SF小説「帰ってきて欲しい」 編集しました
勝手ではありますが、どうしてもしっくりしない作品になりつつあったので、一部大幅な加筆、編集を行います。まずは冒頭から、登場人物も変更してありますので一度読んでいただいた方にも再読して頂けたら嬉しく思います。 沢田 佳 S・F小説 「帰ってきて欲しい」 沢田 佳 2150年1月7日、僕は、三ヶ月前に結婚したばかりの妻をに亡くした。交通事故だ。ハンドルを握っていた男は新年会の帰りで、飲酒運転だった。 当然、男は有罪。22世紀の法律では、飲酒運転による人身事故を起こした現行犯の場合、一審で結審、確定する。つまり僕の妻の命を奪った犯人に執行猶予は付かない。この男の場合、懲役20年の実刑が確定した。これで終わりではない。加害者は刑を終えて出所しても生涯、免許証の再交付はない。また、被害者と同じ町に居住することも禁じられている。 さらに戸外(都外、海外も含む)で被害者と遭遇しても声をかけることさえ禁じられている。これに違反すれば、また刑務所へ戻ることになる。これほど厳しい刑法の下でさえ、3年に一件ほどの割合で飲酒運転による事故がおきている。 殆んどの損保保険会社が災害に係る保障を扱わなくなったいま、国会は与野党全員賛成を受けて新しい法案を可決した。 「自動車免許保有者による飲酒運転事故被害者救済保険税加入義務法案」 現在、全国の自動車事故による死亡者数はさまざまな重大事故回避システムの進化実施により激滅した。年間約運転免許保有者の総数は約3000万人、一人に付き毎年一回、¥10を国が徴収し、国庫で預かる。被害者1家族に対し、¥300,000,000が支給される。勿論非課税である。これに被害者加入の生命保険、この時代任意的生命保険の死亡保険額は¥50,000,000が一般的だった。 あの犯人の有罪が確定してから、2週間後、国税局から「要パスワード」メールが届いた。メールの内容は「飲酒運転事故被害者救済保険振込み案内」と「1週間以内に残高確認手続きを親指の指紋をスキャンし添付したメールを返信願います」というものだった。 2日後、銀行へ行き通帳を確認した。妻を失った僕に国庫から3億円、妻の生命保険金が5千万円入っていた・・・ぼくは、その場で泣き崩れた。妻の存在が、お金を受け取ったことでより薄らいだ・・・そんな寂寥感に襲われたからか・・・かといって、今のぼくには自分で目標を見つけて逞しく仕事に励む気力がない。だからその傷ましいお金を受け取った。実に情けない・・・ ひげも剃らず、髪もカットせずの毎日・・・会社の許可を得て、8週間のメンタルケア休暇をもらっている最中だから・・・そして今、ぼくの前にあるPC画面に映し出されているのは、アンドロイドメーカー最大手企業「F・L」の公式HPだ。毎日パソコンを開くと自動的に全画面を埋め尽くす。それは、妻の初七日の日の夕方から「お悔やみ申し上げます」の言葉とともに現れるようになった。嫌悪感を覚えたが、この種の情報はこちらから死亡届を提出する際に拒否の申請をしない限り、流出は違法とはならないのだそうな・・・勿論、これからアドレス指定受信拒否を防壁付で設定することはできるのだが・どうしても出来なかった。それほどに僕の中で唯に関係する可能性のある事柄を消してしまうことに抵抗があったということなのだろう。けれど僕の指はキーボードの上にはなく、一枚の写真を持っている。僕と妻の唯・・・ふたりが寄り添う最もお気に入りの写真を 「もう一度、会いたい・・どうしても・・・」 つづく にほんブログ村