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見たまま、感じたまま、思ったまま

(7)うさぎ

ある朝高野の交差点近くをウサギがとんだ
 
作詞 作曲 歌 豊田勇造


ハミング


さて「うさぎ」である。この曲は勇造さんの曲の中で、最も長尺と言う意味では「ジェフベックが来なかった雨の丸山音楽堂」と双璧をなすが、「ジェフベック」が限りなく具体的であるのに対して、限りなく抽象的であると言う意味では対極をなす。

勇造さんの曲は、色々と背景の説明が必要な曲も多いが、それはそれで凄く具体的な世界を唄っている事が多い。しかし、この曲は説明を聞いてもなお抽象的な部分が残る。しかし、それ故魅力的であり、大作なのだと思う。

16歳で初めてこの曲を聴いた時には、なんせ凄い曲だなあと思ったけど、一体何処が凄いのか全然分からなかった(笑)。でも、誰だってそういう所ってあるだろう。読書でも、この本はよく分からないけど、これは凄いことが書いてあるぞ~って感じ。丁度そんな感じである。僕はこの詩に魅せられ、そして歌やハーモニカに魅せられて、半年くらい毎日ずーっとこの曲ばかり聴いていた。

何となく分かったことは、要するにこの曲はある朝の勇造さんの気分を唄った歌だと思う。
過去の辛かった事に思いを馳せつつ、未来への希望を唄った歌なのだ。

C→Em→Am→F→G7という単純なコードストロークのくり返しを中心として、ちょっとサビに展開するだけの曲だが、未だに僕はこのリズムが同じように弾けない。アップストロークのアクセントの付け方が独特なのだ。

一度ピアノの弾き語りで聞いたが、それも絶品だと思った。
勇造さんの唄は年をとるに従ってリズムが早く、そしてしなやかに、軽やかになっていくが、この曲に関しては、最新の3枚組ライブに入っている演奏よりも、ファーストアルバムに入っている演奏の方が合っていると思う。
それだけ重厚な歌なのだ。

長い語りの後で、この歌は始まる。

少しだけ解説しておこう。

3番の歌詞「力を失った方向と、方向を失った力よ 仲間割れを起こすな~」と言うのは、かつて自分も身を投じた学生運動の、中核派と革マル派の内ゲバのニュースを聞いて、思いついたフレーズらしい。

「後ろ姿の泣いている、男たちが輪になって踊っている~」というフレーズは、同志社大学で講演する野坂昭如の姿を舞台裏で見ていた出来たフレーズらしい。

(語り)
その日の朝は、二日酔いの頭のがんがんする朝で、
それでもやっぱりいつもどおり、比叡山のすそ野の見える北向きのちっちゃい窓の下に置いてある、
おもちゃみたいなピアノに腰を下ろして目覚めの曲を弾いてると
突然窓の外をさ~っとウサギが横切った。

「あれ、これはおかしいぞ」なんでかと言うと俺の部屋は、
かの有名な高野グランドマンションの2階にあるので
もしも本当にウサギが窓を横切ったとしたら
人通りの交差点近くの、それも空中何メートルものところを
本当にウサギが跳んだことになる。

そうこうするうちにウサギがチョコーンと窓辺に座り
「もしもしおはようさん、勇造君」、「もしもしおはようさん、勇造君」。
俺もついつられて「はいはい、おはようさんウサギさん」、
「はいはい、おはようさんウサギさん」。
それからしばらくは俺とウサギの朝の挨拶と言うか、セッションと言うか。

ふと気が付いてみると、もうウサギは窓辺には居らず
残った物と言えば、やっぱりいつも通りちっぽけなこの俺と、
たったひとつの小さなメロディー。

そのメロディーに、俺の大好きな3人のブルーズシンガーと、俺の大好きな何人かの友達の事と、そしていつか行ってみたいあのミシシッピ川の事を思いながら作った歌があります。

題名は 「ある朝高野の交差点近くをウサギがとんだ」


朝の光の中で 俺はうさぎになろう
完全な痛みを求めた 時は去ったけれど
まるで将軍の手下のように 悪く思われるのがイヤで
両手でふざけてみせる 癖が付いたけれど
内なる世界と外なる世界の 果てしなき国境に立って
いつも飢えた腹を抱えて 俺はお前を待っていた

まるで交響曲のような お前の六本の指使い
戻らなくなったピアノのキーにも生命はある
五本糸の魔術師 十の洞窟の探検者
四本の線路に沿って 薬売りよ走れ
鍵が欲しいね 中程に開いた
湖を開く鍵が 最初の冬の雨までに

力を失った方向と 方向を失った力よ
仲間割れをおこすな 暗い部屋の中で
後ろ姿の泣いている 男たちが我になって踊っている
金色のしずくで 体中を震わせながら
今まで気づかなかった 優しさと悲しさを求めて
俺の剣よ益々伸びていけ 熱く熱く

朝の光の中で 俺はうさぎになろう
そして出来れば風に溶けてしまおう
寂しさと名の付いた 自由など裂けてしまえ
メチャメチャに笑うのだ もういっぺん道の上
時のカーテンよ待ってくれ 俺たちに開かれるのを
さあ、市電よ俺を乗せていってくれ ミシシッピー河へ!!





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