ちはやぶる神の斎垣も越えぬべし恋しき人のみまく欲しさに
よみ人知らずちはやぶる神の斎垣いがきも越えぬべし 恋しき人のみまくほしさに反歌恋しくは来ても見よかし ちはやぶる神のいさなむ道ならなくに作者不詳『伊勢物語』より(伊勢神宮の)恐れ多い神域の垣根も越えてしまうでしょう。恋しいあなたに会いたい一心で。恋しいとお思いなら来てみなさいませ。(恋の道は)恐れ多い神様の諫める道ではないのですから。註NHK大河ドラマ『光る君へ』(2月11日・18日放送分の、いずれも重要なラストシーン)で、若き藤原道長がまひろ(若き紫式部)に贈った玉梓(たまずさ、今でいうラブレターに相当する和歌)として登場。実際には、当時の身分や男女の懸隔もあり、この時点ではまずありえない展開だが、のちのちこの二人の間には恋愛感情が存在したとも思われるので、なかなか面白い伏線となった。伊勢物語の原作では、女が男に贈った歌と、それに男が返した設定。ちはやぶる:「神」に掛かる枕詞(まくらことば)。語源は「逸早振る(いちはやふる)」といわれ、極めて激しく振る舞うものの意味。「神が鳴る」のが「かみなり(雷)」である。神の化身が、「大口の真神(まがみ)」、狼(おおかみ)である。また、「くま(熊)」も「かみ(上古語かむ)」と語源的関係があるという説がある。世界の多くの民族宗教に見られる通り、神の原初的イメージは、怒り荒れ狂う恐るべき絶対者だった。斎垣いがき:神社などの神域を囲む垣根。「斎い」は「斎宮(いつきのみや、さいぐう)」の造語成分でもあり、おそらく動詞「忌む」と同根か。