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しーくれっとらば~’S

しーくれっとらば~’S

SERENADE 第6話 圭



SERENADE



~THE 6th~ side KEI TOUNOIN



部屋の中で聞こえる音は
時計の静かに時を刻む音と、悠季の安らかな寝息だけ。
臨んだものが手に入ろうとしている今だが
「静かな時間」も一緒に手に入れたいと思うのは
我侭なのだろうか-----。

自分の英断がもたらした成功がこんな形で帰ってくるとは...。

*********************************

悠季。

御姉さまたちの来訪、喜んでいただけた様で何よりです。
僕の勝手な判断でしたが、君に「みんながついている」ということを
実感して欲しかった。
キミの家族は君の支援者なのだ---どんな事があっても---と
言う事を確かめて欲しかった。

そして、僕自身もどこかで
「許されている」という証が欲しかったのです。

越後での姉上への独白の後、
僕は「第2の郷里」への憧れと、
君の家族への理解を得る機会を失ったままでした。
僕の「べべ」丸出しの浅はかな行動がもたらした
最愛成る家族との亀裂。
伴侶である僕の存在はさておき
その事は少なからず君の「演奏」にも影を落としていた事でしょう。

僕という存在はまだ許されるものではないのかもしれない。
しかし!
「守村悠季」の演奏に愛すべき故郷との不和がもたらす
音のゆがみを感じさせてはいけない。
そんな風に思いまして、勝手に姉上に連絡を取りました。

結果、あのような家族愛に満ちた郷土音楽を聞けて、
透明な涙を浮かべて抱擁する君たち姉弟を見ることが出来て
僕は非常に満足しています。

ああ、伴侶としての僕を許されたとは思ってはいません。
時間をかけてゆっくりと、許して頂かなくては。
---なにがあっても君と離れる気はありませんがね。


しかし...。
M響でのシューベルト、そして君のソリスト公演の成功が
回りをこんなに変えてしまうとは、至極不愉快です。

楽屋のみならず、どこまでも追いかけてくる報道陣、
黄色い声援と共に迫り来る婦女子。
そして、
「わたくし、やはり守村さんが好きですわ。いろいろな意味で。」と
こともなげに宣言した小夜子-----!!


イタリアで君の演奏に聞きほれた主催者が
まさか、桐ノ院家をバックにつけて公演を仕切るとは
僕も考えては居ませんでしたし、
(御爺様なら薄笑いを浮かべてやりそうではありますが)
その資金調達のため富士見銀行を動かしたのが
いまや銀行家として頭角をあらわし始めている
他ならぬ小夜子だったとは。

君の良さが最大限に表現されたこの公演で
僕たちの演奏家としての評価が上がるのは勿論歓迎しますが
必要以上の取材や、
願っても居ない(しかもきな臭い)スポンサーにまとわり憑かれるのは
勘弁です。

僕は、バイオリンを奏でる毎に天の高みに登っていく
ミューズのような君を、
唯一、かけがえの無い人生としての伴侶である君を、
僕との情事でしか見せない甘やかな表情の君を、
-----独占しておきたいのです。
「僕のものだ」と世間にひけらかしたいのです!

言葉に矛盾があるのはわかっています。
しかし、君は僕の独占物であり、
僕はあくまでも君の唯一の存在でありたい。
僕の宝物を大事にしまっておきたいのと同時に
「こんなに素晴らしい宝石を持っている」と自慢したい。
「僕が持っていてこそ、この宝石はこんなに光り輝くのだ!」と。

そんな堂堂巡りな思考に頭は疲れ果て
身体は逆に目が冴えて安らかな睡眠を拒否し、
わけも無く悠季を欲し-----。
僕は...至極我侭な抱き方で君を欲しがった。

抱いても、抱いても....。
身体の力が尽き果てるまで抱かないと満足しない。
いつも以上に深く、濃い刺激に
四肢は痺れ、身体はとうに限界を超している。
なのに身体の奥にくすぶった炎はいつまでも揺らいでいて。
尖りきった神経はまだ悠季を求め、
僕を君の湿った肌へといざなう。

それでも君は、僕の心情を全て見通しているかのように
君からも貪欲に僕を求めてくれた。
掠れてしまった声は絶え間なく僕の名を囁き、
行き場を失った手は僕の背中に爪を立て、
柔らかな内腿と淫乱な腰つきがより一層の快感を求めて僕を締め付ける。

男同士、いや、芸術家同士でしかわからない
沸騰した思考の果てにやってくる性的欲求を
肌を合わせただけで理解し、自らも求めてくる悠季。

そんな君を-----誰にも渡すものか!

凄まじい勢いで襲ってくる快感の頂点に
僕はまた、そう確信し、誓った。


これからもより一層僕らを取り巻く周囲が騒がしくなるかもしれない。
あわよくばプライベートなことで圧力をかけられるとも限りません。
僕はそうした全てのものから君を守りたい。
君という鳥を雨の日も風の日も守る大樹に。
世界に大きく羽ばたくのは僕という樹からです。
そして...帰ってきてまどろむのも、この樹です。
この樹は君と共に育っていくのです。

さあ、大地にしっかりと根を下ろし、
次の「富士見の定期演奏会」に向けて
また歩き出そうではありませんか。
僕たちが一緒なら、その音は限りなく膨らんでいき、
二人で向かえるあの至福の時に似た精神の高ぶりを
表現する事も出来るでしょう。
その時には僕は聴衆に充分に見せてあげるのです。
「これが僕の悠季だ-----と。」

おやすみ、悠季。
今夜の君は....素晴らしかったです。


                       圭


*********************************

納得行くまで悠季を抱いて、心身ともに満足したのに、
まだこれだけ伝えたい事があるとは。

僕の悠季を求める気持ちは
自分でも計り知れないほどの熱さを孕んでいるのですね。

心地よい疲労感が睡魔を連れてきたようだ。
静かな部屋に椅子の擦れる音を響かせて
僕はゆっくりと立ち上がり
最愛の人の横に滑り込んだ。


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