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カテゴリ:日々の診療の狭間で
え~と、それは水曜日あたりから起こっていた。
診察の時に聴診器を耳にかけると、何となく右の耳が痛かったのである。 木曜日あたりになると、耳から聴診器を外すときにそ~とやらないと痛い!と言う状態になっていた。 ひょっとしてこれは外耳炎ではないか? 外耳とは、耳の穴の入り口から鼓膜までの間の道である。 (鼓膜から内耳までを中耳と言い、ここに起こるのが中耳炎) 耳たぶを引っ張ると痛いと言うのが診断的特徴である。 聴診器を外すときにどうしても耳をひっぱるようになるのである。 試しに耳掃除をしてみるとなんだか耳あかに酸味がする。発酵臭がするのである。 いや、誤解の無いように。決して耳あかを食べたりしているわけではない。 やはり職業上、排泄物には注意を払っているのだ。 それに僕の耳あかは湿性なので普段でも少しにおいがある。 それが一瞬でわかるぐらいに普段とは違うにおいであったのだ。 発酵臭=腐っている=膿んでいると言う図式が頭にひらめく。 最初は耳の穴の入り口付近が痛いと感じていた。 ここなら思い当たる原因があった。 皆さんもそうだと思うが、頭髪と言うのは年を取るごとに薄くなったり白髪になったりするものだ。 若い頃から薄かった僕の頭髪は、予想外に健闘しており今でも若い頃と遜色がない。 白髪もほとんどないけども、まあそれでも少しずつ減少しているのは否めないだろう。 しかし、年を取るごとに増えてきている新たな新興勢力があった。 それは耳毛だった。 40歳を過ぎたあたりから耳の入り口あたりに剛毛が生えるようになったのだ。 こんなところに生えるぐらいなら頭に生えろと言う僕の声もむなしくそれは増長傾向にあった。 うっとうしいので、暇になれば鼻毛を抜く要領でその耳下野郎をブチブチと抜いていたのであった。 結構強引に何本かブチブチと引き抜くので、その抜いた毛穴からばい菌が入って感染したのでは?と言うのが僕の予想であった。 木曜日はPTAの飲み会があったので、抗生物質と痛み止めを飲んで出かけた。 酔いすぎないように生中4杯程度で切り上げて12時前にはベッドに入ったのだが夜中に耳の痛みで目が覚めた。 なんだか拍動性に痛い。それにちょいと耳の聞こえも悪いような気がする。 痛いのと配偶者がエアコンを消してあついのでリビングに移動してソファーの上で眠ろうとするが痛みでなかなか眠れない。明け方になってもう一度耳の聞こえをチェックすると(指をこすりあわせる音が聞こえるかどうか)、全然聞こえないような気がする。 外耳炎で耳が聞こえなくなるのだろうか?これは中耳炎のような気がする。 中耳炎としたら原因は何だろう?火曜日にプールへ行った際に鼻に水が入って、いつまでも残っているので思いっきり何度も鼻をかんだのが悪かったかも知れない。 夜中に原因追及をしても仕方ないのでもう一度痛み止めを飲んで何とか寝た。 以前日記で書いた、歯の根本の神経がやられたときには一睡も出来ない、時に体が震えるぐらいの痛みだったけど幸いそれほどでもなく何とか眠ることが出来た。 朝起きたとき。 右耳は全く聞こえない、そして右の耳全体にと言うか顔半分ぐらい水につかっているような、耳の穴全体に水を満たされているような感じがしていた。痛みも拍動性にズンズンとくる。 耳掃除をしてちょっと奥に入れすぎると痛いところがあるでしょ。あの痛って感じが続いている感じなのだ。 人格4段落ちは間違いない。 そのうちに体を動かしていると自分の耳の中でプチプチと何かが破裂するような感じがあって急に痛みが少し楽になった。 ああ、鼓膜が破れたんだなと思う。 要するに中耳にたまった膿が鼓膜を押しているから痛いわけで、破れてその圧が低下したら痛みは軽減すると言うわけだ。 耳を触ってみると耳の穴の入り口がぬれている。