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カテゴリ:オレにも言わせろ!
毎月10日はレセプトの締め切りである。
これをきちんと出さないとおまんまの食い上げになるわけで、まあ今まで出し抜かった事は一度も無いけども(あ、一度忘れていて必至こいて走ったことがあった)、まあ出した後はほっとするしそれでいつのまにかひと月の3分の1が終わっているわけだ。 今日レセプトを出して明日1日仕事をしたらあさってからはお盆休み。 徳島は阿波踊りの4日間である。 鳴門市の阿波踊りは既に昨日開幕したし、窓を開けるとどっからかぞめきのリズムが流れてきて、身も心も既に落ち着かない状態になってるのだ。 このレセプトの締め切り日の1~2日前に社会保険の支払基金と国保連合会から返礼および再審査のレセプトが戻ってくる。返礼と言うのはダメですこれは受け付けられまへんと言う奴だ。 その原因は、保険内容の記載の間違い。 患者さんの保険証が既に無効になっていたり、本人と家族の記載が間違っていたり、保険番号が間違って居たりする場合だ。これらはレセプトごと戻ってくる。 原因は、医療機関の打ち間違い、保険証確認が出来てなかったなどがあるが、圧倒的に後者が多い。 月が変わると保険証を提示することと言うのは暗黙の了解になってるが、それを実際に実行してくれる患者さんはそれほど多くない。だからと言って、「今月保険証見せて貰ってないから、あんたは自費で10割負担ね」と言うわけにはいかないのが実情だ。 まあ多くの人はそんなに保険がコロコロ変わったりしない事が多いけど、この不況の御時勢、2ヶ月に3回職場を変わったりする人、社会保険から国保へ切り替わった人なども昔に比べると多い。そういう人に限って、保険証を見せてくれてなかったり変わったことを黙っていたり(単に言い忘れただけかもしれないけど)しがちである。 こういう記載の間違いはどこの医療機関にでも一定量あるわけで、どうしてもゼロにはならないだろう。 それでも、それに伴う事務手続きだけでもかなりの無駄になっているらしい。 しかし、今回日記に書きたいのはそっちの話ではなく、再審査の方である。 これは何かと言うと、レセプトに文句をつけてあんたのところはこんな診療をしてますけど、これは間違っているので支払いは致しませんと言う通知だ。だから請求したレセプト全部ではなく、その診療行為のみ減点と言うことになる。 具体的に言うと、○○さんのレセプトは全部で1500点ですが、その中でこのお薬に対する病名の記載が抜けていますので、その分の薬剤量250点を減点させていただきますという奴だ。 うっかり病名を書き忘れる事はあるわけで、そんなん後から病名を追加させてくれたらいいのに、病名追加と言うのは一切認められない。そんな事をしたら減点が殆どなくなっちゃうからだろうと思うけど、考えてもみてくれ、実際に医療機関はそのお薬を投与してるのである、減点されたら丸損だ。後からこの病名を忘れていましたから追加させてくださいと言うのがどうしてダメなのか僕には理解できない。(恐らく、医者性悪説に基づいているのだと思う) まあ、病名抜けはある意味自業自得なのでまだあきらめがつく。 腹が立つのは病名はついているのに、向こうの最良で減点してくる奴だ。 今月はエンシュアリキッドが何人かで減点されていた。 エンシュアと言うのは、まあ液体のカロリーメイトみたいなもので飲む栄養剤である。1本が250kcal。 特定の病名ではなく、栄養状態が悪く食事接種の出来ない人、また嚥下の出来ない人に胃チューブや胃瘻から食事として注入するのに使用される。 以前日記にも書いたことのある、四肢麻痺で寝たきりのsさんは1日の食事を全部エンシュアでしている。 それから認知症のあるkさんも、あまり食事がすすまないので1日一本ぐらいの割合で処方している。 これらを削ってきたのだ。 査定される過程には2通りある。 その前にレセプトの流れを知って貰おう。 今月出したレセプトは2ヶ月後の10月の末にその支払いが行われる。 2ヶ月かけて適正かどうかの審査がなされるわけだ。 この過程で減点が行われれる。 そしてお金が支払われた後に、そのレセプトは元の保険者に戻される。 社会保険なら各々の保険組合、国保なら市町村という具合だ。 そこには保険担当の係がいて、これらの人、そしてこれらの人に雇われた人がそのレセプトをチェックして意義を唱えてくるのである。これを保険者による再審査と言う。 早い話、俺らはこんな診療に金払わへんで~と社保や国保に申請するのである。 再審査は、この保険者によるものが圧倒的に多い。 財政不足の折、まず削ると言うことが前提にあるわけだ。 それぞれの保険者のチェックするひとは俗に削り屋と呼ばれている。自分が何点削ったか、その何%かがマージンとして支払われていたりするのである。 削る事が前提であるから、彼らがやることはもう単純に効能書きを調べてそれと少しでも違っていたら意義を唱えてくる。 