった。 その直後、花道ならぬ客席の脇の方から、琵琶を抱えた黒子姿の高野あゆ美さんが、50年前に一世を風靡した懐かしい「♪アカシヤの雨が止むとき」を口ずさみながら登場した。 身軽に舞台に上がって、裃のカラギョズと掛け合いをしつつ、物語を進行させる狂言回しの重要な役どころ。 黒づくめの衣裳がよく似合って、前垂れをはね上げ、目鼻立ちのくっきりした顔が見えるとここでも拍手が起きた。実際、あゆ美さんあってこそ、この役どころが生きるのではないか、と思われた。 彼女の存在は、客席にいる日本人には同じ日本人として共感、連帯感、そして誇りをも抱かせ、トルコ人にはその達者なトルコ語使いが並々ならぬ親近感を抱かせるのであろう。 なぜなら、よくよくトルコやトルコ人を愛していなければこれほど上手にトルコ語をマスター出来るものではないからだ。 (トルコを愛しているのにへたくそな私みたいな人もいる。能力差、能力差) おととし、テレビであゆ美さん扮する日本人コック、マキコさんのお母さん役で呼んで貰い、4週分で共演させて貰ったのだが、こちらは素人なので何かと気遣ってくれる行き届いた人柄に改めて惚れ込んでしまった。 私とお父さん役の方の出番が終わって幾日かしたら、あゆ美さんからそれぞれに花束が届き、ちょうど私は誕生日の前の日で、なんとも言えず嬉しい贈り物となった。 花束 その半年後、今度はコーディネーターとして日本にあゆ美さんを紹介する番組でまみえる機会があり、日本のプロダクション側からたった数日前に「取材したいからアポを取ってほしい」という無理な注文を、快く引き受けて貰ったことがある。 あゆ美さんの取材は1日だけだったが撮影も楽しく終わり、翌日の打ち上げパーティには自らいいお店を紹介、撮影隊と一緒に店の看板まで付き合ってくれたあゆ美さん。 トルコに来て間もなく、地道に国立劇団の練習生となって下積みから修業を重ね、近年はミュージカルでも活躍。私も去年その公演にはるんるんで出かけていったものである。 さて、竹取物語はバラエティー仕立てで、登場人物が縫いぐるみであったり、お面をつけていたり、求婚する5人の皇子や貴公子達もそれぞれに工夫されたキャラクターで登場、テンポが速く客席を飽かすことなく、主人公のかぐや姫と竹取の翁夫婦だけはひたすら影絵のみなのが却って面白い。 トルコ語の台詞も本職のトルコの声優さん達の吹き込みで実にうまく当てはまっており、期待したよりもはるかに大きな実をもたらしてくれた。 トルコ影絵カラギョズの研究家でもあるクヴァンチ先生は場面が素早く変わるたびに、感心して首を振りながら鑑賞し、最後に私に言った。 「あなたに電話を貰ったおかげで、こんなに素晴らしい日本の文化、進歩した舞台技術を見ることができました。ありがとう」 物語が終わり、カーテンコールで全員が登場すると、アティッラさんとあゆ美さんはカラギョズ・ハジュワット姿に着替えて舞台で挨拶、あゆ美さんは通訳も兼ねている。 鳴り止まぬ拍手喝采。大勢の人の努力と協力で架け渡されたトルコと日本の大きな橋を、ここでも見たような気がした。 出演者の皆さん全員登場、最後のご挨拶 舞台のあとはコクテイルがあり、誰も帰らない。賑やかに夜は更けて行き、やがて舞台衣装を脱いだあゆ美さんもみんなの中に加わって、疲れも見せず気軽に記念撮影に応じてくれた。 嬉しさに足の痛いのなんか飛んでしまった私 満ち足りたひとときをたくさんの人々にもたらしてくれた主催・共催者の皆さん、あゆ美さん、アティッラさん、声優さん達、劇団影法師の皆さん、スタッフとしてお手伝いしていた皆さん、ありがとうございました。嬉しく拝見しました。 本当に今年からトルコと日本はますます近くなることでしょうね! にじいろジーン 「世界まるごと見聞録」 関西テレビ・フジテレビ系列 3月27日(土) 朝8時30分 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[イスタンブールで人と会う] カテゴリの最新記事
|