酸っぱい・・(いや、食べてないのよ、臭っただけ)。ティッシュで拭いてみると黄色い液体だ。膿が出てきているのである。 これでは仕事にならんので、配偶者に代わってもらって近所の耳鼻科へ行く。 ここは配偶者の同級生がやっていて、非常に気安い関係なのだ。 子供は何度も連れて行ったけど僕は耳鼻科にかかるのは30年ぶりぐらいである。 診察の前に聴力検査をして診察。 「ああ、先生これは膿が出ていますよ~」と言われながら膿を吸引して中まで診察した結果は・・。 鼓膜は破れていなかった。 鼓膜の奥に液体貯留が見える=これを滲出性中耳炎と言う。 鼓膜の手前の外耳の曲がっているところが赤くただれてびらんになっている。 どうも膿はそこから出ているらしい。 外耳炎でも炎症が激しくて外耳が狭窄したら聴力が落ちることはあるそうだ。 恐らく、かなりはれていた外耳が膿を出すことによって少し開通したから痛みが楽になったのだろうと言うことだ。 聴力も、右の高音が少し落ちていた程度で、中耳炎枝で落ちやすい中音域は左と同じ程度で正常だった。 滲出性中耳炎と言うのは本当の急性(膿が貯まるような)じゃなくて、やや亜急性に起こった中耳炎、もしくは急性中耳炎の治ってくる課程の状態だ。 以上から今回の出来事を推論すると・・ 何度かプールで強い鼻嚼みをした際に、軽い中耳炎を起こしていた(そういえば、鼻をつまんで耳管通気をしたらグジュグジュと言うことが何度かあった)。耳下を抜いたところが炎症を起こして(確かにそこも赤かったらしい)感染が起こりやすい状態になっていた。耳あかを気にして何度か耳掃除(それも、竹の耳かきとか、クリップを伸ばして自作した針金の耳かきとか)を水、木あたりに頻回にしたのでそれが奥の方での強い外耳炎を誘発したのだと考えられる。 点耳薬をもらい、念のため消炎鎮痛剤と抗生物質の内服もしている。 そのおかげで今日の土曜日は何とか外来をすることが出来た。 イアービースの圧力の強い普段の聴診器を避けて、ちょっと古いゆるんだ聴診器を使っている。 まだ耳たぶを引っ張ると少し痛い。水曜日程度と同じだ。 明日の外来も代わってもらうし(もともと勉強会に行く予定だったので)月曜には元気になるでしょ。 しかし、病気のたびに思うけど、同じ診療科の配偶者が居るってありがたいね。 病気になったら休めるもの。 普段は、違う診療科だったらもっと患者も増えるしそっちが良かったなんて思うのに、病気になってみるとありがたみがよくわかる。高熱を出しても診療休めないのが開業医の普通だからねえ。 それに内科医にとっては、重い内臓の病気じゃなくても感覚器がちょっとやられるだけでも診療が出来なくなると言うことがわかった。聴診器が耳につけれないと仕事にならない。 目がよく見えなくても無理だし、耳が聞こえなくても無理。片腕でも診察は出来るだろうけど、胃カメラのような検査は出来ないな。 だから内臓疾患だけじゃなくて、末端の感覚器の病気にだって気をつけないといけないなあと改めて学習したのであった。 今日の教訓。 耳毛が気になるなら、誰かにはさみで処理して貰いましょう。 強く鼻をかむのはやめましょう。 耳掃除は綿棒のような優しい器具を使って慎重に。クリップを伸ばして(先は丸く曲がってるところを使うのよ)ほじくるのはやめましょう。 しかし耳の痛みも歯ほどじゃないけどひどいわ。 子供が夜中に中耳炎になったときに泣いて起きるのがよくわかった。 医者が病気になっても誰も同情してくれないのには慣れたから、こうやって「病気になったおかげで患者さんの気持ちがよくわかるようになった」と自分を納得させておこう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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