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テーマ:辛口映画批評(354)
カテゴリ:マスコミ試写
映画の話 北イタリアのトリエステに長距離バスでやって来たイレーナ(クセニャ・ラポポルト)は、貴金属商を営むアダケル家のメイドになる。家事を完ぺきにこなす彼女は、アダケル夫人(クラウディア・ジェリーニ)から瞬く間に信頼を得るようになる。また、4 歳になるアダケル家の娘テア(クララ・ドッセーナ)とも心を通わせ合うようになるが……。 「ニュー・シネマ・パラダイス」の監督ジュゼッペ・トルナトーレの新作だ。しかし、トルナトーレのノスタルジックな作風を期待すると裏切られる事になるので注意が必要だ。 映画の幕開けは、顔に無表情なマスクを被せられ下着姿の女達が、隣の部屋の壁穴から覗く男に値踏みされると言う猥雑な香り漂う衝撃的なオープニングで、トルナトーレが自分自信のイメージを打ち砕くシーンで幕を開ける。 映画は、主人公のイレーナの現在と過去を交差させながら描かれるミステリアスな展開だ。イレーナの行動は謎で、異常な緊張感とサスペンスあふれる展開でドンドン映画の世界に引き込まれる。 一体イレーナの目的は何なのか?謎を紐解くようにイレーナの過去が随所に挿入される。イレーナの忌々しい過去を表すようにエンニオ・モリコーネの音楽は鋭角的なヴァイオリンの音色で観客の耳を突き刺す。 イレーナの過去は金髪の髪の毛に男を挑発する衣装。暖かい暖色系の画面に恋人との甘い時間を写したと思うと、男達にSM的な忘れ去りたい暴力を受けるイレーナ。 現在のイレーナは茶色の縮れ毛に地味な衣装。寒色系の画面の中、一つの目的に向かい突き進むイレーナ、彼女の過去を知る“黒カビ”の存在が怖い。 映画の感想 映画は様々なパズルのピースを観客に投げかける。パズルのピースは映画が進むうちに収まるべきところに綺麗に収まる。 トルナトーレの演出はミステリーとサスペンスを両立させていて見事だ。あえて自分が今まで作り出した映画の世界観をブチ壊し、改めて再構築して新しい次元に突入した、トルナトーレの作家としての成熟を感じた。 映画の舞台となるアパートには、迷宮の世界の入り口のような螺旋階段が何度映し出されて映画を盛り上げる。サスペンス演出は、スーパーマーケット、映画館、ホームセンター、洗濯室など様々な場所を舞台に描かれる。 それにしてもトルナトーレ作品のモリコーネの音楽は毎回良いスコアを書く。哀しい生き方をしたイレーナのテーマには、3拍子のやさしいメロデイを使い、忌まわしい過去には刺々しいサウンドを充てていて観客の心を揺さぶる。映画はかなりダークな作品であり、女性には目を背けたくなるシーンもあるが、その先を乗り越えた着地点には胸を打たれる事になるだろう。一本の映画として面白かった。 映画「題名のない子守唄」関連商品 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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