実際の患者さんがどうだったかなんていうことは彼らには見えないしわからない。もう本当に機械的なのである。 以前にこんな事があった。 骨粗鬆症に使われるエルシトニンと言う注射があるけど、これは骨粗鬆症に由来する骨の痛みに効果がある。 ところが、この注射がある時期から一斉に削られるようになった。 なんでか国保に問い合わせると、この注射の効能書きにには「骨粗鬆症による疼痛の緩和」とあるから、疼痛と言う言葉が抜けているのは認められないと言うのだ。 アホか!そしたら、カルテの病名のところに「骨粗鬆症」ではなくて、「骨粗鬆症による疼痛」と書けと言うらしいのだ。 こんなのって病名じゃないでしょ。痛いから使ってるわけで、そんなのは医者の裁量権の範囲内だと思うのだ。 こんな例は枚挙にいとまがない。この薬の適応は「狭心症」なので「心筋梗塞」には使えませんとか(狭心症の進行した物が心筋梗塞なのに)、老人性痴呆と病名を書いていたら、「アルツハイマー性」と言う言葉が抜けていたのでダメですとかそんな具合だ。 医療機関側からしたら、いちゃもんをつけられてお金を踏み倒されたようなものなのである。 保険者による再審査の酷いところは、過去に遡っていく点だ。 例えば、今月帰ってきたエンシュアの再審査は、1月のレセプトのものだ。 と、言うことはこれが認められると味をしめた削り屋達は、来月は2月、再来月は3月分とどんどん引き続いて再審査をしてくることだろう。今月分のレセプトでは、いろいろ症状注記をして対策をしたから大丈夫だと思うけど、下手をすると7月まで延々と再審査で減点されてくる可能性がある。 どうせ減点するなら、最初に国保の審査の段階で減点してくれたら2ヶ月後にはその通知が医療機関にいってこっちも対策を練るから多くても損失は2ヶ月分だ。しかし、実際に国保で減点されることはほとんど無くて、保険者再審査の事が多い。国保は保険者からの再審査はこうやって簡単にお金を踏み倒してくるのに、それに対して医療機関が再審査をしても殆ど認められないのが現状だ。 だから、多くの医療機関はその労力と効果を考えて、減点されてもそのまま泣き寝入りと言うのが現状だ。 考えてみたらあほらしい話だ。 一生懸命診療した行為が、患者さんを診たこともない削り屋の杓子定規な解釈によって減点されてしまうのである。 これで医療機関にやる気を出せと言うのが無理というものだ。 もう一つ、酷い話がある。 鋭い人はここまでの話を読んで既に気づいてるかも知れない。 もう一度復習してみよう。 1000点の医療行為は金額にすると10000円である。 患者さんは3割の3000円を支払っている。保険から残りの7000円が支払われるはずだった。 ところが、その診療行為は認められないといちゃもんをつけられて7000円が踏み倒された。 ここで考えて欲しい。 その診療行為が認められないのなら、患者さんが支払った3000円はどうなるのか? それならば、患者さんに3000円返すのが筋ではないか。 しかし、実際に患者さんが支払った3000円と言うのはそのままなのだ。 実際問題として、医療機関が患者さんにお金を返したかどうかなんて誰もチェックできないし、そもそも患者さんだってお薬を貰ったり注射をして貰ったりして、自分は調子がよくなって、後であの行為は保険診療で認められないのでお金を帰しますと言われたって困るだろう。 ここで理解して欲しいのは、保険診療で認められてない=医学的に間違っていると言うことではないと言うことだ。 現実には逆の事が多い。医学の進歩に保険診療がついて行ってないのが実情で、世界的に当たり前と言うことが保険で認められてないばかりに、それをしたら減点ということはいくらでもあるのだ。 喘息の発作に使う副腎皮質ホルモン剤のメチルプレドニン(商品名、ソルメドロール)は、アレルギー学会の治療指針にもきちんと記載されている薬剤なのに、保険適応病名が「循環不全(所謂ショック)」しかないので、長らくこの薬剤を喘息の発作の人に使うと全て減点されて返ってきた。それなら適応病名を追加、拡大してくれたらいいのに、それをするには治験や申請の手間や金額がかかると言う理由で製薬会社が怠慢こいていたのである。 関係者の尽力があって、やっと少し前からこの薬剤が喘息でも使えるようになった。 どうです? 保険診療ってこんなに複雑なものだって知らなかったでしょう。 医学は純粋に学問ですが、医療行為には必ず経済性と言う足かせがつきまとうのである。 それはある意味仕方ないけれど、その経済性と患者さんとの板挟みになって泣いているのはたいがい医療機関なのである。 毎月、10日の少し前には血圧が上がってるに違いない。 この時期に脳卒中や心筋梗塞で倒れる医者は多いのではないかと密かに思っている。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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